小説家のたまご

未来の小説家=小説家のたまごを応援するサイトです。

*

【たまごライター彩葉の挑戦】とろけるようなキスシーンで締めなさい

      2017/06/07

たまごライター彩葉の挑戦

様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは)さんが失敗を覚悟で挑戦し続けるコーナーです。

今回の挑戦状は、こちら。

とろけるようなキスシーンで締めなさい。にわとり

彩葉の解答

彼女の本心

久々に地元に帰ってきた。
蝉の声が煩く鳴り響き、気だるげな蒸し暑さに包まれる。
俺の大学は少し涼しいところにある所為か、余計にこちらの暑さが堪える。
体力の衰えを感じずにはいられない。

時計を確認しつつ近所の図書館に出向いてみると、春に見たときとは随分様子が変わっていた。
寒々しかった景観が、今は人々の憩いの場と化している。
きちんと街路樹が植えられ、ガタガタだった道のタイルも直され、ベンチも新しいものに変わっている。
脱過疎化を目標としているこの町の計画は随分調子がよさそうだ。
他所の町にでも来てしまったかのような心情。
俺は懐かしさとは違う、よそよそしさを感じつつ、待ち合わせ場所へ向かった。
図書館からすぐのところにある公園。こちらは以前どおり、閑散としていた。何故か少し安心してしまう。
まだ十五分前。流石に来てはいないだろう。以前五分前に行った時には既にそこにいたから、今度こそ先に到着していたい。
……と、思ったが、そうはいかなかった。
「早い……んだね」
呆然とこちらを見る少女の姿。そちらこそ、と言いたい気分だ。

白いワンピースに黄色いカーディガン。そして黒く長い髪をポニーテールにしている。
何気に初めてみる髪型だった。
「ああ、これ……暑いから適当に縛っていたの」
淡々と言って目を逸らす。
「でも、ポニーテールってずっとしていると首が痛くなるんだよね」
「はあ」
それを俺に言ってどうしろと言うのだ……あまり必要のない知識に首をかしげていると、彼女はするりとゴムを解いてしまった。
「本当に首が痛くなるんだよ」
「そ、そう」
なら最初から縛らなければいいのに。相変わらず心情が読めない。
彼女の喋り方は淡々としている。表情も変化しない。
感情の読めない子。それが彼女。俺の恋人。

「えっと……どうします?」
つい敬語になってしまった。
「……とりあえず、いつもの場所に行きたいです」
彼女も敬語になる。
久しぶりに会った所為か、やはりぎこちない。

いつもの場所。近所を流れる川の河川敷の橋の下。
雑草が生い茂る場所を掻き分け、川岸に辿り着けば、夏でも涼しい風を感じることができる。
相も変わらずうるさい蝉の声。そりゃあこれだけ木が立ち並んでいればうるさくもなる。
春は桜が満開だったけど、もうその景観は終わった。
随分と昔のことのように感じる。
「えっと、では、お久しぶりです」
「……久しぶり」
固まる。さて、何を話したらいいものか。
彼女と出会ったのは高校一年の時。
友達の友達としての出会い。その後意外に趣味が合うとかで、なんだかんだでつるむようになった。
そして、付き合うことになったのは今年の春。
俺が地方の大学に合格したその日のことだ。

告白は彼女からだった。
何故か淡々と告げられた「好きです」という言葉。
好きなアニメや本について語る彼女はもっと饒舌なのに、足は震え、言葉も震え、それでいて無表情だった。
付き合う前から、俺たちは付き合っているのではないかという噂はあったし、友情以上の仲の良さはあった。
けれど、言葉にしたのは彼女が最初で、しかもこのタイミングだった。
俺が、地方に行くと分かったそのタイミングだった。
「ごめん」
謝る彼女。
「いや、その、俺もずっと好きだったよ……だから、嬉しいんだけど……」
「……うん」
お互い、言葉が見つからなかった。
付き合うにしたって遠距離だ。同じ高校に通っていた時ならばまだしも。これから長い長い遠距離恋愛が始まってしまう。
何故、このタイミングで。一体何を考えているのだ。

