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【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:ひたすらバナナを食べなさい】不幸の幸福/ツバサ

   

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:ひたすらバナナを食べなさい】不幸の幸福/ツバサ

様々な難しそうなテーマで超短編小説に挑戦していただく、たまごライター彩葉に挑戦

たくさんの応募作品の中から、たまごライター彩葉(いろは)さんがピックアップした作品を、コメント付きで紹介いたします。最後には、グランプリ作品として「彩葉賞」も発表いたします。

今回の挑戦状はこちら。
ひたすらバナナを食べなさい。

不幸の幸福/ツバサ

水、水、水、水。正しくは塩水。
四方八方が海の中に浮かぶ船の狭い部屋の中。
火に囲まれる、水に囲まれる、狭いところに閉じ込められる。これが人間の三大恐怖と言われている。そしてこの三大恐怖は同時に絆が深まる要因ともなる。火に囲まれるはともかく、水と狭いの二つがあてはまるこの状況はいわばかなり絆が深まる条件だ。深まる条件……なのだが。
「助かったな、俺ら」
「あぁ。あと一週間遅かったら死んでたと気がする」
手と口をせわしなく動かしながら二人の男が頷きあう。今更これ以上絆を深め合っても仕方ない二人だ。
二人の違いは身長の高さぐらいでそれ以外の部分はほとんど変わらない。というかわからない。というのも、とてもきれいとは言えないからだ。服装はボロボロで髪もボサボサ。何日放置したのかもわからない髭は無精ひげの域をもはや超えて手入れをさぼったサンタの髭のようだ。こんな姿なために40代後半と言われても納得してしまう。だがしかし二人の年の功はわずか24なのである。
「落ち着いたかね?」
「ああ、はい。ありがとうございまっす」
「気にせず腹を満たしたまえ。これぐらいしか我々もないがね」
「いえいえ、マジでありがたいっすから」
お言葉に甘えてと、この狭い部屋に入ってきた船長と相対していた長身の方の男は食べることを再開する。小さい方もほっと息をついて一拍遅れて食べ始めた。
「ところで、名前を聞いてなかったね」
「そうでした、俺は柳瀬(やなせ)徹(とおる)っす」
「……俺は雲母坂(きららざか)奏(そう)です」
長身の男は徹と、小さい方は奏と名乗る。
「そうか。俺は船長の水野(みずの)猛(たける)だ」
お互いに今更ながらの自己紹介を終える。
「ところで、どうしてあんなへんぴな島にいたんだ?」
わずか数時間前。奏と徹のいた無人の島を思い出しながら船長は尋ねる。
「客船、ドルフィンマリン。御存知じゃないすか?」
徹の言葉に大きく目を見開く船長。船乗りの間で、いや、日本に住んでいる中でその名前を忘れているものはまだいないだろう。いたとしても、「ほらっ、あの時の」と言えば必ず思い出す船名。もしそれでも思い出さないのであれば、その人物はその時の記憶のない記憶喪失者か、赤子や幼児か、山奥にでも住んで人とのかかわりを絶っているような物好きだけだろう。
「たしか、前方に突然現れた海賊船との衝突を避けようと無理な旋回をして沈没したと聞いていたが……。まだ、生存者がいたとは」
「あっ、それが原因だったんすか」
当事者は意外と事故の原因というのは知らないものだ。
「というか、まだって、あれからどれくらいたってるんすか?」
「もう五か月だ」
「「五か月!?」」
驚きで声をハモらせる二人。毎日を生きるのに必死で月日なんて忘れていただけに、ここまで日にちが進んでいるものかと驚きが隠せない。手と口は驚きのさなかでもせわしなく動き続けているが。
「どうやっていままで暮らしてたんだ?」
「それは、コイツが色々頑張ってくれたんすよ」
そういって奏を指す。
「ほぉ」
「マンガやアニメで得た知識ですよ」
感心したような声をあげる船長に照れ隠しなのか早口で答える奏。口にくわえたそれをなめるようにしてから噛み嚥下していく。
「ゴミが結構流れ着いてたんでまず穴掘ってそこに海水を入れて中央にお椀を置いといたんです。で、上にビニールと重石をのせたら太陽の熱で蒸発したそれが中央に集まってって」
「自然の蒸留器か」
「まだ多少しょっぱかったですけど」
