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【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:超どんでん返しをキメなさい】裏表ユイ/甘い雨

   

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:超どんでん返しをキメなさい】裏表ユイ/甘い雨

様々な難しそうなテーマで超短編小説に挑戦していただく、たまごライター彩葉に挑戦

たくさんの応募作品の中から、たまごライター彩葉(いろは)さんがピックアップした作品を、コメント付きで紹介いたします。最後には、グランプリ作品として「彩葉賞」も発表いたします。

今回の挑戦状はこちら。
超どんでん返しをキメなさい。にわとり

裏表ユイ/甘い雨

頭上から降ってくる雨も、髪の毛から垂れてくる雫を振り払うこともせず、只々、自分の不甲斐なさに怒りと悲しみを滾らせていた。
出来るならば、この雨が私を少しでも冷静にさせて、次の失敗を侵させないようにしてくれますように。
大切な物が入った鞄を抱きしめながら、雨が降る公園の真ん中に、一人、立っていた。

「……大丈夫ですか?」

突如、私の頭上に降っていた雨が遮られた。
振り向くとそこには、優しげな顔をした男性がいた。
見たことのある顔に思わず声を上げてしまいそうになるのを、相手は私を知らないのだと必死で押さえ込み、黙り込んだ。
何も言わない私に何を思ったのか、彼は私に再び声をかけた。

「あの……ずぶ濡れのままじゃあなんですから、よかったら風呂でも入っていきますか?僕の家、この近くなんですよ」

その言葉に、じわじわと私の内側から喜びがせり上がってくるのがわかった。
まさか彼からこんなお誘いが来るだなんて……まさしく、渡りに船だった。
なんて優しい人なのだろうと思いながら、喜びたい気持ちを最小限に抑え、控えめな微笑みで、彼の言葉に頷いた。

***

ガチャリと自動で鍵がかかったのを聴きながら彼の家へと入ると、目の前の廊下の途中にある開け放たれた扉から、甘い香りが漂ってきた。
その香りに、下腹部が疼く。
なんなのだろうこの香りは……私の抑え込んだ、その時までは表に出さないと決めた気持ちが、その香りに釣られて引き出されそうだった。
そんな気持ちを微塵も顔に出さないで、彼に問いかけた。

「この甘い香りは……なんですか?」
「甘い……ああ。花について調べてる友人から、品種改良したから、効果があるか確かめてくれって言われまして。リビングに飾ってあるんですよ。……でも、香りがわかる人とわからない人がいるらしくて、僕はわからなかったんですけどね」
「そうなんですか……残念ですね。ところで、その香りの効果って?」
「それが、何も知らされてなくって……。僕はこのとおり、わかりませんし。でも、友人に結果を言わないと絶対怒られるんで、返してないんです。……あっ!もしよろしければ、どんな効果があるのか、教えてもらっても構いませんか?」
「はい。いいですよ。……といっても、私もよくわからないんですけどね」
「そうですか……やっぱり、失敗してるのかなぁ……あ、ここがお風呂場です。お湯は入っている内に沸くと思うので、それまでシャワーでお願いします。服とタオルは、後で持ってきますね」

そういって、開けられた脱衣所の中へと入り、ハンガーのことなどを教えてくれた彼が退出したあと、服を脱いでハンガーにかけて壁に吊るし、鞄も一緒にかけてからお風呂場へと入った。
先ほどの雨と違い、暖かい雫を身に浴びてから、途中で沸いた湯船にゆっくりと浸かる。
香りが来ない場所だからか、先程よりも弱くなった衝動に安心しながら、目を瞑る。
きちんと手順を踏まなければ、あの衝動に身を任せてはいけないと前回の失敗で学んだはずなのに……私は、また同じ間違いを犯そうとしている。
そんな自分に怒りを滾らせながら、のぼせ上がらないうちに湯船から出る。
脱衣所で、湯冷めしないうちにいつのまにか置かれていたタオルを手に取り、体についた雫を拭き取っていく。
まだ乾ききっていない下着をつけ、その上から彼がタオルとともにおいて行ってくれた服を身に付ける。
長くなってしまった袖を折ってから、大事な鞄を抱えてから、脱衣所の扉を開けて廊下へと出た。
それと同時に匂ってくる甘い香りに、私の中で燻っていた怒りが急速に絞み、同時にある衝動が沸き上がってくる。
その香りに釣られるようにリビングへの扉へ足を進め、その中に入る。
部屋に入ったとたん、一層強くなった香りに、私は、身を委ねる。

「あ、お風呂どうでした?ちょうどいい湯加減だったらいいんですけど……。あと、飲み物欲しいかなって思って、コーヒー入れたんですよ。好きなものがわかりませんでしたし……苦かったら、砂糖とかミルクとかあるんで、言ってくれればもって―――」

ああ。もうだめだ。

「―――きま、す、けど……?」

途切れとぎれに言葉の続きを呟いた彼は、私の手の中にある、大事な鞄から取り出した鈍色の物体と、自身の服をじわじわ染めていく赤の染色を見て、最後に私の顔を、絶望したような顔で見てから、コーヒーのコップを落とした。
ガラスの割れる音とともに、彼……いや、モノが床へ崩れた。
それを見て私は……恍惚とした表情を浮かべた。

