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【美食家のたまご】第0回:プロローグ

   

【美食家のたまご】第0回:プロローグ

美食家のたまご

女性が副業を持っている割合は約二十七%だと、何かのwebサイトで公表されていた。つまり、四人に一人は副業を持っていることになる。それは、私・奥田薫(おくだかおる)も例外ではない。
平日はとあるメーカーに勤務する私も、休日は別の顔……は言いすぎかもしれないけれど、休日になれば「物書き」として活動をしているからだ。それも立派な副業であるに違いない。

ただ「物書き」といっても、なんとか賞受賞! や小説が書籍化しています! という華々しい経歴を持った「作家先生」ではない。ネットで自作の小説を公開している傍ら、縁あって知り合った編集者経由でwebライティングの仕事をもらい、たまに記事を書いて小銭を稼ぐ。その程度だ。
しかも、せっかく編集者と出会ったのだから……と自作の小説原稿を持ち込んでもらうはいいけれど、

「うーん、悪くはないんだけど」
「けど、なんですか」
「何かが足りないんだよ、奥田さんの作品。それが補われないと、難しいな」

言った本人でさえもわからない感覚を抽象的な言葉で評論され、いつもそこで止まってしまう。
そういうことが、ここしばらく続いているのが現状。なかなか前に進めない。

 

……小説家になること。それは子供の頃からの夢だった。子供の頃はただ漠然とそれを夢見ているだけだったし、それを職業にしようだなんて思っても見なかった。元に私は今、メーカー勤めのOLだ。この仕事に物書き業が関わってくることなんて、正直言って何もない。
ただ近年ネットでの自作公開が主流となってきたのをきっかけに、「私もやってみようかな? 上手くいけば、何かにひっかかって声がかかるかも」なんて考えた。いや、考えてしまった。当然ながら今思うとそれは、高濃度の砂糖水を一気飲みする以上に甘い考えだった。

ネットで自作の小説を公開している人なんて、いまや何万人といる。
では私が目指す「小説家」って、どのレベルの事を言うのだろう? ただ単に小説を書いて公表するレベル? ネットで話題になるレベル? それとも、書籍化されるレベル? それとも、それ一本だけで食べていけるレベル……?
その目標設定もあいまいな上、本業ではなく副業レベルで物書きをする自分。一説では、新人賞を取った作家や漫画家などに編集がアドバイスする時は、「今の仕事をやめないほうがいい。それだけでは食べていけないから」……そんなことを言われる場合もあるとかないとか。それを考えると副業レベルの物書きでも問題はないのかもしれないが、重要なのは本業か副業かではなく、自分のレベルということになる。そこそこのレベルでは、ただネットに小説を公開しただけで出版社から声がかかるなんて、夢の又夢。一生分の運を神様に捧げたところで、それが見合うかどうかさえも分からない。

心のどこかでは、そんなことちゃんとわかっている。でも、やはり少しは希望を持ってしまうのだ。
それに書いている以上は、反響は欲しいし感想だって欲しい。一生懸命書いているし、努力もしているはず。
でも……やっぱり思うように芽は出ない。あまつさえ編集者に「何かが足りない」と言われる始末。しかも、周りに理解者はいないから相談するにも出来ない状況だ。

じゃあ、諦める?
……いやだ。そんなのは嫌。とりあえず、足りないといわれている「何か」がわかれば少しは状況が好転するかもしれないけれど、やっぱりそれがわからなくて、結局のところは進めない。
そのおかげで、最近では平日の仕事中にもぼんやりと考え事をしてミスを犯したり、長年付き合っている彼氏にも愚痴ばっかりを言っては喧嘩になる。

