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何事も、始めが肝心。~文壇カフェ・たまご 第一話

      2017/06/07

第一話 何事も、始めが肝心。

cafetama

こんにちは、また会いましたね。さては貴方もこの店をなかなか気に入ったクチですか?
ふふふ、照れなくたっていいのに。ほら、座って座って。

いい匂いがするでしょう? オーダーしてから暫く経ってるから、もうすぐできる頃ですよ。
私の大好物の、ハムエッグ・エッグ抜き。詰まる所厚切りハムのソテーという奴です。やっぱり人間、肉を食べなきゃ元気が出ませんから。
貴方もいかがですか? この店オリジナルのハムがなかなかいい味を出していて……え? そんなことどうでもいい? こりゃあまた失礼致しました。

私って結構能天気だから、悩みなんて無いように見えるでしょう?
それが実は、今盛大にけつまづいておりまして。
え? 勿論執筆に関してですよ。これでも一応、「たまご」の端くれですからね。

今度の公募用新作、あらすじも登場人物の設定も決めて、いざ書き出そうってパソコンに向かったはいいんですけどね。これが一文字も進まなくて。昨日一日を棒に振ってしまったんですよ。そういうことって無いですか?

実は私、かねてから交流のある企業さんが主催している「小説家養成講座」という所に通っているんですよ。
そして何と! すばる文学賞を受賞してデビューされた花巻かおり先生に師事しているのです。ふふふ、いいでしょう?
いやいや、別にただの自慢って訳じゃなくてね。
その講座の時に花巻先生が教えて下さったのは、「とにもかくにも書き出しが命」ということなんです。
そう思うと、妙に緊張して筆が進まないというか、指がカチンコチンに固まってしまうというか……なかなか難しいですね。

そもそも後世に残る優れた文学作品というのは、書き出しからして飛び抜けているというのが先生と私の持論なんですよ。
例えば夏目漱石の「こころ」。

『私はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚る遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。』

どうですか? ぐぐっと心が掴まれる感じ、しません?
私は宮沢賢治も大好きなんですけれど、特に「銀河鉄道の夜」の書き出しは痺れます。

『「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指しながら、みんなに問をかけました。』

先生曰く、良い書き出しというのは「キャッチーであること」以外にいくつかの「条件」を満たしていなくてはならないのだそうです。
それは「物語のテーマに沿っていること」。そして、「結末と繋がっていること」。
「こころ」の書き出しも、「銀河鉄道の夜」の書き出しも、その話のテーマと密接に関わっているでしょう?
ただキャッチ―で格好良い言葉が並んでいるだけでは駄目なんですって。これには私も目から鱗でした。

さて。それではここで悪い例を一つ。
以前私が「銀河鉄道の夜」をモチーフに近未来SFを書いた時の初稿。
その名も「仮想銀河の夜は明けない」です。本当はちょっと恥ずかしいんですけど、まぁ反面教師って奴にしてくれれば私も本望ですからね。ほら、いきますよ。

『人工の光というものが、どうもハルカは好きではなかった。何だかいやに白っぽくて、目的の為だけに慇懃無礼にそこいらを照らしている感じがする。だから手元で無機質に光る個人用学習端末の点滅から逃れるように、授業中はいつもこうして窓の外を眺めていた。』

これが駄目な例なんですけど。さて、一体全体どこが駄目なんだと思います?
私が目の前に居るからって遠慮はいりませんよ。ズバズバズバッと言っちゃって下さい!

うんうん。確かに、単語の選び方なんかは幾分それっぽいですよね。
ちょっと格好良さげな響きのものを並べて、「ハルカ」という主人公の様子を書き出している。

でもね、私の考える「この書き出しの決定的に駄目な所」は、「ハルカが人工の光が好きではない、という設定が物語の根幹に関わっているわけではない」というところなんです。
実はこの物語には、心を閉ざした少年ハルカが改めて家族と向き合う中で、その愛情に気付いていくという「柱」があります。
それに「人口の光云々」は、大して関係無いんですよね。
先生の言葉を聞いてから読み返してみてハッとしました。「やっちまった!」って。

勿論、この点以外にも直した方がいい所、そぐわない単語、色々あると思うんですけどね。
……あー。その目、何か言いたげだなー。
もうっ!勿体つけないで教えて下さいよ~!

