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【たまごライター彩葉の挑戦】共作をしなさい

      2017/06/06

たまごライター彩葉の挑戦

様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは)さんが失敗を覚悟で挑戦し続けるコーナーです。(過去の挑戦一覧

今回の挑戦状は、こちら。

『共作をしなさい』

彩葉の解答

カラー

カラー。花言葉は素敵な美しさ。名前の由来はギリシャ語で『美しい』という意味のcallaからきていると言われている。
筒状の花弁は仏炎苞というらしく、中央には苞より短い肉穂花序が突き出ている……

そこまで調べたところでスマートフォンの充電が20パーセントになったという表示が出たので、充電器につないでそのまま寝転がる。
ふすまを閉めた部屋を、時折チカチカと点灯する吊るされた蛍光灯が照らす。日焼けした畳の匂いを吸い込みながら、黄色くくすんだ木の天井を眺めた。

「おい」
と、ふすまの向こうで声がした。
「もうすぐ、夕食の準備ができるってよ」
「さっきお昼食べたばかりなんだけど」
「今、何時だと思っている」
部屋を見渡しても針の止まった掛け時計しかない。スマートフォンで時間を確認すると、もう19時になるところだった。
今行く、とだけ返事をし、隅に寄せられていた来客用の布団に放り投げていたカーディガンを羽織った。
電気の紐を引っ張って明かりを消そうとし、先ほどから何度でも眺めている、壁にかけられた写真に目を向ける。
カチリとあった暗い瞳に胸が高鳴り、私は慌てて部屋を後にした。

葬式に出たのは初めてだった。しかも相手は見ず知らずの人。
一応、父方の祖父の一つ上の兄ということで血縁者ではあるけれど、直接的な関わりなどないのだから赤の他人に等しい。
本来ならば行かないつもりだったのだけれど、大学受験を終えてちょうど暇していたところを父に引っ張ってこられたのだ。
一応その人はうちの本家の主にあたるらしい。
本家なんて言葉が現代社会に存在するとは思っていなかった。私の父と母は一般の会社勤め。祖父でさえ若い時は自動車関係の職について、そこそこの重役までやっていたような根っからのサラリーマンだし。
本家があるのなら、もしかして家紋というものも存在しているのだろうか。よく知らないけれど。

そんなうちの本家とやらは、静岡県の掛川にあって、東京から日帰りで行けない距離ではなかったのだけれど、父が従兄弟たちと久しぶりに語らいたいなどということを言って、結局一泊することになった。
葬式は午前中に終わり、私は築何年なのかはよくわからない古い家の中を見て回った。
洋間が一つであとは畳の部屋と台所。トイレは洋式だけれど多分どこかでリフォームされたのだろう。冷蔵庫やテレビやエアコンなどもやけに新しい。
しかし建物自体はやはり大変古いようで、廊下は軋むし、寝室として用意された二階へ行くための階段は急すぎて手すりなしでは登れない。
二階の部屋の錆びついた窓からは立派な桜の木が見えて、今にもはち切れそうな蕾がいくつも実っていた。

カラー

そんな部屋に、ある一枚の白黒写真が掛けられていた。
軍服を着た男性。切れ長の目をしているが、それが見えるのは左目だけ。右目は髪に隠れてしまい、そちらがどんな形をしているのかは分からない。手にはみたことのない花を抱えており、不健康そうな薄い唇をぎゅっと結んだまま、こちら側をじっと見つめている。その顔はまるで……死んでいるようにも見えた。
いくら見つめても表情は見えない。ただ重苦しい沈黙と対面するだけ。
私はつい気になって、彼が手にしている花の名をスマートフォンで調べた。そしてそれが『カラー』といい、『素敵な美しさ』を花言葉として持つ花だということがわかった。
しかしその写真の人には『素敵』というより『不気味』という言葉の方が似合うような気がした。私はいつの間にかその写真の人物の顔が脳裏にはりついて消えなくなっていた。
夕食の席は葬式の晩というのにやたら賑やかだった。
祖父の兄は癇癪持ちで、晩年はボケも入って介護に手を焼いていたらしく、不謹慎とわかってはいるがどうも彼の死に安心した……と、そういうことらしい。まあ90も超えているし大往生だ、とまとめられて、それぞれの現在についての話に移っていった。