「いいよ。付き合おう。ただ、お互いもし好きな人ができたら、その時は遠慮なく別れよう」
離れていたら彼女だって心変わりするかもしれない。そう思ってそう提案した。
「……分かった」
彼女は少し間を作った後、ゆっくりと頷いた。
こうして、俺たちの恋人関係は始まった訳だ。
俺が引っ越すまでの数日間は、彼女と出来る限り一緒に過ごして、その後はメールのやり取りを何度かした。
ただ、お互い積極的にメールをするような性格ではなく。ごくごくたまにのやり取りをして今日に至る。
二人で並んで座っていたその距離を、ふと彼女は詰めてきた。
そして、少しずつくっつき、顔を近づけ、ぎゅっと目を瞑りながら唇を重ねた。
「珍しいね、そっちからキスしてくるなんて」
「……たまには」
いつものように顔を背け、どこか虚空に目を彷徨わせる。やっぱり、何を考えているのか分からなかった。

「あのさ」
やがて沈黙を埋めるかのように彼女が話し出す。
「む、向こうで誰かに告白されたりとかした?」
ドキリ、とする。
「あー、その、されたかされていないかっていったら……された」
そう告げた俺の顔を、彼女はじっと見つめた。
「で?」
「で、とは……」
無言の威圧感。
「いや、その、一度は断ったんだ けど ……でも、向こうの押しが強いというか……断り切れなかったというか……」
すぐには話さないつもりでいたのに。ずるずると言葉を引き出されていく。
「……OKしたってこと?」
「はい」

白状すると、彼女はほんの少し俺から距離を取った。
「で?」
また、威圧感。
「いや、その、どっちも好きなんだけど……」
「そういう問題じゃない」
そう言った彼女には、もう答えが見えているようだった。
「……ごめん」
「いいよ。そういう約束だったし」
淡々とした声。
もしかして、そこまで悲しんでいないのだろうか……離れていた分気持ちも離れているのだろうか……少し、そう考える自分がいた。罪悪感逃れ。
「なんとなく予感はしていたよ。ああ、いつかこいつは向こうで彼女作るんだろうなって思ってた。こんなに早いと思わなかったけど……でも、絢人はかっこいいし、誰に対しても優しいから……」
そんな風に言われたのは初めてだった。そんな風に思われていたのは初めて知った。
「ごめん、その、一発殴ってくれても構わないよ」
「……」
彼女は拳を振り上げた。けれど、それは俺の腹を軽く叩くだけで終わった。全く攻撃にはなっていない。
ゆっくり拳を下ろし、俺の顔を見つめる。
……やっぱり、何を考えているのか分からない。酷い場面なのに、表情一つ変えない。

「私さ、感情を表に出すのが下手なの。緊張すると特に……私これが初恋だったから、初の彼氏だったから、どうしたらいいのか分からなくて、こんな風にしか接することができなかった。今更言っても遅いけど」
初めて聞けた。彼女の心情。ああ、よく見れば……彼女の手は小刻みに震えていた。
付き合ってからずっとこの調子だったのは、彼女なりに緊張している様子の表れだったらしい。

「ねえ、なんであの時あのタイミングで告白してきたの?」
俺はずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「……だって、私が好きだって自覚した時、絢人の志望校は地方の大学に絞られていたし、このまま関係を続けようとしたら遠距離になっちゃうって思っていたから。でもね、その時になったらどうしても感情が抑えられなかった。おかしな話だけど。あの時、断ってくれてもよかったのに。OKしてくれるんだもん。やっぱり優しい」
俺は優しくも何でもない、ただの優柔不断なのに。
そんな風に言われるなんて。