――ちなみに私はこの初稿を完全にボツにしましてね。
構成からタイトルから全て変えて「ハロー・マイ・ロンリー・プラネット」っていう作品に仕上げました。
え? それは一体全体どんな風になったんだって?
――今二次審査の結果待ちなんですよ!
入賞したら本になるから、そうしたら貴方にも差し上げます。
駄目だったら……反省会、付き合ってくれますよね?!
原稿全部持ってくるから、けちょんけちょんに駄目出し、頼みますよ!

まぁそんなこんなで、今はこうやって書き出しに頭を悩ませているわけなんですけれど……まぁ、腹が減っては戦はできぬ、ってね。
とりあえず私はマスターのほかほか厚切りハムを……って、え?! もうとっくに焼き上がってる?!
あ~、もう! ちょっと冷めちゃったじゃないですかぁ! できたなら教えて下さいよ!!
まぁ、確かに私はヒートアップしてる時に話しかけられてもまるで聞いちゃあいないんですけどね。
もう、こうなったらヤケ食いですよ!
マスター、ハムもう一枚追加お願いします! 極厚で頼みますよ。
大丈夫、絶対に完食します。何せ今日は助っ人がいますから。
貴方、お肉好きでしょう? 好きですよね? 嫌いとは言わせません!
ノルマは三分の二で頼みますよ! 何せこっちはか弱い乙女なんですからね!

雑談ノート

「文壇カフェ・たまご」は小説家のたまごの憩いの場です。あなたの意見、感想、問題提起……勿論ただの世間話でも結構です。どうぞお気軽にメッセージを残していって下さい。すべてに目を通し、お返事させていただきます。徒川ニナ

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Comment

  1. こんにちは!初カキコです!!
    小説は書き出しが肝心とは聞いていましたが、物語の本筋に関わってくるものが望ましいとは初めて知りました。私はいつもキャッチーな文句が思いつけばそれでオッケーと思っておりましたので……非常に勉強になります!

    ところで、このカフェのメニューには何がありますか?私は温かいカフェオレと出来たてのフレンチトーストが食べたい気分です。

  2. 徒川ニナ より:

    彩葉さん、いらっしゃいませ!こちらでもお話することができて嬉しいです。

    書き出しの肝については私も言われるまであまり意識したことが無くて、「格好良くてそれっぽい言葉を何となく」置いていたので、新しい判断基準ができたことをとても喜ばしく思っています。

    自分では今までそれなりに文章を書いてきたつもりでいたのですが、知らないことやわかっていないことって実はすごくいっぱいあって、そういうものに出会う度に「難しい世界だなぁ」と思い知らされます。

    そして知らなかったもの・ことを見つける度に迸るぞくぞくするような快感……たまりません!
    一緒にこれからもそういう出会いを発掘していきたいですね!

    カフェオレ、とっても美味しいのありますよ!
    ただごめんなさい。フレンチトーストはないんです……。
    というのもこのお店、卵とチキンを使った料理はNGでして……ほら、何ていうんですか?こう、共食いみたいな?感じになっちゃうからって、マスターが……。

    でも、そんな彩葉さんには、私のイチオシ「ハニーシュガートースト」をおすすめしておきますね!
    ハチミツと砂糖の甘さが、きゅーんとお腹にきますよ!
    癒しの糖分でもれなく脳も活性化しますから、予想以上に筆が進むかも?
    もし食べてみたら、今度感想聞かせて下さい!
    私もカフェオレとトーストを頂いたら、執筆に戻ります。
    お互い頑張りましょうね。それでは。

