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【たまごライター彩葉の挑戦】一円に泣かされなさい

      2017/02/13

たまごライター彩葉の挑戦

様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは)さんが失敗を覚悟で挑戦し続けるコーナーです。(過去の挑戦一覧

今回の挑戦状は、こちら。

『一円に泣かされなさい』

彩葉の解答

一円と涙

一円を笑う者は一円に泣くというのは私の座右の銘で、ケチっぽいと言われるほど、私はお金を大事に生きてきた。
と、いうのも私の家庭は母子家庭であり、母のパートの収入だけで母と私と妹の三人で細々と生活しなければならないためだ。高校には奨学金を使って通っているが、食費や定期代などこまごまとしたお金は必要で、アルバイトをしてお金をためながら、なんとか生活をしていた。まあつまり私は貧乏人というわけだ。がめついだと かケチだとか言われても関係ない。私の頭の中は金という言葉が半分を占めている。自分でそう断言することができる。
そんな私が今……何故か男子に告白されている。

「え……?」
校舎裏というシチュエーションとしてはありがちなところへ呼び出され、一体なんの話だとびくびくしながら向かったらなんとも予想し難いことが起きてしまった。
「僕は町田さんのことが好きです。僕と付き合ってください」
そういって深々と頭を下げるのはクラスメイトの諏訪くん。清潔そうな短髪に、端正な顔立ち。たしかサッカー部のエースだったはずで、体格はがっしりとしている。そんな彼が、私に頭を下げている。
あまりにも釣り合わない要素が多くて理解に苦しむが、驚く一番の理由 は、彼が学校一金持ちの家の息子だということにある。彼の父は輸送機器に欠かせない重要部品を取り扱う企業の代表取締役会長であるらしく、この田舎町には似つかわしくない立派な大豪邸に住んでいる。この周辺で彼の家庭を知らない者などいない。
「まって……なんで、私?」
率直な感想が漏れてしまう。さあっと吹いてきた心地いい秋風に彼の前髪が揺れ、少し悲壮感を漂わせた顔をよく見せる。思わず後ずさりをすると、足元に散らばった紅葉がカサリと音を立てた。
「だって……私貧乏人で、ケチで、がめつくて……」
「家計を助けようとアルバイトをして、一生懸命真面目にお金を貯めている姿にひかれたんだ」
ほぼ言葉の裏を取られた。
「ひ、必要にかられているだけだから……」

「羨ましいんだ」
「え?」
「僕は、生まれつきそうやって何かに執着することができなかったから」
いや……いやいやいや。私からすれば、それは手に入れたくても手に入れられない羨ましくてしかたがないことだ。お金に困らない生活というものを一度でいいからしてみたいものだ。私の生活を羨ましいと言われてしまっては元も子もない。そんなの、金持ちの贅沢だ。
「生まれてから今まで何でも与えられてきた。玩具だって服だって、満足な学習用具も、運動器具も、全部……一度でも欲しいと口にしたら、いつの間にかそこにあるような人生を送ってきた」
それは、単なる自慢話だとしか思えない。
乾いた空気に吐息が零れる。駄目だ、どう考えても私とは釣り合わない。相手の立場が高 すぎる。
「ごめんなさい」
私は丁寧に頭を下げた。彼に私は勿体ない。というか、私が彼についていける気がしない。
一瞬彼と付き合えばお金には困らないのではないかという悪魔の囁きが聞こえたが、そんなものには乗らない。今の私に大金を与えては確実にダメになってしまうだろうから。やっぱり、コツコツでいいのだ。
「……そっか」
彼は下を向いて悲しそうな顔をした。そんな顔をされても私はなびかない。全く心を動かされない。そう思って姿勢を崩さずにいると、彼はふと顔を上げ
「僕が貧乏になればいい?」
と口にしてきた。
「え?」
「いや、僕が金持ちだから町田さんと釣り合わないんでしょ? だったら僕が貧乏になれば……」
「贅沢ないこと言わないで!」
つい、口調がきつくなってしまった。でも、それはあまりにも贅沢すぎる。
お金があるのに『あえて』使わないなんて。貧乏人を馬鹿にするにも程がある。
「でも、まあ……」
彼が必死にアプローチしようとしていることは分かっている。冷たく門前払いというのも悪いような気がしてきた。
「一円を笑う者は一円に泣く」
「え?」
「それが、私の教訓。まあ、座右の銘? ってやつかな。お金を湯水のように使わないで、一円一円を大切に使うことを心がけて。コンビニのおにぎりは一番安い塩にぎり。スーパーの惣菜は半額になったタイミングで買う。クーポンはどんなときでも必ず手に入れて持ち歩く。服は季節がずれたものを来年のために買う。あと……自販機の小銭が出てくるところは毎 日チェックしてる……私は、そうやって生活している」
本当はもっと細かく、沢山の項目がある。でも、これだけ並べただけでもドン引きされること間違いないだろう……そう思っていると、彼は目を輝かせて私を見ていた。
「そんなにいろいろ考えて生きているなんて……やっぱり町田さんは凄い」
「す、諏訪くん?」
「一円を笑うものは一円に泣く……だね。肝に銘じておくよ。それで、僕が町田さんに追い付いた時に再チャレンジするから!」
最初のおとなしさはどこへやら、早口にそうまくしたてた諏訪くんは、落ち葉をサカサカと踏みながら去っていってしまった。
呆気にとられた私の頭上には赤みがかった空が広がる。いけない、タイムバーゲンがはじまってしまう……帰らなければ。

