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【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:ひたすらバナナを食べなさい】集団的一般の食べ物/高橋己詩

      2015/08/20

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:ひたすらバナナを食べなさい】集団的一般の食べ物/高橋己詩

様々な難しそうなテーマで超短編小説に挑戦していただく、たまごライター彩葉に挑戦

たくさんの応募作品の中から、たまごライター彩葉(いろは)さんがピックアップした作品を、コメント付きで紹介いたします。最後には、グランプリ作品として「彩葉賞」も発表いたします。

今回の挑戦状はこちら。
ひたすらバナナを食べなさい。

集団的一般の食べ物/高橋己詩

扉が一斉に開き、車両からホームへ、大勢の人が流れ出てくる。そのほとんどはスーツ姿の男か、スーツ姿の女。それ以外の少数はスーツ姿じゃない男か、スーツ姿じゃない女。一人ひとりがせかせかと、それでいて動きにくそうに、降車位置から一番近い階段へと歩を進め、改札階へ向かっている。
二宮三太郎も、その中にいた。人ごみのペースに合わせ、誰を追い越すこともなく、階段を上がっている。彼もまた、スーツ姿の男だ。
ランチタイムには何を食べようか。朝食を摂ってからまだ一時間程度しか経過していないが、二宮三太郎はそんなことを考えていた。実際、何を食べるかというのはとても重要な事柄である。
スパゲッティと豆を食べよう。二宮三太郎はそう決めた。
階段を上がりきると、二十メートルほど前方に改札機が見える。大勢の人がそこへ流れていく。いつもの、自分とは無関係な光景だ。ここでようやく、二宮三太郎は目の前にいるスーツ姿の男を追い越した。横目でちらと確認すると、その男はバナナを食べていた。
改札手前で曲がり、別の階段を使い、別のホームへ。見計らうように進入してきた下り電車に乗り、誰も座っていない三人席に腰を下ろした。この時間の下り電車というだけあって、乗客は少ない。
「おいしくないね」
「まずいよね」
向かいの三人席は、二人の女子高生と、その二人のものと思われる鞄によって埋まっていた。女子高生はこれが朝食なのか、揃ってバナナを食べていた。そして鞄にはどちらにも、アニメ『樋熊のパヤ郎』に登場するキャラクター、パヤ爺の絵柄のグッズが付けられていた。片方にはキーホルダー、もう片方には缶バッヂ。
「こないだの方がおいしかった」
「ってかさ、これ、土臭い」
アニメ『樋熊のパヤ郎』に登場するキャラクターの中で、最も人気があるのはパヤ郎である。第六話にしか登場しないパヤ爺は、それほど人気がなかった。つい先月までは。
現在のように人気を集めるようになったのは、あの読者モデルのウェブログが発端だと認識されている。女子高生とかのカリスマと呼ばれている、あの読者モデルである。彼女が右と言えば、女子高生とかは右へ進む。彼女が左と言えば、女子高生とかは左へ進む。あの読者モデルと女子高生とかは、そういう関係を保っている。それがいつまで続くかは、わからない。
では、パヤ爺の一体どこに、あの読者モデルは惹かれたのか。その日のウェブログの言葉を引用すると、「ワケわかんけど、サイコー」ということだ。
「ってかさ、ビニ袋、忘れたんだけど」
「あたしの使っていいよ」
片方の女子高生が、鞄からビニール袋を取り出す。バナナの皮を二人ともそれに捨てた。それから二人とも、新しいバナナを食べ始めた。
停車し、扉が開く。二宮三太郎の降りる駅に到着した。
バナナを食べながら立ち上がった女子高生二人に先を越され、二宮三太郎が最後に降車する形となる。入れ違うようにして乗車した老人も、バナナを食べていた。
先ほどの駅と比べて随分狭い改札を通り、二宮三太郎は駅を出た。ここから会社までは十分とかからない。
駅前広場の喫煙所に、上司を見つけた。会釈だけでもしようと、二宮三太郎は足を止める。上司は灰色のステンレス皿にタバコを押し付け、丁度火を消しているところだった。喫煙所から出てくるのかと思いきや、内ポケットからバナナを取り出し、皮を剥き、食べ始めた。二宮三太郎が見ていることに、気付きもしない様子だ。
上司は最近、海外の連続ドラマにはまり込んでいる。無人島が大火災に見舞われるあのドラマや、刑務所が大火災に見舞われるあのドラマ、ヴァンパイアが大火災に見舞われるあのドラマも、ブルーレイでリリースされているものはすべて観たようだ。
二時間の映画すら毛嫌いしていた上司が、これほどまでに連続ドラマに時間を割くようになった。それは恐らく、あの青年実業家の影響だろう。統計学ブームを起こしたとされている、あの青年実業家だ。昨年までは「経営学に精通している」であったり、「販売戦略の達人」といった肩書き付きで多くの情報番組に出演していたのだが、今となっては屈指の海外ドラマファンということで、海外ドラマのテレビコマーシャルにも出演している。
今にして思えば、ではあるが、上司は髪型もスーツの色合も、あの青年実業家に寄せていたようだ。あくまでも、今にして思えば、ではある。どうしてそこまで肩入れできるのかは、判然としない。
バナナを一本食べ終えた上司は、二本目の皮を剥き始めた。会釈は諦め、二宮三太郎は会社へ向かうことにした。
駅前のロータリーを過ぎ、大通りへ。歩行者用の信号が青く点灯している。早足で横断歩道を渡っている間、向こうから渡ってきてすれ違ったのは五人。そのうち三人は歩きバナナをしていた。
ここまで多くの人が人前でバナナを食べることになるなんて、誰も予想していなかっただろう。八百屋も、果物屋も。更には、自らバナナ好きであることを公言した人々も。たとえばあの読者モデル、たとえばあの青年実業家、たとえばあのミュージシャン、たとえばあの専門家。誰もがバナナ好きであることを、テレビやラジオ等の媒体を介し主張した。ここまでタイミングが重なったのは「偶然」か、単なる「連鎖」か。いずれにせよ、影響力を持った彼らの一言によって、無意識のうちに人が動かされているのは、いつの時代も変わらないことだ。
会社に近づくにつれ、歩きバナナをする人が多く見られるようになってきた。二宮三太郎の勤める会社ではこの流行が著しく、しかも勢いは増す一方。だから会社の前に到着した頃には、周りはバナナを食べる人だらけになっていた。どこを向いても、バナナを食べている人、人、人。
ここまで来て、二宮三太郎は鞄から取り出したバナナを食べ始める。読者モデルや青年実業家に影響されているわけではない。むしろ、「テレビで言っていたから」とか、「ネットでニュースになっていたから」という理由によって自分の行動を決めていく行為を、心から嫌悪しているくらいだ。
ではなぜ、二宮三太郎はここでバナナを食べ始めたか。
バナナにはカリウムが豊富に含まれており、代謝の促進作用がある。高血圧に良いとされている。ちょっとしたコミカルさとかわいさを兼ね備えていて、嫌いな人が少なく、誰にでも愛されている食べ物である。
それだけの要素が揃っているからこそ、バナナを食べ始めた。これが理由の一つである。

