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【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:1億円を使いきりなさい】一億円の価値/火鈴あかり

      2016/03/26

【たまごライター彩葉に挑戦ピックアップ作品:1億円を使いきりなさい】一億円の価値/火鈴あかり

様々な難しそうなテーマで超短編小説に挑戦していただく、たまごライター彩葉に挑戦

たくさんの応募作品の中から、たまごライター彩葉(いろは)さんがピックアップした作品を、コメント付きで紹介いたします。最後には、グランプリ作品として「彩葉賞」も発表いたします。

今回の挑戦状はこちら。
1億円を使いきりなさい

一億円の価値/火鈴あかり

ある心理実験の為、この場に集められた四人の男性女性。
ただその用件は知らされず、ただ困惑する姿を見せる最中。
当の依頼者である男性が現れると、本題に入る前の前置きとして、ひとつ語り始めた。

「──さて、ここにお越し頂いた皆様。もし貴方が一億円を手に入れたとしたら、そのお金を何に使いますか?」

それは唐突な質問だった。
いきなり聞かれても答えようのない質問。四人の男女が悩む素振りを見せた所で、その返答は挙がらない。当然と言えば当然だ。ここに集められた四人の男女は、そんな巨額を手にした事などないのだから。そもそも、自分が手にする想像もつかないことだろう。
その事をわかっているからこそ、依頼者の男性は無理な返答に期待せず、言葉を続ける。

「とはいえ急に言われましても、返答に困るのは当然の事。ましてや一億円という巨額の使い道。ひとつやふたつでは語り切れぬ事でしょう。今回は、それを踏まえた上で、ある実験に付き合って頂きます」

依頼者の男はそう述べると、手に持ったジェラルミンケースを開ける。
そこに入っていたものは、先程語っていた想像もできないもの。ケースいっぱいに詰まった大金だった。
一同が目を丸くする中、依頼者の男は本題に入る。

「ここに先程申し上げた巨額の大金、合計四億円あります。こちらをここにお集まり頂いた皆様に、一億円ずつ預けましょう。今日から二週間の間、このお金を皆様が思うようにお使いになられて下さい」

──どういうことだ?
依頼者の男の思わぬ言葉に、一同は言葉を失った。
もちろんただ喜ぶ者はいない。何か裏があるのではないかと疑っているのだ。そんな美味しい話、何もないはずがない。
その向けられる疑心の目に、依頼者の男は言葉を続ける。

「これから預ける一億円、もし一円足りとも残さずに使い切れば貴方のものです。……ですがもし、一円でも残してしまうことがあれば──その際使用した金額を、全額請求させて頂きます」

要するに、今回の心理実験はこうだ。
人はどうやって二週間という期間で、一億円を使い切るのか。
もちろん失敗すれば巨額の借金を得る事になるが、もし使い切れば一生手にすることのない巨額を得ることも、そこから富を築き上げる事もできる。

やらない手はない。それぞれがそれぞれの想いを胸に、その一億円を受け取った。

──あれから、二週間。
それぞれの参加者がどうなったか、結果を見てみよう。

まずは一人目。
彼は豪遊に豪遊を重ね、一生使い切れぬ大金を使った。……そのはずだった。
しかし、自分が思ったように金は減らず、ましてや一億という大金には届かない。
結局手元に残った金に絶望し、多額の借金を背負うこととなった。
彼が思っていた最高の贅沢は、所詮その程度のものだった、というわけだ。

次に二人目。
彼はこの一億円をどう使い切るか悩んだ結果、起業した。
その金に物を言わせ、コネを作り上げ、僅か二週間という期間にもかかわらず、その巨額を使い切った。……そこまでは、よかった。
だが、金の切れ目が縁の切れ目、という言葉をご存知だろうか。
いままで金に物を言わせた結果、金が尽きればその人間関係も簡単に崩れる。結果として回るものも回らなくなり、彼は破産することとなる。
この男はその身を以て、人の心は金では買えないということを知らしめたのだ。

次に三人目。
彼女はこの一億円を受け取った直後、その金を持って高飛びした。
当然と言えば当然の選択かもしれない。この一億という大金、二週間で使い切るにはあまりに惜しい。使い切れなかった場合のリスクも大きく、彼女自身、使い切れない事はわかっていた。
だからこそ、そのリスクを避けるために、高飛びした。遥か遠い別の国に。
いままでの人間関係を捨て、何もかもを放り捨て、逃げ出した彼女。だが、そんな彼女もいずれ捕まることとなる。
確かに賢い選択ではある。その一億という巨額を手にするには。
しかし、その為だけに全てを捨て、逃げ出した時点で、彼女の人生は狂ってしまっていたのだ。
金は人を狂わせる。彼女はそのことを証明したのだった。

最後に残った一人の男性。
彼は再びこの場にやってくる。逃げも隠れもせず、堂々と。
そして彼は手に持った一億円を、何も言わずに返却した。
一円足りとも使わずに、残ったままの一億円。
これは流石に予想外だったのか、立ち去ろうとする彼に男は尋ねる。

「……何故、貴方はお金を使わなかったのですか?」
「いいえ、私は確かに全額使い切りました」

彼の答えに、男は首を傾げる。
その意味がどういうことなのか、彼は微笑み言葉を続ける。

「私はこの二週間の間、『一億円を手にするという夢』を見させて頂きました。一生かかっても見る事のできなかった夢です。そこには、その一億円の価値があります」

──つまり。
彼は今、この二週間の間見ていた『夢』の代金を支払ったということだ。

深く礼をし、清々しい顔で立ち去る彼の後ろ姿を見て、男はぽつりと言葉を零す。

「金の価値は人それぞれ、ですか……」

自分にはない、その価値観。
これは面白い結果が出たと、男は感心するのだった。

作者プロフィール

火鈴あかり
北海道在住。
ここ最近趣味で小説を書き始めた、しがない物書きです。

作者あとがき

お初申し上げます。火鈴あかりと申します。
面白い題材でしたので、息抜きも兼ねて一話書き上げさせて頂きました。
いまだ未熟な者ですが、楽しんで頂ければ幸いです。

一億円を使い切れ。期間次第ではありますが、私が欲望のままにお金を使ったところで、まず一億という金額に届くことはないでしょう。
お金で時間が買えればよかったのですが、いかんせんそれはできません。できたら私は散々趣味にお金を費やした後、残る金額で趣味を堪能する時間を買いますのに。

さて。それでは逆に問いましょう。

それほどまでの大金の価値があるものは、なんなのか。
このお話では、二人の人物が、各々の答えを見せています。
もしよろしければ考えてみて下さい。
貴方にとってそれだけの価値があるものは、なんでしょうか?

たまごライター彩葉のコメント

1億円の使いに4つものパターンを用意してくださいました。それぞれの戦略と末路がしっかりとしていてテンポもよく、最後も上手い具合にトンチが聞いていて楽しく読めました。ありがとうございました。

 - 1億円を使いきりなさい ,

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