二十七歳独身の私。学生時代から付き合っている彼氏はいるけれど、そんな彼とも二十代前半の時は早く結婚したくてしょうがなかった。
今だって結婚はしたい。でも前ほど、彼も結婚については何も言ってくれなくなった。寧ろ、その話題を避けているようにも感じる。たまに質問すれば、「もう少し待って」「今は仕事を頑張りたいんだ」と、そんな答えが返ってくるようにもなった。
もしかしたら、このままずるずる延ばされてもう……。私だってそれなりにいい年だ。今更「別れる」と言われたって、また新しい誰かとの出会いから始めるなんて、恐ろしくて考えたくもない。
そんな不安がよぎる事もあり、いつのまにか、私から結婚については彼に聞けなくなっていた。このままではいけないことなんてわかっているのに。……こちらも中途半端な状態が続いていた。
何をしても、中途半端。スッキリハッキリしたいのに、何をやってもうまくいかない。
何これ、呪い? それとも厄年?
……どちらにせよ心当たりもないし厄の年回りでもないので該当なし。ということは、ただ単にツキの無い運気だということなのだろうか。今日も私は、そんなことを考えながら一日を過ごしている。
でも。そんな私の毎日を百八十度返るような出来事がこれから起きようとしていると、誰が想像出来たろう?
たった一言。魔法の言葉が、中途半端で先に進めない私の「心の扉」の鍵を開けてくれたなんて。しかもそれが、

「先輩、今日はいつも以上に顔がネガキャンしていますよ」
「余計なお世話よ、ハチのくせに!」
「仕方ないなあ、せめて顔だけでも明るくなるように、俺がおごってあげますよ」
「せめて、は余計! 別にハチにおごってもらわなくたって、お昼ぐらい……」
「どーせ、いつものコンビニ弁当でしょ? 先輩、少しくらい女子力を挙げるフリしとかないと、マジ彼氏に逃げられますよ」
「い、言われなくたって、私だって料理くらい……」
「……ま、食べるの好きでも料理が出来なきゃ、その時点で結婚は遠いってことですね。長引く独身生活、お金かかりますから今日くらいは僕がおごりますって」

親切な振りして失礼極まりなく、挙句の果てに偉そうな後輩の言葉だったなんて。

呉羽千里(くれはちさと)。通称ハチは、私の二年後輩で同じプロジェクトチームの男の子だ。
男の子と入っても二十代半ば。でも童顔で甘いマスクと年上の女性に甘えるすべを身につけて世を渡り歩くこの青年は、当然ながら社内の女性陣に人気がある。
しかしこのハチ、同じ女性ではあるのに、なぜか一緒に仕事をする私に対してはやたらと手厳しい。ダメだしばかりする、というかダメだししかしない。情けないことにそれが的を得ているので、言い返すことが出来ないのが悲しいところだ。

とはいえ、おごってくれるというのに乗らない手は無い。
独身一人暮しのOLは、何かと出費がかさむしねと、私は自分に都合がいいようにそう言い聞かせつつ、
「……美味しくなかったら、末代まで呪ってやるから」
結局はハチに負けず劣らずの性格の私は、何だかんだで結局は断るどころかハチと一緒に出掛けることになる。
でも……こうしてハチと出かけることをきっかけに、毎回不思議で、貴重な体験をすることになるとは、この時点では思ってもみなかった。

 

——-これは、そんな私・奥田薫と、ハチこと呉羽千里の日常に、時として「スパイス」となるグルメとの遭遇と、そこから得る「貴重なこと」が不思議に折り合いながら綴られてく物語なのである。

 

たまごライター:八湊真央
writer_mao_100静岡県在住の、会社員兼一児の母兼フリーライター。ライターのお仕事ではコラムを中心に書いています。その他、中学生の頃から小説も書いています。現在、オリジナル小説を「pixiv」「小説家になろう」にて掲載中。フォロー大歓迎。二次創作サイトは「Cloud9+cafe*」。Twitter:@n_wing0224

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美食家のたまごでは、本当に実在する飲食店と、その料理を、小説仕立てでお届けします。物語は半分フィクションですが、基本的に登場する店舗や料理はノンフィクション、つまり本当に実在する店舗です。

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