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【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:ひたすらバナナを食べなさい】社長、お待たせしました/磯部六郎

      2015/08/19

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:ひたすらバナナを食べなさい】社長、お待たせしました/磯部六郎

様々な難しそうなテーマで超短編小説に挑戦していただく、たまごライター彩葉に挑戦

たくさんの応募作品の中から、たまごライター彩葉(いろは)さんがピックアップした作品を、コメント付きで紹介いたします。最後には、グランプリ作品として「彩葉賞」も発表いたします。

今回の挑戦状はこちら。
ひたすらバナナを食べなさい。

社長、お待たせしました/磯部六郎

「バナナのソテーにございます」
大皿の上で、いい塩梅にバナナが焼けている。ああ、バターの匂いも香ばしい。本当に、バナナでなければ、いくらでも飛び付くのだが。
「お気に召しましたか」
「まだ食ってないよ」
「では、どうぞ、お召し上がりを」
秘書が、しれっとした顔でそんなことを言う。社長たる私に対して、慇懃ではあっても敬意は感じられない。お世辞ひとつ言わないのは彼女の美点だ。しかし、こんな時くらい甘やかしてくれたっていいじゃないか。
じっと、秘書が見つめてくる。食えという無言の圧力。分かったよ、食えばいいんだろ。まずは呟きを飲み込んで、次にバナナへナイフを差し入れる。ちょっと肉の形にしているところが、また腹が立つ。切れたバナナを、フォークで差して口に運ぶ。うん、いいバターを使っているな。最近高騰しているからな。そして、どうしようもなくバナナだった。デザートとしても、随分脂っこいものを持ってくるじゃないか。
「食が進みませんか」
「当たり前だ。いったい何時間バナナばっかり食っていると思ってるんだ」
「そう思いまして、調理に工夫を凝らしてみたのですが」
「いいか、バナナの寿司みたいなのを、また持ってきてみろ。大会社の社長が、人目もはばからず泣き喚くことになるぞ」
「しかし社長、今は社員一丸となって、バナナを食べに食べているのです。ここは長として範を示していただかないと」
「分かってる、分かってるよ。ちゃんと食べるから、明日は会社を休みにするか、株主総会を開くかしよう」
「などと言ってる間にも、バターが冷えて固まっていきますが」
「……謀ったな」
ソテーのふりをした料理が、どんどんバナナと油の塊に分かれていく。要は、とっとと食えという力強い意志の体現だ。中世の暇した貴族だって、こんな残酷なこと思い付かないだろう。
いいだろう。食ってやる。伊達に一代で会社を起こし、数多の社員を抱えているのではないというところを見せようじゃないか、バナナで。
私は乱暴に甘いソテーを刺し貫き、口の中へこれでもかと押し込んだ。これは肉だ、肉なんだ。甘いなあ、いや、肉が甘くて何が悪い!
持ち前の行動力により、皿の上から冒涜的な料理は消え去った。どうだ、参ったか。そう胸を張ろうとした矢先に、秘書が静かに2皿目を差し出す。今、この時ほど、私は信仰を持たなかったことを後悔したことはない。
「どうぞ」
どうぞじゃねーよ。お前も食ってみろよと言いかけると、秘書はおもむろに素のバナナを房ごと持ち上げ、ちぎっては食べ、ちぎっては食べを繰り返した。悪態さえ塞ぐ、この隙のなさ。
結局、私はソテー5皿、秘書はバナナを2kgほど食べきり、終業のブザーを迎えた。
「お疲れ様でした」
「なあ、いつまでこんなことやればいいんだ?」
「仕方ありません。今、この国は、バナナの皮本位制なのです。バナナの皮を用意できるだけ用意しなければ、経済闘争を勝ち抜くことはできません」
「電子化できない?」
「無理です」
「せめて、実はどうにかしようよ」
「人が食べた後の皮、というのがステータスなので」
「なんだ、この国」
とはいえ、社内一丸となって作られた皮が、莫大な利益に変わるのも確かだった。それと同時に、終業後にぼやくことも止められない。
「なにか、ご用意しましょうか」
「そうだな。胃薬とダイナマイトをくれ」
私はバナナで満たされた腹を感じつつ、目を閉じる。
秘書がどこかに電話をかけている。胃薬を、という声だけが聞こえた。

作者プロフィール

磯部六郎
多ジャンルを股にかける書き人。

作者あとがき

何故にひたすらバナナを食べなければならないかを考えた時に、まあ、お金がかかっているなら懸命に食べるだろうと考えました。
さらに、もしそれで経済が回っているならば、皆して、死にもの狂いにならざるを得ないでしょう。
そういった着想を元に、一気に書き上げてみました。
きちんとした信用の裏付けがあるならば、バナナの皮や耳垢が、金や紙幣の代わりだって構わない。そんな経済小説でもあります。

たまごライター彩葉のコメント

もうバナナは食べたくないと言う社長の思いがひしひしと伝わってきました。私も様々なバナナ料理を考えていましたがバナナのソテーとはなかなか斜め上の発想をいきますね。
また、バナナの皮本位制という制度は浮かびませんでした。けれどこの社会、本当にちゃんと成り立つのでしょうか ……未知数です。
ご投稿、ありがとうございました。

 - たまごライター彩葉に挑戦

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