小説家のたまご

未来の小説家=小説家のたまごを応援するサイトです。

*

【たまごライター彩葉の挑戦】地元をPRしなさい

      2016/04/04

たまごライター彩葉の挑戦

様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは)さんが失敗を覚悟で挑戦し続けるコーナーです。(過去の挑戦一覧

今回の挑戦状は、こちら。

『地元をPRしなさい』

彩葉の解答

宿題

娘が涙を浮かべて学校から帰ってきたのを見るのは初めてのことだった。
「どうしたの? 紗良」
ランドセルの肩の部分をぎゅっと握りしめ、口を固く結んで必死に涙を堪えようとしている。しかし、私の姿を見たせいか、ぽたり、またぽたりとついに涙を零し始めた。
「……やだ」
「何が嫌だったの?」
しゃがんで目を合わせながら問い尋ねると、紗良はふるふると首を横に振った。その振動で頭に被っていた黄色い帽子が外れ、首にかけたゴムで後ろに吊られる形になってしまった。
私は家計簿をつけていた手を止めソファーに座り、紗良に隣に座るように促す。
この子は変なところで内向的だから、うまいこと聞きださなければならない。
「……総合の授業でね、この町のいいところをPRするっていう宿題が出たの」
擦れた声でそう言って、紗良はまた涙を零す。
それが何故泣く理由になるのか……少し悩んだが、すぐに原因が分かった。
「いいところなんて、私には、わかんない」

私たちは半年前まで夫の両親と同居をしていた。しかし、夫の転勤と、折角だから一軒家を買おうという発案で、このQ市に引っ越してきたのだ。
だから、紗良はまだこの町について詳しくは知らない。学区のいいところなど、まだ分かるはずがないのだ。
「私は……P町の方が好き。P町の方がここよりずっといい」
「そっか」
P町は私たちが元々住んでいた町だ。私は外から嫁いできた身だけれど、紗良にとってはP町が故郷。たった十年ほどしか暮らしていなくても、一番思い入れが強い土地なのだろう。
「でも、紗良は少なくても高校を卒業するまではQ市で暮らすことになるのよ? Q市のいいところを見つけてみるってのもいいと思わない?」
「嫌だ!」
キッと睨まれる。これは、なかなか強情だ。
「ねえお母さん、勝負しようよ!」
「勝負?」
「うん」
ぽんぽんと紗良の髪を撫でようとするとその手を強く跳ねのけられた。
「お母さんは今からQ市のいいところを沢山言って。私はそれに対抗してP町のいいところを沢山言うから」
そこまでしてQ市を否定したいか。
まあいい。ちょっとだけ娘に付き合ってみよう。
私が溜息を吐くと、紗良はぷうっと頬を膨らませた。可愛い奴め。

「んー、Q市には大きな総合公園があるわよね。総合公園には大きなハイキングコースがあって、秋になるとその道が一面紅葉で彩られることで有名らしいのよ」
「P町の、私が住んでた学区の神社の紅葉だってすごいよ! 他のところより葉っぱが大きいし、神社の鳥居と紅葉が重なるととってもきれいなんだから!」
「じゃあ、名産品なんてどう? Q市はお酒が有名なのよ」
「P町は海があるから、海産物がたっくさん取れるんだよ。あさりだって取れるんだから!」
「んー、じゃあ、Q市には大きなショッピングモールがあるよね。大きいから市街からも人が来るんだとか」
「P町の商店街の人たちはみんな親切ですっごくいいところなんだよ!」
「Q市は防犯意識が高いから夜も暗い道をあまり作らないようにしているんですって。すごいよね」
「P町は毎月火の用心って言いながら町をねり歩く伝統があるもん。火災予防はばっちりだもん」

うん、なかなかいい勝負。というより、Q市が推し負けそうだ。
紗良はただ我儘を言っているだけではない。本当にP町のことが大好きで、P町のことをよく知っている。
このまま紗良の純粋な感情を潰してしまうのはよくない。P町への愛は大事にしてあげたい。
どうしたものかと悩んでいると、ふいに紗良がにやりと笑った。
自分の娘だとは思えない程の不敵な笑みだ。

「お母さん、今お母さんが言ったことを書けば宿題は完璧だね!」
確かに、私は今散々Q市のPRをしてしまった。この娘、さては謀ったな。
まったく……先ほどまでの涙はどこへいったのやら。
策略なのか今思いついたのかは分からないけれど、なかなかずる賢く育ったものだ。
「はいはい、カンニングは禁止」
「お母さんが勝手にしゃべったからいいんだもんっ」
溜息をついて私は再び家計簿に取り掛かる。
これが終わったら夕食を作ろう。今日は紗良が好きなあさりの味噌汁だ。

彩葉のあとがき

私は小学生時代、一度だけ転校を経験しました。
小さな町から都会に出て、それからは今もずっと同じ場所で生活しているけれど、やっぱり私の地元と言えば幼い頃自分が住んでいた町なんですよ。
見渡す限り田んぼしかないような田舎町だったのですが、カエルや亀なんかが普通に生息していて、おじいちゃんの畑ではいろんな食べ物が収穫できて、餅投げや盆踊りなんかの行事があって、毎日豆腐屋さんが家の前を通って、自由に使える空き地があって……何より、ご近所さんがみんな顔見知りで。温かな場所でした。
その町から離れて久しいけれど、故郷への愛はこれからもきっと薄れないでしょうね……

それでは今回はこの辺で。
さてさて、次のお題は何かな~

たまごライター:彩葉
writer_iroha_100文字を書くことが生きがいの、未熟で未熟な小説家のたまご。新しいことにどんどん挑戦したい。依頼はいつでも受付中。現在は主に「pixiv」と「小説家になろう」にて小説を書いております。Twitter:@kotonoha_hutaba

挑戦状

次回の挑戦状は、こちら。

『読者を困らせなさい』(3000文字)
*彩葉さんもここで内容を初めて知ります

新しい挑戦状も、随時募集いたします。この企画の記事にコメントをいただくか、Twitterでハッシュタグ #たまごライター彩葉に挑戦状 をつけてツイートしてください。採用させていただいた場合は、お名前も併記いたします。

彩葉さんの解答が公開されるタイミングで、次回の挑戦状の内容を発表いたします。

読者が彩葉さんと同じテーマで挑戦するスピンオフ企画「たまごライター彩葉に挑戦」も合わせてお楽しみください。

また、彩葉さんの解答に対する感想や、あなたなりの解答があれば、お気軽にコメントいただければ幸いです。

 - たまごライター彩葉の挑戦

ad pc

ad pc

コメントはお気軽に^^

  関連記事

新企画:たまごライター彩葉の挑戦

今日から始まる新企画は、たまごライター彩葉さんに担当していただきます。 人間とは …

【たまごライター彩葉の挑戦】安っぽい殺人事件を書きなさい。

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

FuLL {{HD©Watch}} The Edge of Seventeen (2016) Watch Online HD1080P

The Edge of Seventeen (2016) English Sub …

【たまごライター彩葉の挑戦】最低5回はループする短編小説を書きなさい

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉さんが失 …

【たまごライター彩葉の挑戦】「手術」「借金」「フェイクファー」で笑える三題噺(さんだいばなし)を書きなさい

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、た …

【たまごライター彩葉の挑戦】主人公の性別を曖昧にしなさい。

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】ひたすらバナナを食べなさい。

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】二人称で書きなさい。

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】超どんでん返しをキメなさい。

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】読者を困らせなさい

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …