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【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品・彩葉賞:超どんでん返しをキメなさい】ばあちゃんには敵わねえ/巴莉

      2015/06/07

【たまごライター彩葉に挑戦グランプリ作品・彩葉賞:超どんでん返しをキメなさい】ばあちゃんには敵わねえ/巴莉

様々な難しそうなテーマで超短編小説に挑戦していただく、たまごライター彩葉に挑戦

たくさんの応募作品の中から、たまごライター彩葉(いろは)さんがピックアップした作品を、コメント付きで紹介いたします。今夜は、グランプリに相当する「彩葉賞」の発表です。

今回の挑戦状はこちら。
超どんでん返しをキメなさい。にわとり』

ばあちゃんには敵わねえ/巴莉

「ばあちゃん、オレだよ。オレ。久しぶりだから誰だか分かんないかな」
春子は少し考えた後、電話口にそっと話しかけた。
「まさか、孝一かい」
「そうだよ! 孝一!」
名を呼ばれた青年が嬉しそうな声を上げる。
いつぶりだろう。春子は逸る気持ちを抑えられず、矢継ぎ早に問いかけた。
「もう何年も連絡をよこさないから心配していたんだよ。何をやってたんだい。元気なの」
「心配させてごめんよ、ばあちゃん。元気は元気なんだけど……」
「何か、あったのかい」
消え入りそうな声に、春子は唾を飲み込んだ。
「実は、事業に失敗しちゃったんだ。でかい不渡りを掴まされて、夜逃げして。もう三日ほど公園で寝泊まりしてる。捕まったら、オレ……」
孝一は哀れっぽく訴えた。とぎれとぎれな言葉の合間に、びゅうびゅうと吹きすさぶ北風の音が聞こえてくる。
こんな寒い日に外にいるなんて、と春子は呟いた。
「孝一、いくらあればいいんだい」
「とりあえず、三百万」
三百万。要求の重さに言葉を失った彼女だったが、答えはすでに決まっていた。ずっと蓄えてきた貯金。今使わないでいつ使う。
肯定の意を示すと、孝一はにわかに明るい声になり、何度もありがとう、ありがとうと繰り返した。
「明後日までに必要なんだ。絶対に頼むよ。いつか出世して恩返しするから」
「ありがとうね。あんたなら何だってできるよ。私は信じてる。でも無理をしちゃ駄目だからね。頼むから自分を大事にしておくれ」
口座番号を伝えた後、電話はがちゃりと切れた。
 
 
 
「ばあちゃん、俺だ、俺」
「孝一だね。元気かい。前のことはちゃんと解決したの」
「ああ、ばあちゃんのおかげだ。本当に助かったよ」
この前とは打って変わって希望に満ちあふれた声だった。春子はほっと胸をなでおろした。
「……俺、やり直すために留学することにしたんだ」
最後まで聞かずとも言いたいことは分かった。春子は少しも惜しいとは思わなかった。
「いくらかかるんだい、孝一」
「二百万は。すまん、ばあちゃん。ばあちゃんだって余裕がある訳じゃないのに」
「男の子はしっかり勉強しないといけないからね。それに情けは人の為ならず、って言うだろ」
すまん、すまん、と何度も謝る孝一。
「絶対に立派になって帰ってくるからな」
「夢を持つのは大切だけど、ばあちゃんはあんたが元気でいてくれればそれでいいんだよ。身体を壊さないようにね」
心配そうに言った春子に、孝一は小さな声で、すまん、と謝った。
 
孝一からの連絡はその後も続いた。
金銭を請われる度、春子は孫を思って振り込みに走った。相談に乗り、身体の心配もした。
そうしているうちに孝一はばあちゃん、ばあちゃんと言って金の要らない時にも電話をかけて来るようになった。金のことがあろうとなかろうと春子は孝一からの電話を喜んだ。
しかし二年経った冬のある日、「ばあちゃん、今までありがとう」という言葉を最後に、孝一からの連絡はぷつりと途絶えた。
 