「あぁ……やっぱり、人を殺すのって最高……!香りに釣られて、計画も立てないままやっちゃったけど、前回みたいに気取られて未遂……なんていうしょうもない失態を犯すこともなかったし、いいか。……それにしても、まさか獲物からやってくるなんて」

そう言いながら、強盗が入ったかのように見せるために、窓ガラスを割って部屋の中を荒らしていく。
私と彼が出会った時間帯は、人が少なくなる時間帯であり、雨ということもあって視界も悪く、もし誰かに見られていたとしても、オートロックの鍵を開けられた形跡もなく、窓ガラスも割られている状態じゃあ、玄関から入って出る私に目が向けられることは少ないだろう。

「……なんてお人好しなモノ」

親切心で人を助けて、その人物に殺される、床に崩れているモノを見ながら、私は呟いた。
脱衣所にある私の服を回収してから玄関の扉を開け、未だ降り続く雨を見ながら、私は囁くように口を開いた。

「……快楽という甘さをくれたこの雨に、感謝を」

***

「……あっー!!つっかれたぁ……」

そういいながら僕は立ち上がり、床に溢れたコーヒーと血糊に濡れたワイシャツを脱ぎ、中に来ていた防弾チョッキを外す。
殺人鬼などの快楽の波長を調べ、それを引き起こして冷静な思考能力をさせないようにするための香りを放つ植物を開発したから、試しに使ってみてほしいって言われて、渋々受け取ったけど……。

「……まさか、脈拍も確認せず、ある程度荒らしただけで帰るだなんて……連続殺人機の思考能力すらも狂わせるなんて、凄いな……。ま、僕は殺人鬼じゃないからわかんないけど」

そういいながら、ポケットから出したボイスレコーダーの再生を止め、確認の為に再び流す。
そこから聴こえてくるのは、先ほどの女性がしゃべっている言葉。
自らを殺人鬼だと言っているような内容に、僕は口元に三日月を描いた。
連続殺人鬼の声……これを持っていけば、大手柄間違いなしだ。
自分が次の獲物だって今までの殺人の経歴から導き出してはいたけれど、ひっかかるかは五分五分だった。
それが、こうもあっさり引っかかるなんて。
あの植物をくれた友人には、感謝をしないといけない。

「……手柄っていう飴をくれたんだ。今度お礼しなくちゃ」

そういいながら僕は、ボイスレコーダーをポケットにしまい、代わりにこの雨と同じ色の飴玉を取り出して、口に放り投げた。

作者プロフィール

裏表ユイ
物書き三年目のまだまだひよっ子。公募経験はなしですが、他の物書きの方の企画には度々参加しております。

作者あとがき

今回、初めて参加させて頂きました。どんでん返しというのはほとんどやったことがなく、そもそもどんでん返しというのがどういうのかわからず、しかも『超』とついている……。どうやればいいのかわからず、ネタを考えてもどんでん返しになっているのか不安で、友人にも色々と相談させて頂きました。
拙い文章ですが、少しでも驚いたり、楽しんで頂けたら幸いです。

たまごライター彩葉のコメント

読んでいてわくわくする、素敵な物語でした。二つのどんでん返しもさるものながら、雨の冷たさや服が張りつく感覚、そしてお風呂の温かさまで伝わってくるような細かい 描写も素敵です。さらにさらに殺しという残酷な描写もほんのり漂ってきそうな甘い香りの描写で中和されている。何度でも読み返したくなってしまう作品でした。ありがとうございました。

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Comment

  1. 匿名 より:

    裏表ユイ・作 『甘い雨』 私的感想文

    裏表ユイさん、お疲れ様でした。
    初めまして。僕は自称・アマチュア戯曲作家の岡本ジュンイチと申します。

    今から僭越ながらも僕なりの感想を書かせていただきますが、
    これは普段小説をあまり読まない人の視点からの感想ですので、
    参考程度に、軽く受け止めて下されば助かります。

    確かに、描写はとてもいいとは思いますね。
    明瞭な文章で、とてもイメージしやすいです。
    ですが、ストーリー つまり構成と言いますか、
    作品の核の部分がどうも共感できない所があるのは否めません。

    ユイさんの見せたいものが見えないんですね。
    ただ人を怖がらせたいという いわゆるサスペンス小説という点で読めば、
    それはそれでアリだとは思います。

    ですが、どうもおさまりの悪いエンディングで、
    またリアリティーが少々欠けている所も気になります。

    例えば、ふつう見知らぬ人を自分の家の風呂に入れるでしょうか。
    その殺人鬼の女の人によっぽど惚れたとしても、
    さすがに自分の家の風呂に入れるぐらい懐の深い人間はそうそういないと思います。

    そういう人がいるという前提で読めばいいのかもしれませんが、
    それは、読み手である僕の視点から言わせていただくと
    どうも読者任せ過ぎな姿勢のように見えますが、
    そう思ってるのは僕だけでしょうか。

    それは、「悪い」と言いたい訳ではありません。
    共感出来ない事がいろいろあるという事です。

    本作のいい所を言えば、
    普段の自分とは違った ドロドロしたものを読みたい人にとっては
    とても入り込みやすい所なのかなとは思います。

    僕は、そのいわゆる作品の長所が、
    どうも共感が出来ない所だと言いたい訳なんですね。

    入り込みづらかったというのが、
    僕の率直な感想です。

    今後のご活躍を祈ってます。
    僕も頑張ります。
             
           自称・アマチュア戯曲作家  岡本ジュンイチ

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