小説家のたまご

未来の小説家=小説家のたまごを応援するサイトです。

*

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品・彩葉賞:主人公の性別を曖昧にしなさい】染みついた手触り/チャンク

   

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品・彩葉賞:主人公の性別を曖昧にしなさい】染みついた手触り/チャンク

様々な難しそうなテーマで超短編小説に挑戦していただく、たまごライター彩葉に挑戦

たくさんの応募作品の中から、たまごライター彩葉(いろは)さんがピックアップした作品を、コメント付きで紹介いたします。今回は、彩葉賞(グランプリ)の発表です。

今回の挑戦状はこちら。
主人公の性別を曖昧にしなさい

染みついた手触り/チャンク

両親を殺した感触を、私は覚えています。

私が両親の介護を始めたのは、三十年勤めた会社を早期退職した五十二歳の時です。その時には二人ともすでに、重度の認知症でした。施設に入ってもらうという選択もありましたが、金銭的な問題もあり、無理でした。今まで親孝行らしいこともしていなかったので――恩返しと言ってはおおげさかもしれませんが――私を育ててくれたお礼のつもりで介護をしようと決めたのです。
私に兄弟姉妹はおらず、親戚と呼べる人は誰もいませんでした。すでに亡くなっていたり、どこに行ったか分からず連絡が取れなかったり。協力を得られそうな人は誰もいなかったので、始めから一人で両親の世話をするのだと考えていました。

介護をしていた期間は、十一年です。
始めのころは毎日のできごとが衝撃でした。両親は物忘れが激しく、物を置いた場所や食事をしたことを覚えていられません。外に出れば、家に帰るまでの道順すら分からなくなります。自宅の前まで来ても、それを他人の家だと思ったのか、「おじゃまします」と言いながら玄関を上がったこともありました。
両親は私のことを他人だと思っていたようです。母に「見ず知らずの人なのに、いつもお世話をしてくれてありがとうね」と言われたことは今でも覚えています。
しかし、両親は私のことを忘れていたわけではありません。たまにでしたが、私の話をしてくれました。小さいころからおとなしくて優しい子だったそうです。母は、当時小学校五年生だった私がテストで初めて百点を取ってきたことを、嬉しそうに語っていました。父は、高校生になった私と指した将棋で初めて負けたことを、悔しそうに喋ってくれました。思い出だけは記憶に残っていたようです。

介護を始めてから三年が過ぎたころ、両親は排泄にも介助が必要となっていました。下の世話です。私は始めから覚悟を決めていましたが、やはり大変です。臭いもきついのですが、それ以上に、両親のことを不潔だと思ってしまう、私の心に対して嫌気が差していました。自分の両親なのだからこれくらいの世話は当然だ、という思いと、いくら両親だからとはいえこんな姿は見たくなかった、という絶望感とで板挟みになっている感覚です。それでも介護を続けられたのは、両親にはもう私しか残されていないのだという、一種の使命感のようなものがあったからなのかもしれません。
それから六年ほどは、二人の症状も変わらず、私も介護に随分と慣れてきたこともあったので、苦労と呼べる苦労はあまり感じていませんでした。

ある日、父が転んでしまい、右足の大腿骨が折れてしまいました。入院してリハビリを受けたのですが、自宅に戻ってから結局は寝たきりとなってしまいました。同じ頃に母も、寝たきりとまではいきませんが、必要な介助が増えてしまいました。母には目立ったけがや病気も無かったので、老衰だったのだと思います。
私は二人に付きっきりで介護をしていました。私自身の自由な時間などはほとんどありません。湯船に浸かってくつろぐ、などという時間すら危険に思えました。両親から目を離している間に何かあったらどうしようという、強迫観念とも思える意識が頭から離れなかったのです。
最後の二年間は、私にとって最も辛かった時期でもありました。心も体も、すり減るように疲れ切っていました。

両親を殺そうと思ったのは、突発的とも計画的とも言えます。当時の感情は、正しいかどうか分かりませんが、「ついかっとなって」、という言葉が当てはまる気がします。しかし、「この二人がいなくなれば私は楽になれる」、と前々から思っていたことも事実です。
行動に起こしたのは深夜で、二人が熟睡している時でした。秋も終わりに近付き、かなり肌寒くなっていたと思います。
父から殺しました。父の体に馬乗りになり、その首を私の両手で締め、息ができないようにしました。「がっ、ぐおっ」と苦しそうな声が聞こえましたが、私はそれに構わず、体重を掛けながら両手に力を込めました。いくらか抵抗してきましたが、かなり弱いものでした。父は寝たきりで全身が痩せ、母よりも体重が軽くなっていましたので、筋力も相当に衰えていたようです。しばらくすると、父は全身の力が抜け、ぐったりとしていました。口からはよだれが少し流れていました。
父を殺してしまった事実を受け入れながら、私は荒くなった呼吸を整えました。「次は母を殺すんだ」と心の中で繰り返し呟きながらです。その時、別の考えが浮かびました。「母だけなら介護の負担も少ないのではないか」ということです。しかし、その考えはすぐに消え、また新たな考えが生まれました。「父を殺した子どもに介護されるなんて、母は嬉しくもないだろう」と思ったのです。この時にはすでに、私の心は壊れておかしくなっていたのでしょう。何が正常で、何が異常なのかが分からなくなっていました。「とにかく母を殺そう」という考えで頭がいっぱいでした。
母も父と同じように殺しました。母は父よりも抵抗が激しかったことを覚えています。首を絞め始めたら目を覚ましたらしく、私の顔を見ていましたが、それを私だとは認識していなかったようです。「あんた、ご、ぐ、だれ」というような言葉がかすかに聞こえましたから。もしかしたら、それも私の願望だったのかもしれません。子どもが母を殺すなんてことを、母に知ってほしくはありませんでしたから。認知症であったことを都合良く考えられたのは、この時が初めてでした。
二人を殺してから、しばらくその部屋に座って考えていました。自分が犯した行動を悪事だと受け入れようとしたり、自分の生活を取り戻すために必要なことだと正当化したり。興奮していた、と言っては語弊があるかもしれませんが、心が落ち着かず、体が痺れるような、熱くなるような、そんな感じでした。
その後私は、あろうことか逃げました。二人の死体を自宅に残し、財布だけを持って家を出たのです。とにかく、少しでも遠くへ行こうと思いました。二人から離れることによって、罪を犯した現実からも逃れたかったのかもしれません。
それからは自暴自棄になっていました。何ヶ月も風呂に入らず、髪もボサボサで伸び放題でした。コンビニなどで買った物を食べて、野宿をしたり、一日中歩いたり、河原をぼーっと眺めたりしていました。おそらく不審者だと思われていたでしょう。
金が底を突いたころ、たまたま警察に保護されました。自供はしませんでしたが、警察も捜査をしており、私はすぐに逮捕されました。