 
十年が経ち、春子は肺を悪くして入院した。
彼女の個室は人気がなく、いつもがらんとしていた。
「小山さん、テレビでもつけましょうか。ここは少しお寂しいでしょう」
看護師たちは巡回の度に春子に話しかけた。しかし春子はにっこり笑って、決まりごとのようにこう言うのだった。
「ありがとうね。でもテレビは見ないことにしていて。それにまったく寂しくなんてないのよ。孫が来てくれますから。立派になってね」
その言葉を聞く度、看護師たちは哀れになった。彼女の語る「孫」の正体を彼らはすでに悟っていた。少し話を聞いただけで分かる。よく知られた詐欺の手口だった。
この個室に足を踏み入れるのは看護師と医師だけで、春子を見舞う者はいつまでたっても現れなかった。
 
 
 
ある春の日、微睡みの中にいた春子は慌ただしい足音と大勢の話し声で目を覚ました。ざわついた気配が廊下を近づいてきたと思ったら、すぐに病室の扉が開いた。
グレイのスーツを纏った堂々たる体躯の男が戸口に立っていた。磨き上げられた靴と品の良いネクタイが、見る者に彼の地位の高さを悟らせる。彼は片手を振って取り巻きを外に下がらせると、口を開いた。
「ばあちゃん、オレだよ。オレ。久しぶりだから誰だか分かんないかな」
春子は穏やかな笑みを浮かべた。
「忘れるわけないじゃないか。孝一だろ」
「そうだよ! 孝一!」
孝一は春子の細くなった手をそっと握った。
「あの時、ばあちゃんが助けてくれたから、こんなに立派になったよ。オレの会社、今じゃ業界トップで、オレの名前もしょっちゅう新聞やテレビに出てるんだ」
「ほうら、やっぱり。あんたはできる子だって知ってたよ」
偉い偉い、と春子が頭を撫でると、精悍な孝一の顔がくしゃりと崩れた。彼は何かを堪えるようにぐっと歯を食いしばった。
「ばあちゃん、今までありがとう」
「孫なんだから当然じゃないか。孝一」
 
 
 
病室の外に出ると、白衣の男が廊下に立っていた。彼は側に控えた看護師たちを一人残らず廊下から追い出すと、孝一に向かって頭を下げた。
「お出迎えできず申し訳ありませんでした。院長の長瀬と申します。春秋工業の秋田様ですね」
「こちらこそご挨拶が遅れました。長瀬様のことは良く存じております。呼吸器系統、といえばまず貴方のお名前が出てきますから。祖母が入院先がこちらで良かった」
全国でも有数の大病院、その清潔で広々とした廊下を見渡して、孝一は安心した様子を見せた。二言三言、世間話をした後に院長の長瀬が言いにくそうに口を開いた。
「あの、先ほど春子さんが貴方のことを『孝一』とお呼びになっていましたね。しかし私の知る貴方の本名は……」
長瀬の言葉に孝一は黙り込んだ。しばらく悩む様子を見せたあと、そっと名刺を取り出した。表には「秋田和夫」と記されている。「孝一」の文字はどこにもなかった。
「……懺悔になります。実はあの方と血の繋がりなどないのです。それどころかずっと彼女を騙してきました。私がまだ愚かな青年だった頃、彼女は私を実の孫だと信じてあらゆるものを与えてくれた。金銭だけでなく、愛情も安らぎも」
長瀬は先を促すようにゆっくり頷いた。
「お願いです。このことは内密にしていただけませんか。手を尽くして探しましたが、春子さんの実の孫の所在は分からなかった。だからせめて私が『孝一』になりたいのです」
孝一で居続けることを望んだ男は「今後、私が全面的にバックアップします。『祖母』に何かあればすぐに呼んでください」と言って深く頭を下げた。
 