    徒川 ニナ

  3.  初めまして。まず、女性と思わないで読んでいました。失礼しました。
    老後の趣味にしようと小説を書く練習中です。それはたくさんの人に読んで欲しいとは思いますが、まずは一作品書き上げる事が目標。
     なのですが、ここ数ヶ月悩んでいる事があります。
    昔から小説には最低二つの柱が必要だと感じています。
    キャラクタの設定、言葉、情景、経済状態。そして目的。
    書きたいシーンも思いつくようになりました。それをつなげていけば、お話にな・・・
    ならないのです。
     テーマ、あるいはジャンルなのかもしれません。恋愛を描くのか、シリアスなのか、ギャグなのか。自分が何を書きたいのか、見えてこないのです。
    書けないわけではないのです。自分で思いつかないという状態です。
    人から与えてもらった話は書いてしまったので。
     どうやって、皆さんはテーマを設定するのでしょうか?
    「自分が書きたいものを書けばいい」
    そのとおりです。ですが、これを自問していくと、
    「書けないのは書きたいことがないからだ」という答えになってしまうのです。
     テーマはどのくらい、細かく設定するのでしょうか。
    恋愛、ぐらいですか? それとも、「青春時代に誰もがあこがれ、経験したいと望みつつも、結局経験できなかった、甘酸っぱい恋愛で、最後は死んじゃって主人公が涙を流すところ」なんて細かく設定するのでしょうか?
     また、今日も一文字も書かないで終わりそうです。資料だけはたまっていくのですが。

     というわけで、ブラックのコーヒーとバター少量のトーストでお願いします。
    では。

  4. 徒川ニナ より:

    どりさん、いらっしゃいませ。
    いえいえ、お気になさらないで下さい。普段から割と男勝りですので。

    一作品を最後まで書き上げること。
    それって、簡単なようでいて実はとても難しいですよね。
    イチとゼロに分類してしまうのも気が引けますが、実際問題物語を完結させたことが「ある」か「ない」かは、とても大きな違いでしょう。

    設定などの細かい部分は、割と固まってきているご様子。
    書きたいシーンもある。
    しかしそれをつなげていっても小説にならない……。
    うーん、耳が痛いですね。私もよくあります。そういうこと。

    私の場合は、そういう時って「書きたいシーンA」と「書きたいシーンB」の「演者」が違うんですよね。
    Aの状況が生きるのは気弱な主人公なのに、シーンBの主人公はどことなく強気な感じ。
    そのシーンで「生きている」「呼吸をしている」のは別の人間なのに、無理矢理同じ「演者」にやらせようとしているんです。

    私は現在、「書きたいシーンを繋ぐ」ことではなく、「書きたいシーンを絞る」ことでそれに対応する、という方法をとっています。
    って、ここから色々説明しようとしたんですけど……。

    ――うーん、なかなか難しいなぁ……。
    少ーしだけ、考えさせて頂いてもいいですか?
    ちゃんと私なりの考えをお伝えできるように、無い知恵を絞ってみます。

    そうだ!私もブラックでコーヒーを飲んだら、少し頭が活性化するかも!!
    願わくば、今度はどりさんと一緒にカップを傾けることができますように。

  5. ありがとうございます。
    小説投稿サイトは多いのですが、こうやってグチみたいなことをいえるところは少ないので。反応があるところはもっと少ないですが(笑
    そうですね。今朝はコーヒーよりカフェオレにします。ちょっとゆったり気分で。

  6. 徒川ニナ より:

    どりさん、いらっしゃいませ。

    言いたいことを言える所って、意外と少ないですよね。
    それを聞いて反応がもらえるのがもっと貴重というのも、実感としてすごくよくわかります。

    今日、私もカフェオレを飲みながらどりさんに言われたことをもう一度考えてみました。
    うまいお返事になっていなくて申し訳無いのですが……。
    もっと色々なひとに、この問題について聞いてみたいと思っています。

    今日はゆっくり眠れるように、ホットミルクにしようと思います。
    どりさんも、どうぞごゆっくり。

    徒川 ニナ

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