_ _ _

それから数か月が経った。
諏訪くんは私への宣言を守っていた。購買では一番安いたまごサンドを買うし、飲み物もコンビニで八十八円で売っている水を買う。間違っても自販機の缶コーヒーやジュースには手を出さない。あれは高いから、賢明な判断だ。友達から金を貸してと言われても絶対にあげない。諏訪はケチになった、父親が破産したのではないか? と噂も経ったが、彼の父の企業の成果が順調であることは、この前もニュースでやっていた。
問題は彼が定期的に私の元へ来て自分の節約生活を嬉しそうに報告してくることだ。屈託ない笑顔で報告して来る彼を見て感じたことは一つ……彼は多分、とてつもなく馬鹿だということだ。
いつものように彼 に「まだまだだ」だとか適当に言った帰り道。今日は天気予報の通りにぱらぱらと雪が舞っていた。
ふと車道を挟んだ向こう側を見ると、彼は手に息を吐きかけて温めながら歩いていた。カイロという消耗品は使わない。賢明な判断だ。しかし、傘さえ持っていないのはどういうことだ。ちゃんと天気予報を見ていないのだろうか……私が今使っている使い古したビニール傘も、二人が入る程度の大きさはある。申し訳なさ半分で傘の柄を一度強く握りしめ、横断歩道を渡って彼の元へ駆け寄ろうとしたその時だった。

諏訪くんは、突然車道に飛び出した。
何の脈略もなく。
前方からトラックが走ってくることにも気づかない様子で。

雪のため、トラックにブレーキがか かるのが遅れたのかもしれない。キイイイイという悲鳴のようなブレーキの音とドンという鈍い音が重なった。
彼の身体が宙に浮く……その一瞬の光景を、私は目の前で見てしまった。
一体何が起きたのか、何度考えても理解できない。貧乏生活を目指すのはいいが、自らの命を投げ出せなんて言った覚えはない。
私は慌てて彼にかけよった。トラックの運転手は慌てて救急車を呼んでいるようだった。
白い雪が血で染まる。まるで、牡丹の花が咲いているかのように。
使い古したビニール傘を投げ飛ばし、血を流す彼の頭部の近くにしゃがみ込む。
「諏訪くん、一体何が……」
そんな問い掛けより頭を高くしたり処置をしなければいけないことはあるのかもしれないけれど頭が回らない。今の私 は状況を把握したいという思いだけで精いっぱいだ。
「これ」
彼は擦れた短い言葉を吐き出して、自分の右手を私に近づけた。
そこには、きらりと光る小さな物体がある。雪とは違う、銀色の丸。
それは紛れもなく、よく見慣れた、一円玉だった。

「ば……か……」
車道に一円玉が落ちていたから左右も確認せず拾いに行ったらしい。
いくら貧乏でケチが代名詞のような私でも、そこまでしない……この人は馬鹿だ。私に恋した時点で分かっていたけど、救いようのない馬鹿だ。
白い雪の上に咲いた真っ赤な牡丹に涙の雨が降り注ぐ。
「馬鹿あああああ」
お尻が濡れることも気にせずその場に座り込み、救急車が来るまでのその間、私は一円玉を持った諏訪くんの手を握りしめて泣きじゃくった。

_ _ _
その後諏訪くんは意識を取り戻したが、私はこの馬鹿のために自分の座右の銘を取り消さざるを得なかった。

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彩葉のあとがき

一億円を使い切りなさいというお題の次にきたのが一円に泣かされなさい……なかなかのセンスではないですか。
今回は一円を大事にするあまり一円に泣かされてしまったちょっぴり馬鹿な二人組の話。
前回と今回、喜劇と名を付けるならばどちらになるのだか微妙なところでしょう。

しっかしこれはもうお金続きのシリーズものと化しそうですよね。次は『アルバイトをしなさい』とかきたりして。
なーんて予想をしつつ。

さてさて、次のお題は何かな~

たまごライター:彩葉
<img style="float: left; margin-right: 12px;" src="http://xn--38jva8b9cv681aipal42x best online project management.com/wp-content/uploads/tw/writer_iroha_100.jpg” alt=”writer_iroha_100″ width=”100″ height=”100″ />文字を書くことが生きがいの、未熟で未熟な小説家のたまご。新しいことにどんどん挑戦したい。依頼はいつでも受付中。現在は主に「pixiv」と「小説家になろう」にて小説を書いております。Twitter:@kotonoha_hutaba

挑戦状

次回の挑戦状は、こちら。

『悪徳商売に手を染めなさい』(3000文字)
*彩葉さんもここで内容を初めて知ります

新しい挑戦状も、随時募集いたします。この企画の記事にコメントをいただくか、Twitterでハッシュタグ #たまごライター彩葉に挑戦状 をつけてツイートしてください。採用させていただいた場合は、お名前も併記いたします。

彩葉さんの解答が公開されるタイミングで、次回の挑戦状の内容を発表いたします。

読者が彩葉さんと同じテーマで挑戦するスピンオフ企画「たまごライター彩葉に挑戦」も合わせてお楽しみください。

また、彩葉さんの解答に対する感想や、あなたなりの解答があれば、お気軽にコメントいただければ幸いです。

 - たまごライター彩葉の挑戦 ,

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