 
 
病室に入ってきた長瀬を春子はいつも通り穏やかに出迎えた。
高価な調度品の揃う特別個室のソファに腰掛けて、彼は、ふう、とため息をついた。
「まさか俺以外に同じことをやる奴がいるとはな」
「初めて電話をかけてきた時、確かあの子は『借金』だったねえ。あんたは『留学』だったけど」
「ばあちゃん、それは言わない約束だ。改心した後の努力の成果を見てくれよ」
ほら、と長瀬は白衣の腕を動かして名札を指さした。「院長 長瀬勝也」と書かれている。
「そうなることは初めから知ってたよ。人の器なんて最初の一声で分かるのさ。私は昔から青田買いが得意でねえ」
「いくつになってもばあちゃんには敵わねえな」
「情けは人の為ならず、って言ったろ。あんたもそろそろ投資したらどうだい、『孝一』」
肩をすくめる可愛い孫に春子はにっこり笑ってみせた。

作者プロフィール

巴莉
数カ月前に書き始めたばかりの初心者です。

作者あとがき

はじめまして。巴莉(ともり)と申します。
数カ月前に書き始めたばかりの初心者です。企画というものにはじめて応募しました。
お題はどんでん返し。それも超どんでん返し。
面白く書くどころかお題に沿うだけでいっぱいいっぱいでした。
出来上がりは実力に見合ったものとなりましたが、非常に良い経験になりました。
今後もできる限り応募して、私自身もいつか超!どんでん返しをキメたいです。
ありがとうございました。

たまごライター彩葉のコメント

オレオレ詐欺かと思ったら本人!? じゃなくてやっぱり詐欺師なのか……え? 医者も!?
と、驚きの連発でした。どんでん返しが多すぎる。一度のびっくりでは済ましてくれないいい意味で憎らしい作品でした。ラストもほのぼのとしたオチでほっと一安心。確かにこのおばあちゃんには敵いません。
よく読むと最初の詐欺師と次の詐欺師の性格もそこはかとなく違いますね。素晴らしい伏線の貼り方です。
このテーマに一番相応しいの はこの作品しかないだろう、ということでグランプリに選びました。
初心者とおっしゃっていましたが、この作品を読んでいる誰もがそうは思えないと口を揃えてしまうのではないでしょうか……私ももっと精進しなくては……素晴らしい作品を、ありがとうございました。

たまごライター彩葉の総評

今回のお題は超どんでん返し。たくさんの「そう来るか!」を体験させていただきました。
どんでん返しについては皆さん申し分なく驚かせてくださったのですが、今回は迷った末にグランプリ含め三作品を選ばせていただきました。
ただ、伏線も無しに世界がぐるりと変わってしまうような物語も目立ちました。これでは読者も困惑してしまいます。読者がついていけることも重要で すから、超展開はほどほどに、といったところでしょうか。

今回は良作が多く、かなり際どいところでピックアップから外させていただいた作品もあります。
次回以降の応募も是非お待ちしております。私もかなり勉強させていただいておりますので!
まあ、現段階でかなりの応募数があり恐ろしさに震えているのですが……これだけたくさんの人に企画を知っていただけるのは嬉しい限りです。

もう一つ、こんな素敵な企画を考えてくださったにわとり様にも頭が上がりません。
ということで次回からお題の厳しさを軽減していただけませんでしょうかね……?

そんな感じで。
さてさて、次のお題は何かな~

 - たまごライター彩葉に挑戦 , ,

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Comment

  1. 秋桜みりや より:

    受賞、ピックアップされた皆様おめでとうございます!!
    どれも素敵な作品で勉強になりました!!
    今回は素敵な企画をありがとうございました!!
    とても楽しかったです!!

