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【たまごライター彩葉の挑戦】ひたすらバナナを食べなさい。

      2015/06/12

たまごライター彩葉の挑戦

様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは)さんが失敗を覚悟で挑戦し続けるコーナーです。(過去の挑戦一覧

今回の挑戦状は、こちら。

『ひたすらバナナを食べなさい。』

彩葉の解答

カフェ・バナナの優雅な午後

「店長、今日も新鮮なバナナが送られてきましたよ」
白い口髭を生やした五十代半ばの紳士的なウエイターが、バナナを輪切りにしたものを皿の上に丁寧に並べた。
使われる皿は清潔感溢れる見事に真っ白な私の専用品。そこに乗せられたバナナもまたどこか高級さを醸し出しているように思えた。
「どうぞ、味見を」
恭しく礼をされ見守られる中、私は彼の意に沿うようにバナナを食した。
やはり絶妙な甘さだ。口に絡みつくこともないが、かといって風味がすっと消えてしまうこともない。この店が出来るまで様々なバナナを食してきたが、やはりこのバナナが一番 だ。
このウエイターは一体どこからバナナを調達してくるのか……実のところ私は聞いたことがない。
恥ずかしながら、私はただバナナ通というだけでこの店の店長をやっているだけに過ぎない。つまり、名ばかりの店長だ。
店の管理はこのウエイターがするし、調理は専門学校の調理科を卒業した少女が一人で行っている。名の知れた専門学校らしいが、大手企業には何かトラウマがあるそうで、このこじんまりとした店を気に入っているそうだ。
かくいう私には資格というものも何もない。
私の仕事はこうしてバナナの味見をしたり、ぼんやりと入ってくる客を眺めるのみなのだ。
ろくでもない店長である。が、しかし私は本当に何もできないのだから仕方がない。
「本日もありがとうござい ます」
私はバナナを食した感想について彼に何も告げなかったが、表情を見て納得したのか、ウエイターは再び頭を下げた。
「今日も良い午後のひと時になりそうですね」
日は真上から少し西に傾きかけたところだ。その頃になってやっとウエイターは店を開ける準備をする。
この店の営業時間は午後二時から四時にかけて。丁度おやつ時間のみなのだ。

「お、遅れました!」
ウエイターが開けようとした扉が大きく開け放たれる。
肩で大きく息をしている、茶髪で細身の少女が立っていた。
「大丈夫、二時まであと三分はあるよ」
ウエイターの一言で彼女は息を整えつつ少しばかり安心した表情になって
「流石あたし」
とガッツポーズをしたが、
「ただ君が着替えている 間に三分は余裕でたってしまうだろうが」
「う……あああっ 今着替えますから!」
結局慌てて店の裏へと入っていった。
彼女の名前はミサという。最近入ったアルバイターだ。抜けている面もあるが、根は真面目で一生懸命接客をする姿は見ていて微笑ましい。
そうだ、私の仕事の一つにアルバイトの採用試験官というものがあった。
私の眼鏡に適わない人材はこの店には入れない。調理師とこのウエイターは初期メンバーの正社員だが、それ以外のアルバイターは私が直々に審査する。
どんな審査か? それは企業秘密だ。少なくとも怪しげなことをやっているわけではないことはご理解いただきたい。このウエイターも隣に立って審査を見守っているのだからそれは証明される。

「 だ、大学の講義が長引いちゃって! いやあ、先生の話は長いんですよ。午前の授業なのに危うく午後に侵入しそうな勢いでした。え? 昼ご飯? 授業の後に食堂で食べてきましたけど……はい、友達とお喋りしつつ……ってああっ」
自ら墓穴を掘ったミサは項垂れつつ布巾でテーブルを拭き始める。まだブツブツと呟いているが拭き方は丁寧だ。
彼女は火、金の週二回勤務だが、月、水、木の週三回勤務のカオリはもっと拭き方は雑だ。もっとも彼女は彼女でいいところがあるから一概に彼女が悪いわけではない。休日勤務で主婦も兼ねるミナコは接客も掃除も丁寧なものだが、こちらは少々店長に対する態度がなっていない。別にそれくらい私はどうこう言わないが、バナナばかりでは身体を壊すといっ てお気に入りの皿をレタスやらコーンやら様々なもので鮮やかに彩られたことは大変遺憾であった。今思うとあれは彼女なりのジョークだったのかもしれない。

