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【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:主人公の性別を曖昧にしなさい】曖、昧、身/巴莉

   

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:主人公の性別を曖昧にしなさい】曖、昧、身/巴莉

様々な難しそうなテーマで超短編小説に挑戦していただく、たまごライター彩葉に挑戦

たくさんの応募作品の中から、たまごライター彩葉(いろは)さんがピックアップした作品を、コメント付きで紹介いたします。最後には、グランプリ作品として「彩葉賞」も発表いたします。

今回の挑戦状はこちら。
主人公の性別を曖昧にしなさい。

曖、昧、身/巴莉

病気になっちゃったのかもしれない。
明(アキラ)は平べったい胸に手を当ててみた。かけっこの後ほどではないけれど、いつもより速い太鼓の音がととん、ととん、と伝わってくる。
「明、最近あんまり喋らないね。どうしたの」
背中越しに声をかけられて、慌てて振り返る。後ろの席に座っているのがついさっき自分の思い浮かべていた相手ではないと分かると、がっかりと安心が一緒に押し寄せてきた。
「なんだ、圭(ケイ)かあ。びっくりさせないでよ」
肩の力が抜けた明を見て、圭は「ひどい。心配してあげたのに」と口をとがらせた。
「ごめん。ちょっとぼうっとしちゃって」
「もしかして『進路』のこと?」
圭が首をかしげると、さらさらの黒髪が揺れた。もちろん長さは肩までしかない。それ以上伸ばしていいのは大人、それも女の人だけだ。
「圭は大人になったら綺麗なお姉さんになるんだろうなあ」
自分と違って、圭はずっと前から迷いなく『進路』を決めている。頭の中の想像をそのまま口に出すと、圭は目を丸くして、それから白い手のひらで胸の辺りをそっと抑えた。
「ま、まだちゃんと決まったわけじゃないし……それより明はどうなの。やっぱり迷ってるの? 期限までに提出しないと勝手に決められちゃうって先生が――」
「もちろん、男だよね! 明!」
大きな声が教室の端から飛んできて、明は今度こそ本当に心臓が止まってしまうかと思った。圭と話している時もずっと頭にあった相手。いつ運動場から戻ってきたんだろう。不意打ちを喰らった明はどうしていいか分からなくなって、下を向いた。
「光(ヒカル)、横から入らないで。今、明と話してるのはケイなんだから」
不機嫌そうな圭の声が聞こえているのかいないのか、光はドタドタと近くまで走ってくると「男がいいよ!」と繰り返した。
「そしたら同じ中学校に行けるし、これからも一緒に遊べるよ」
ね? と日に焼けた顔に覗きこまれて、明はますます恥ずかしくなってしまった。明から光を引き剥がすようにして、圭が立ちはだかる。
喧嘩になっちゃう、と明が思った時、鐘がなって昼休みは終わってしまった。

光の髪は焦茶色で、あの教室では一番短い。お母さんが言うには『定めごと』ぎりぎりの長さなんだそうだ。それ以上短くできるのは大人の男の人だけ。
帰り道を歩きながら、明は大人になった光を想像してみた。頬が少し熱くなる。
光の『進路』が男で、圭が女であることは、友達みんなが知っていることだった。光は「光太」になって、圭は「圭子」になるんだそうだ。
子どもたちは一人の例外もなく、中学生になる前に簡単な『処置』を受けて、男か女かに分化する。
「アキラはどっちになったらいいのかな……」
中学校と高校は男子校と女子校しかなくて、それぞれ「男らしい」「女らしい」大人になるための勉強をする。その間、異性と接触することはできない。
明は圭と離れたくなかったし、もちろん光とも絶対離れたくなかった。
『光みたいな無神経なやつなんて、男がお似合いよ!』
ふと、お昼休みの最後に圭が光にぶつけた言葉を思い出した。確かに光は細かいことを気にしない。かけっこが学校で一番速くて、挨拶の声もとても大きい。そういう子どもは男を選んで、圭みたいにおしゃれが好きで綺麗な見た目の子どもは女を選ぶ。
じゃあ、どちらでもない自分はどちらを選べばいいんだろう。光と外で遊ぶのも楽しいし、圭と一緒に絵を書いたり本を読んだりするのも好きだ。光と圭はお互いに相手が何を考えているのか良く分からないと言うけれど、自分はどちらの気持ちもなんとなく分かる。
だんだん自分が落ちこぼれのように思えてきて、明は立ち止まった。
どうして決めないといけないんだろう。ずっとこのままでいられたらいいのに。