    また次の企画を楽しみにしております。

  2. 岡本ジュンイチ より:

    巴利・作『ばあちゃんには敵わねえ』 私的感想文

    お疲れ様でした。
    初めまして。僕は自称・アマチュア戯曲作家の岡本ジュンイチと申します。
    今から僭越ながらも感想文を書かせていただきますが、
    これはあくまで普段は小説を読まない立場からの感想ですので、
    何らかの参考程度になってくださればなと思います。

    それでは、気楽に書かせていただきます。

    この作品につきましては、正直
    いいオープニングだったように感じました。
    とても入り込みやすかったという事ですね。

    それは、今よく話題にもされる詐欺事件を題材にした作品だから
    なのかもしれないですね。
    展開としても、とても分かりやすい物語で、
    きれいにまとまった感じの印象を受けました。

    ただ、ここからは僕の創作観にもとづいて書きますが、
    どうも共感できない所はあるんですね。

    詐欺をしてしまった二人の男が、
    だまされたおばあさんを助けるというその美談は、
    僕は個人的に好きなんです。

    ですが、それがただの美談にとどまってしまっているのが
    僕としてはどうも不満になる所なんですね。

    例えば、
    おばあさんは二人にお金を渡しますけれども、
    それって、どうしてお金を簡単に渡しちゃうんでしょうか。

    小説の本文では、
    おばあさんの愛情ゆえに他人でも渡したっていう事みたいですけれども、
    その愛情って、一体なんでしょうか。
    それはおばあさんが詐欺師であってもお金をあげたいという愛情なのか、
    それとも本当に自分の息子としてあげるつもりだった愛情なのか。
    本文から伺うに、たぶん前者の方だと思いますが、
    だとしたら、そこの描き方がどうも雑な感じを受けたのは否めないです。

    小説をどういう読み方をするかは個人の自由でありますけれども、
    僕の場合は、何度も読む性格というよりは
    むしろ一目で見た印象を大切にして読むタイプです。

    そういうタイプの人間から読ませてもらうと、
    やっぱり巴利さんが本当に描きたかったとするであろう
    そのおばあさんの いわゆる愛情やお金を渡すまでのプロセスなどを
    丁寧に描いてほしかったと つい感じちゃうんですね。

    一番わかりやすい方法は、
    まずそのお孫さんはもう死んでいるという設定にするという方法でしょうか。
    もちろんこれは、僕が本作を手直しする場合の話ですので、
    一概にそれが全てだとは言いませんが。

    僕がそういう設定を加えたい気持ちになったのは、
    お金を赤の他人に渡すおばあさんの気持ちが読めないからなんですね。
    彼女がどうしてそんなリスキーな事をしたのかが、
    どうも理解できないからなんです。

    振り込め詐欺の呼びかけはどこでもやってる中で、
    普通のおばあさんはそんな事をやるでしょうか。
    もっとも、僕はそういうのがよく分からないからこそここに書いてるんですが、
    もし僕がおばあさんの立場だったら、
    普通は赤の他人にお金を渡す余裕はないです。

    ただ、僕の場合だったら、
    もし自分の孫がすでに死んでいた場合だったら
    そういう行為をする可能性があります。

    自分の愛する孫を失えば、たぶん赤の他人でも
    自分の孫のように接する事が出来ると思うんですね。
    だから、こういう事を考えてみたわけです。

    本作も読み方によれば、
    そういう読み方もできる可能性はあるんですけれども、
    やっぱり描き方がその方向に集中されてないせいなのか、
    どうも読者に丸投げされたような感覚を受けるんですね。

    その感じでいいとおっしゃるんでしたら、
    それはそれでいいとは思いますが、
    もしよりいい作品に仕上げたいとお思いでしたら、
    上に書かせていただいた事が
    ある程度の推敲方法なのではないかなと思わせていただきます。

    今後のご活躍に期待します。
    僕もあなた様に負けずに、地道に戯曲に取り組もうと思います。

    以上です。
    ご精読ありがとうございました。

          自称・アマチュア戯曲作家 岡本ジュンイチ

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