「あ、いらっしゃいませ!」
扉が開くとともにカラリカラリと鈴の鳴る音がする。それと共にミサが声を上げた。
ふむ……見たことがない顔だ。どうやらこの店の噂を聞きつけてやって来たらしい。
「うわあ……本当に一面黄色だ」
壁を見た一人がそう言ってぐるりと店舗内部を見渡す。
その通り。壁紙は全て黄色をチョイスし、その他机やいす、鉢植えなどの小物類もできるだけ黄色に近い色が選ばれている。
ここは『カフェ・バナナ』なのだから、そのくらいしなければ。

「店員さん、店員さん、ここのお店って バナナ料理しか出さないって聞いたんだけど本当?」
「はい。当店のメニューはこちらになっておりますが、全商品バナナを使用しております」
ミサが完璧な営業スマイルでメニューを開いた。
「あ、こちらのお席におかけしてごゆっくりご覧ください」
そのまま、客を席に誘導する。
「へえ……バナナパフェに、バナナケーキ、バナナ揚げ、バナナのはちみつ漬け、バナナ春巻き、バナナジュース……バナナ単品でも売っているんだ」
「今明らかにおかしなの入らなかった?」
「バナナ春巻き?」
「いや、バナナのはちみつ漬けの方。バナナ春巻きはうちのお母さんが作ったこともある。でもこの時間はきついなあ」
客が物珍しげにバナナ料理しか載らないメニューを見る。
「このバナ ナパフェってのはバナナ以外の果物は入っていないの?」
「はい! バナナを使用したバナナフレークの上に当店オリジナルのバナナソースをかけ、ヨーグルトを乗せた後、最後にトッピングのバナナを加えます。まあ、ヨーグルトには流石にバナナを使っていないのですが」
ミサがすらすらとメニューの説明をする。彼女も随分と成長をしたものだ。入った当初はろくに喋ることもできず、涙目で年配のウエイターに説明を求めていた。
「じゃあこのバナナジュースは?」
「こちらはバナナと牛乳をミキサーにかけ混ぜ合わせたものとなっております。バナナの甘さと牛乳をいれたことにより醸し出される滑らかさが絶妙なバランスを取る当店自慢の一品です」
彼女は自慢の一品だと言い切ったが、 これは単にミサの好みであるだけだ。カオリはバナナケーキをお勧めの一品としていた。こちらもバナナソースと輪切りバナナを存分に使用した贅沢な一品である。因みに私はバナナ単体のみで十分に満足なのだが、客人に出すにはそれだけでは物足りないらしい。残念だ。

「んー……私バナナパフェにしようかな」
「じゃあ私はバナナジュースね」
どうやら客人二人の注文は決まったようだ。
「かしこまりました。ご用意いたしますので少々お待ちください」
とミサが告げて、裏方へと入ってゆく。これくらいならほんの一、二分で準備ができるだろう。
若い二人組に気を取られていたが、入り口付近を見ると常連の老夫婦が揃って座っており紳士風のウエイターが和やかに注文をとって いる。
「はい、いつものバナナのはちみつ漬けですね」
「お願いねえ」
バナナのはちみつ漬けは私も一度口にしたことがあるが、甘ったるくてたまったものではなかった。が、変わりもの好きはいるものだ。はちみつに浸したバナナを取り出し、盛り付けたその上からさらにはちみつをかける。
味覚がどうにかなってしまいそうだ。その前にバナナがはちみつによりふやけてしまいろくな食感がしなさそうだ。