「とにかく、うまく表現できなかったけど、す……き、だったのは本当」
好き、という言葉が小さくなる。本当に好きの感情表現が下手なだけだったのか。何を考えているのか分からないってのは俺の読みが甘い所為で……気づいてほしかったのかもしれない。その素直ではない内面を。
「やっぱ何か好きなこと言って。何でもするから」
このままじゃ、罪悪感しか残らない。
「……じゃあ、本でも奢ってほし……いや」
言いかけた言葉を彼女は途中で止めた。
根っからの本好きの彼女としては妥当な提案をあっさりと引き下げた。

「キスして」
「え?」
「そしたら、友達に戻ろう」
そう言って、また顔を背けようとして……と どまった。

俺にとっての彼女は、もしかしたら恋人ではなかったのかもしれない。友達以上、恋人未満。そんな存在。
でも、彼女にとっての俺は確かに恋人だった。
表現はしなくても、好きでいてくれた。
今の彼女の心情は分かる。かなり、強がっているんだ。

ゆっくりと顔を近づける。少しだけ、彼女の目に涙がたまっているのが分かった。
けど、それを直視する訳にもいかず、俺は目を瞑った。
最後のキスは、不思議としょっぱくもなく、苦くもなかった。

このまま時が止まってしまえば楽だと思ったけれど、続けることはきっと、二人にとってよくないことだから。
結局、うまくはいかないから。
だからせめてとろけるような、甘く柔らかなキスを交わそう。

ね、好きだった人。

彩葉のあとがき

甘々展開待っていた方、残念でしたー現実は甘くないってことです!!
この話を書く前と後にいくつか同じお題で書いたのですが、一番しっくりきたのがこれでした。といっても、腑に落ちない結末だとは思います。ハッピーエンドとは程遠いですよね……
現実では、すれ違いなんてなかなか修正されない。言葉にしない思いは伝わらない。
最後の最後に望まれたキスをしたこの展開は果たして正しかったのか。
試行錯誤の末に書いた話です。
また感想を聞かせてください。

それにしても、まさかこのサイトでこんなお題が出されるなんて……管理人のにわとり様の鬼畜さに震える日々。
で、でも挑戦はまだまだまだまだ終わりません。
さてさて、次のお題は何かなー

たまごライター:彩葉
writer_iroha_100文字を書くことが生きがいの、未熟で未熟な小説家のたまご。新しいことにどんどん挑戦したい。依頼はいつでも受付中。現在は主に「pixiv」と「小説家になろう」にて小説を書いております。Twitter:@kotonoha_hutaba

挑戦状

次回の挑戦状は、こちら。

『平安時代のことばで書きなさい』(3000文字)
*彩葉さんもここで内容を初めて知ります

新しい挑戦状も、随時募集いたします。この企画の記事にコメントをいただくか、Twitterでハッシュタグ #たまごライター彩葉に挑戦状 をつけてツイートしてください。採用させていただいた場合は、お名前も併記いたします。

彩葉さんの解答が公開されるタイミングで、次回の挑戦状の内容を発表いたします。

また、彩葉さんの解答に対する感想や、あなたなりの解答があれば、お気軽にコメントいただければ幸いです。

 - たまごライター彩葉の挑戦 ,

ad pc

ad pc

コメントはお気軽に^^

  関連記事

【たまごライター彩葉の挑戦】安っぽい殺人事件を書きなさい。

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】ひたすらバナナを食べなさい。

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】二人称で書きなさい。

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】両親へ捧げる小説を書きなさい。

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】主人公の性別を曖昧にしなさい。

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】最低5回はループする短編小説を書きなさい

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉さんが失 …

【たまごライター彩葉の挑戦】読者を困らせなさい

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】オノマトペで遊びなさい 。

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】1億円を使いきりなさい

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、たまごライター彩葉(いろは …

【たまごライター彩葉の挑戦】「手術」「借金」「フェイクファー」で笑える三題噺(さんだいばなし)を書きなさい

たまごライター彩葉の挑戦 様々な”難しそうなこと”に、た …