刑務所の静かな部屋で、今日もあの感触がよみがえります。

作者プロフィール

チャンク
チャンク
と申します。
映画・ドラマ・小説・マンガなど、物語が好きです。
最近はYouTubeの動画もよく見ています。
Twitter:@chank1129

作者あとがき

『主人公の性別を曖昧にしなさい』とのお題でしたので、どんな性別でも物語に破綻が生まれないような話にしたつもりです。誰もが抱いてしまうかもしれない危険な考えを物語にすれば、性別を越えて普遍的な意識を書けると思いました。
『曖昧にしなさい』という意味のとらえ方が違うと言われたら、私には謝ることしかできません。

たまごライター彩葉のコメント

そもそも主人公の性別という概念を考えさせないお話でした。私は始め介護という概念から無意識に女の人を意識して読みましたが、男の人だと 思えば男の人のようにも見えてきます。そしてどちらであったにせよ話の内容は変わらない。何のロジックもないのに、このお題を忠実に表現していて思わず見入ってしまいました。
描写も介護の辛さがひしひしと伝わってきて、お題という枠をとっぱらっても素晴らしい作品です。
ご投稿、ありがとうございました。

たまごライター彩葉の総評

今回も応募して下さった皆様、ありがとうございます。多くの方がこの企画に投稿してくださることが、私の力にもなっております。
個性的な作品の数々を私が独り占めできるなんて……わくわくしてくるのです。

さて、今回のお題は『主人公の性別を曖昧にしろ』ですね。
以前私がこのお題に解答した時、小さな波紋を呼びました。
私がこのお題に対して解答した作品は、そもそも主人公に性別がないというもの。
けれどそれでは『性別が曖昧』という概念に沿っていないと指摘されてしまいました。
では、主人公の性別が曖昧とは一体何なのか……それを悩みつつ今回の作品を読ませていただきました。
すると三種類のパターンに別れました。
まずは私が書いたものと同様、性別が存在しない主人公の話。
そらから描写によってどちらでも取れるようにする話。
そして男だけど女らしい、女だけど男らしい、という性と中身の違いを意識した作品。
一体どれが正解なのか……と一時は悩みました。けれど、そもそも正解などないのだろう、と思います。
何もこれはテストではありません。お題の感じ方は人それぞれ 。要はそれを吟味しながら一つの作品ができればそれでいいのです。まあ、完全にお題無視というのはいただけませんが……

早いものでこの企画も三回目を迎えたのですね……今後もこの企画が、そしてこのサイトが賑わうことを祈っております。
管理人のにわとり様に、そして応募してくださる方々に、大きな感謝を。

さてさて、次のお題は何かな~

 - たまごライター彩葉に挑戦 ,

ad pc

ad pc

コメントはお気軽に^^

  関連記事

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:オノマトペで遊びなさい】世界/こじゅMAMA

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:オノマトペで遊びなさい】世界/こじゅ …

【募集!たまごライター彩葉に挑戦】二人称で書きなさい

募集!たまごライター彩葉に挑戦 様々な難しそうなテーマで超短編小説に挑戦していた …

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:二人称で書きなさい】崖っぷち/ゆんゆん

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:二人称で書きなさい】崖っぷち/ゆんゆ …

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:超どんでん返しをキメなさい】裏表ユイ/甘い雨

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:超どんでん返しをキメなさい】裏表ユイ …

【新企画】たまごライター彩葉に挑戦

新企画 小説家のたまごきっての人気コーナーとなっている、「たまごライター彩葉の挑 …

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品・彩葉賞:ひたすらバナナを食べなさい】大きくなあれ/チャンク

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品・彩葉賞:ひたすらバナナを食べなさい】 …

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:ひたすらバナナを食べなさい】集団的一般の食べ物/高橋己詩

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:ひたすらバナナを食べなさい】集団的一 …

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:二人称で書きなさい】献身/仲山

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:二人称で書きなさい】献身/仲山 様々 …

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品・彩葉賞:超どんでん返しをキメなさい】ばあちゃんには敵わねえ/巴莉

【たまごライター彩葉に挑戦グランプリ作品・彩葉賞:超どんでん返しをキメなさい】ば …

【募集!たまごライター彩葉に挑戦】ひたすらバナナを食べなさい。

募集!たまごライター彩葉に挑戦 様々な難しそうなテーマで超短編小説に挑戦していた …