「あ、見て見てあれ」
未だキョロキョロと店内を見渡していた若い二人組の片方がもう一人に注意を促すした。
「え?」
「あそこ、鳥がいる!」
「ほんとだ……オカメインコだね」
「可愛い。黄色くてバナナみたい」
「看板娘ならぬ看板犬ならぬ看板鳥的な?」
可 愛い可愛いと騒ぎ出す二人。そんなに物珍しいだろうか。
それに看板鳥などという表現は正しくない。これこそ遺憾である。
注文を取り終えたウエイターが見かねたのか二人に話しかけた。
「いいえ、お二人方、よく見てください」
彼は鳥かごにかけられているプレートを指さした。
アンティークの木で作られた鳥かごに似合うプレートは店の開店と同時に彼が用意してくれたものだ。
私は字を読むことができないが、いい匂いもするためかなり気に入っている。

「なんか書いてある……」
「え?」
「て……店長……? 店長って……」
「ええっこの鳥この店の店長なの?」

私はくちばしで依然味見用のバナナをついばみ続けつつ、驚愕する二人の客人を見ていた。後 ろの老夫婦は和やかな表情で「店長さん今日も調子がいいようで何よりです」なんて声をかけてくる。
「そうです、この鳥は私たちの自慢の店長です。私は鳥かごの掃除が上手だったことから店長に懐か……認められてここのバイトになれました」
商品を運んできたミサが得意げにそう語る。それは企業秘密のはずだったのだが堂々と漏らしてきた。
「へえ……鳥が店長の店か」
「あ、バナナジュースおいしい!」
「こっちも! ねえ、ねえまた来ようよ」
「うん」
おっと、常連客を再び得たようだ。反応はあまりいいものではなかったが結果オーライとでもいえるのか。
「店長、今日もお手柄です」
店の経営も商品の仕入れも全てを手掛けるウエイターが私にそう声をかけた。
私は終始 与えられたバナナを食べ続けていただけだ。だがそう言われるのであれば鼻を高くして受け取ろう。

それにしても……そろそろ水が飲みたいものだ。

彩葉のあとがき

『カフェ・バナナ』の店長さんは今日もバナナを食べ続けながら客人の会話を微笑ましく見守るのです。

どこかで聞いた響きだと思ったら『文豪カフェ・たまご』ってものがこのサイト上にありましたね。失念していました。
しかもそこの店長さんもまた鳥であると聞く……書き終わってからしまった、と思いましたが鳥がくちばしでバナナをつついている様子って可愛いので良しとしましょうよ。というより私の友人がオカメインコを飼っていてですね、作品に出してほしいと のことでして。黄色くて、確かにバナナに見えなくもないですね。

私もこんなカフェで働きたい! 雇って欲しいです店長!
さてさて、次のお題は何かな~

たまごライター:彩葉
writer_iroha_100文字を書くことが生きがいの、未熟で未熟な小説家のたまご。新しいことにどんどん挑戦したい。依頼はいつでも受付中。現在は主に「pixiv」と「小説家になろう」にて小説を書いております。Twitter:@kotonoha_hutaba

挑戦状

次回の挑戦状は、こちら。

『両親へ捧げる小説を書きなさい。にわとり』(3000文字)
*彩葉さんもここで内容を初めて知ります

新しい挑戦状も、随時募集いたします。この企画の記事にコメントをいただくか、Twitterでハッシュタグ #たまごライター彩葉に挑戦状 をつけてツイートしてください。採用させていただいた場合は、お名前も併記いたします。

彩葉さんの解答が公開されるタイミングで、次回の挑戦状の内容を発表いたします。

読者が彩葉さんと同じテーマで挑戦するスピンオフ企画「たまごライター彩葉に挑戦」も合わせてお楽しみください。

また、彩葉さんの解答に対する感想や、あなたなりの解答があれば、お気軽にコメントいただければ幸いです。

 - たまごライター彩葉の挑戦 ,

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