私はとても退屈していた。仲睦まじく話す彼らの中で、自分だけ全くの他人であるような気がしてならない。
出前の寿司を食べながらぼんやりとよその世界について聞いていると
「退屈か?」
と声を掛けられた。
彼は私の再従兄弟(はとこ)らしく、私に夕食の時間だと告げてきたのも彼だった。歳は同じ。しかしおそらくこれきりの出会いだと思うと、特に仲良くしようとは考えていなかった。
「まぁ」
と、私は曖昧に答える。それでも、退屈をしているというもなんだか申し訳ないような気がして少し話題を探し
「そういえば、二階の部屋にあった写真って誰のか知ってる?」
と尋ねた。すると彼はしばし上を向いて考え
「確かじいさんの一番上の兄だった気がするな」
と、答えた。
その会話を聞いていたらしい年老いた女性(おそらく祖父の兄妹の一人)が「ああ、あの人ね」と、勝手に口を挟む。
すると急に皆の話題がその人に移った。

その人はやはり私の祖父の兄妹の長男であるらしく、まだ祖父が物心ついて間もない頃に戦争へ行き、左目を潰されて帰ってきたそうだ。
ただ、不思議なことにあの写真がいつ、どのような場面で撮られたのかは誰も記憶にないらしい。ただ、左目をなくした後の彼はカタリとも笑うことなく、青白い、死人のような顔をして過ごしていたとか。
そしてある時彼は海で入水自殺をしてしまったらしい。まだ二十代はじめ。あまりに短い生涯だ。

私は再び彼の顔をおもいだす。白黒の写真なのに、記憶の中の彼は鮮やかに色づいていた。
彼はその目で何を見ている? どうして海の底へと沈んでいった?
疑問がぐるぐると駆け巡り、その日私は皆にあることを頼み込んだ。
東京へ帰ってから私は花屋で白い『カラー』を買った。それから菊と百合の花も。
そして頼み込んで譲ってもらった、あの白黒写真の周囲を花で飾ってみた。
私はもしかしたら、もうとっくにこの世にはいないその人に恋をしてしまったのかもしれない。
恋をすると世界は色づくというけれど、白黒であるはずの彼の写真が、私にはどうしても鮮やかな色を帯びているように見えるのだ。
「あなたが好きです」
私は口に出してみた。
深い、海の底へと潜ったら、私は彼に出会えるのだろうか。
そんなバカみたいな妄想をして、一人で笑ってしまう。
写真の向こうの彼はまるで「おいで」と言っているようにも見えた。それに対して私はゆるゆると首を横に振る。
「あなたがこっちへ来てくださいよ」
その日私は夢を見た。
そこは深い海の底で、あたりにはカラーや菊や百合が咲き、遺影のような枠から彼がこちらに手を伸ばしているのだ。
私は自然にその手を取った。
彼は私をあちらへ引き込みたいようだ。でも生憎私はまだ死にたくない。
「あなたがこっちへ来てください」
私は昼間と同じようなことを言って、腕を思いっきり引っ張った。
何かが割れるような音がした。

◆  ◆  ◆

私は今日も『カラー』を買いに行く。いつの間にかそれを定期的に買うのが私の癖になっていた。
花屋の店員ともいつの間にか顔見知りになり、『カラー』以外の花も勧めらたり断ったりして、そんなことを繰り返して半年。
店から出た私の目の前を背の高い男の人が通りようとしていた。

切れ長の目。不健康そうな、薄い唇。
まるで深海が似合いそうな、深い深い無表情。
思わず手にしていた『カラー』を落としてしまう。
それに気が付いた彼はそっとそれを拾い上げ……
「こちらへ来ましたよ」
と、笑った。それはそれは、素敵で美しい笑みだった。

彩葉のあとがき

お久しぶりです、双葉彩葉です。
今回は共作をしなさい、ということで私の友人の『うに』氏の絵と共作をさせていただきました。
以下、私とうに氏のトーク。

「なんでこの人軍服なの?」
「知らん」
「これどこなの? 海の底なの?」
「さあ」
「じゃあ、この花は何?」
「菊と、百合と、カラー」
「カラー?」
「花の名前」
「あ、それいけそう!!」

ということでなんとかかんとか絵師の彼女にアイデアをもらい、この小説ができあがりました。
実際私はネタに困るとよく彼女にアイデアをくれと頼み込んでいますので、実は挑戦の小説のアイデアの一端をうに氏が握っていることもあるのです(極秘事項)

にしても、インスピレーションであそこまで美しい絵を描ける彼女は本当に頼もしいですね……
正式に絵と文という形で共作ができたのはこれが初めてだったので非常に楽しかったです。
ありがとうございました。

さてさて、次のお題は何かな~

たまごライター:彩葉
writer_iroha_100文字を書くことが生きがいの、未熟で未熟な小説家のたまご。新しいことにどんどん挑戦したい。依頼はいつでも受付中。現在は主に「pixiv」と「小説家になろう」にて小説を書いております。Twitter:@kotonoha_hutaba

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Comment

  1. 匿名 より:

    次回の挑戦状がない、、ということは、、、?

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