「それでもコイツすげーんすよ!ペットボトルとお菓子のゴミを使った罠で魚捕まえたりだとか、トイレ用の穴作ったりだとか、なんたら式っつうやつで火を簡単に起こしたり!」
「ヒモギリ式だ」
「そう!そのなんたら式!」
何回も説明しているのにいまだに覚えない徹にはぁっ、とため息を吐く。だが、この無駄なハイテンションに折れかけた心を幾度となく救われてきた。そのことに関しては感謝をしてもしきれない。
徹のハイテンションな姿に苦笑いをしつつ船長もゆっくり頷く。
「しかし、キミたち本当に運がいいよ」
「難破して運がいいとはこれいかにっすけどね」
「ははっ。命あるだけだよ。それにこのコースは本当ならだれも通らないようなコースなんだ」
「そうなんすか?」
「ああ。台風が来ているだろ?……って知らないか」
自分の発した言葉に情報入手源ゼロの彼らが知っているはずないなとセルフツッコミをする。
「とにかく台風来ているんだ。それで、進路変更を余儀なくされてな。それでこちら側から迂回しようした矢先」
「俺たちをみつてくれたんですね」
「あぁ」
船に向かって叫ぶ。手を振る。のろしを上げる。色々やったが一番効果的だったのはゴミとして漂流していた割れた鏡で太陽を反射させ船にあてるというものだった。そのまぶしい光に気づいた船員が徹たちを確認、保護したのだ。海のゴミには困ったものだと常々海好きの徹と奏は思っていたがこの無人島生活だけはゴミに感謝した。
「このコースはわざわざ通る必要性が皆無だからな。船もほとんど来なかっただろ?」
「そうなんすよ。てか、始めてきた船がこの船だったんすよ」
「無駄に希望が与えられるより偶然通った一隻目の船で見つかった方がよかったんじゃないか?」
「それもそうですね」
よっぽど叫んでいた二人は船に入った瞬間は喉がガラガラだったのだからその時の叫びようは想像に難くは無い。
「それに、一年以内に見つかってよかった」
「どういうことですか?」
「失踪宣告だ。船の沈没などの場合は一年間生死が確認できなかったら認定死亡となるんだ」
「えっ?じゃあ、生きたまま死んだことになるところだったんすか?」
「いや、失踪宣告の取消しはできるが、詳しくは俺もしらないが面倒なことにはかわりないだろう」
「そうっすね」
ますますよかったと息をつく二人。若者二人の姿をみて柔和に笑みを浮かべる。
「さてさて、俺も練習しとかないとな」
「なんのすか」
「客船ドルフィンマリンの生存者を救った船の船長へのインタビューに来る練習とそのアナウンサーを口説く練習だ」
「それで来たレポーターが男だったら最悪っすね」
「うん?どちらでもいけるぞ」
「「えっ……?」」
「冗談だ」
初めて手を止めた二人に大きな声で笑う船長。
「さて、もうすぐ港に着くころだ。このバナナ輸入船には水とバナナぐらいしかないが食べててくれ。余分な食料は台風のせいで遠回りをしから食い尽くしてしまったからな。まあお前らにとったら台風が命の恩人だがな」
「「はいっ、ありがとうございます」」
「おう」
ヒラヒラと手を振って船長は狭い部屋を出ていく。
「俺たちやっぱり」
「ああ」
「「生きててよかった」」
がっしりと生を意識しあいながら、やはり三大恐怖の二つがあるからかさらに友情を深め合う徹と奏だった。

作者プロフィール

ツバサ
小説家になろうでライトノベル、ファンタジー、恋愛ものを中心に描くなろうクリエイターです。

作者あとがき

まずはお読みいただき、感謝もうしあげます。
さて、今回のお題。今まで二つのお題と比べ、そうやってそれを取り込むかというのが難しいお題でした。
そこで私はバナナを能動的に食べているというよりはバナナを食べざる得ない状況というのを考えてみました。その結果思いついたのが今作品です。
徹と奏、そして猛という三人の男。かき分けも大変でしたがなんとなくこの狭い船内の雰囲気を楽しんでいただければなと感じます。
それでは、重ねてとなりますが、ありがとうございました。

たまごライター彩葉のコメント

舟の上で豪快にバナナを食べる二人組の様子が想像できて爽快な気分になりました。大量に積まれたバナナに安心感を覚えますね。
物語の地盤もしっかりしていて、シンプルに楽しめる一作でした。ご投稿、ありがとうございました。

 - たまごライター彩葉に挑戦

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