そして理由はもう一つ。
自分一人、皆と違うことをするわけにもいかない。
そういうことである。

作者プロフィール

2010年、講談社birthより『ちいさなこと』で小説家デビュー。現在は文学フリマ等のイベントにおいて、新作小説の無料頒布を行っている。

作者あとがき

高橋己詩
彩葉さんに挑戦をする上で、何より、彩葉さんとはまったく異なる切り込みで書く、ということが必要だと判断しました。人物描写や文体等を含め、意識的に作風は遠ざけております。そしてひたすらにバナナを食べる、その対象についても、異なる切り込みをすることにしました。そのため僕は、主人公以外の登場人物に、ひたすらバナナを食べさせております。
重複しますが、まったく異なる切り込みで書こうとしておりますので、これは決して真っ向からの挑戦とは言えないかもしれません。ただ、一つの手法を提示してくれた彩葉さんに対し、また新たな手法を提示したという意味合いでは、紛れもない『彩葉に挑戦』と言い切れるのではないかと。

たまごライター彩葉さん。こんな手法、いかがでしょうか。

たまごライター彩葉のコメント

主人公の周りにいる様々な種類の人間が日常の中でバナナを食べている。一見普通の現代社会の中にバナナが紛れ込んでいる物語全体としての構成がきれいでした。文章力が極めて高いのがこの一作です。
このような描写が出来るよう私も精進していきたいとひしひしと感じました。
ご投稿、ありがとうございました。

 - たまごライター彩葉に挑戦

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