「明、あとで職員室に来なさい」
担任の先生に呼び出された明は「ついにきたか」と思った。『分化届』の提出が済んでいないのはとうとう自分だけになってしまったのだ。
職員室に顔を出すと、彼女は懇談用に仕切られた一角に明を連れていった。
「やっぱり迷っているのね」
優しげな声に明は素直に頷いた。
「光みたいにかけっこも速くないし、圭みたいに可愛くもないし……」
そう言ったきり口を閉ざしてしまった明に、先生は微笑みかけた。
「あたしもそうだったわ」
先生の使う「あたし」がとても眩しくて、明はまた少し元気をなくしてしまった。女の人だけが使っていい言葉だった。子どものうちは「俺」も「あたし」も駄目で、そのまま自分の名前を呼ばなくてはならない。言葉遣いも同じ。
先生は小声で続けた。
「大昔、性別は生まれつき決まっていたの。遺伝子工学が発達した結果、それを自分で選べるようになった。性別選択の自由、前に授業でやったわよね? でも不思議なことに、性別から解放されたはずの人間たちはしばらく経つと『女らしさ』や『男らしさ』を今まで以上に求めるようになった。自由すぎると人は不安になるのね」
まったくだ、と明は思った。はじめから決めておいてくれれば、こんなに悩まずにすんだのに。
「昔の外国に『アイ』という言葉があったの。『俺』でも『僕』でも『あたし』でもない。今で言う『私』に一番近いけれど、『アイ』は性別も立場も関係ないもっと根本的な自分を指すの」
そう言って、豊かな胸、その奥にある心を指さす。つまり、あんまり難しく考えなくていいってこと、どっちなろうが明は明なんだから、と言って先生はお茶目に片目をつぶった。
「ねえ、先生はどうして『女』に決めたの?」
「好きな人と結婚したかったからよ」
幸せそうに笑った彼女に、心臓がまた少し跳ねた。

「でさあ、その時、潤が向こうから走ってきたんだけど、その走り方がすごく変でさあ!」
光が白い歯を見せてアハハと笑う。見れば見るほど太陽のような眩しかった。
先生との懇談から数日が経ち、提出締切までもう一週間もない。久しぶりに明は光と一緒に下校していた。
話が尽きたころ、光が頭を書きながらぽつりと言った。
「明、この前『男になれ』って言ってごめん。あの後、圭に『悩んでる人に無理やり押し付けちゃだめ!』って怒られたよ」
いつもの元気はどこへやら、しゅん、と肩を落とした光を見て、明は「らしくないなあ」と思った。その途端、電撃が走ったように色々なことがどうでも良くなった。なあんだ。
明は思い切って光の手を取った。温かい感触にとくんと心が動くけれど、気にせず話かける。
「ねえ、光。アイって知ってる?」
「えっと、誰かが好きとか、そういうの?」
「ち、違うよ! そうじゃなくって」
明は光に先生から聞いた話を教えてあげた。
「へえ。俺も僕も使っちゃだめだけど、アイならいいかな」
頷く明に、光は声を張り上げた。
「アイはすごい! アイは世界で一番偉い!」
大人たちがこっちを見る。なんだか本当にすごい人間になったような気がして、光と明は顔を見合わせて「アイ!」「アイ!」と叫んだ。うじうじ悩んでたことが馬鹿みたいに思えてきた。光は光だし、明は明だ。男になっても女になっても大人になっても。
アイ・マイ・ミー。けれどアイがあれば悩まずに済むのよ、と言った先生のことを、明は改めて正しいと思うのだった。

作者プロフィール

巴莉
書き始めたばかりの初心者です。よろしくお願いします。

作者あとがき

こんにちは。
性別を曖昧に! という課題でしたが、今回もとても難しかったですね! 時間ぎりぎりまで粘ったものの、まったくひねることができませんでした……。
性別と、名前や一人称の関係について、ボーイ・ミーツ・ガール(ガール・ミーツ・ボーイ?)な話を書きたかったのですが、いつの間にか別の話になってしまいました。

たまごライター彩葉のコメント

SFチックな話だけれど、最近のジェンダー的話題を考えるとあってもおかしくなさそうな未来だなと思いました。
近年男らしさ、女らしさを求めるのはやめようという言葉をよく聞きます。が、実際性別を失ってしまうとやはり男らしさや女らしさを求めてしまうものなのでしょうか。
今はまだ普通に使われている『I』を特別な希望的存在として受け入れるその発想も好きでした。
あとは……もう少し圭や光の個性が分かるともっとよくなるだろうと思います。
ご投稿、ありがとうございました。

 - たまごライター彩葉に挑戦

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