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【美食家のたまご】1皿目:カフェ アリヤのベリー・マスカルポーネ(後編)

      2017/06/06

美食家のたまごとは

美食家のたまごでは、本当に実在する飲食店と、その料理を、小説仕立てでお届けします。物語は半分フィクションですが、基本的に登場する店舗や料理はノンフィクション、つまり本当に実在する店舗です。

「美食家のたまご」のまとめ読みはこちらから。

1皿目:カフェ アリアの季節限定フレンチトースト(後編)

美食家のたまご

「先輩、色々なものを手を出しすぎなんじゃないですか?」
「え?」
「何やっても上手くいかないから、とりあえず流行りのものに手を出してみよう。それに乗っかってみようって」
「……」
「いわゆるあれですよ。私の作品に人気が出ないのは、その作品がテンプレものじゃないからだ。テンプレ書けば私だって……って勘違いするやつ」
ハチはそう言って、既に空になったお皿にナイフとフォークをそっと置き、私の目をじっと見つめる。
……ハチに見られるのは初めてじゃないのに、何だか心や頭の中まで見透かされたような気がして、居心地が悪い。
私は思わず目を逸らすと、目の前の料理を食べることに集中する。

……お勧めのコーヒーをフレンチトーストと一緒に口に入れると、ほろほろとそれが口の中で混ざり合いいつの間にか溶けてなくなる。
仄かなコーヒーの苦味と、フレンチトーストの甘みが絶妙に溶け合いそれが癖になる。まるで、このフレンチトーストに合うように、コーヒーを淹れている。そんな風にさえ、思う。
そしてそれを楽しんだ後は、季節のフルーツソースとマルカルポーネアイスをトーストにつけ、今度は甘みと酸味の融合を味わう。
苦さに甘さ、酸っぱさ……様々な味覚に次から次へと食欲を刺激され、ついついハチと話をしていたことを忘れてしまいそうになってしまった。
そんな私をハチは面白そうに見つめつつ、再び語りかけてきた。

「……このお店のフレンチトーストは、もうずっとこのスタイルなんですよ。僕がここを利用するようになったのは学生時代からでしたけど、それ以前からずっと」
「その時から、この場所でカフェを?」
「ええ。ねえ先輩、今は色んなカフェが増えて、だいたい皆カフェって言うと、グリーンに囲まれて日の光があたるオープンなイメージで若い人たちが利用するっていうのを思い浮かべるでしょ? でも、ここはずっと、この地下のフロアにあるんです。内装も前と変わらない。利用するターゲットも、老若男女さまざまです。メニューも、月ごとにお勧めは変わりますけどメインは変わらない……それなのに開店から三十分もしない内にほぼ満席になってしまう、それくらい人気のお店です」
「そうなんだ……」
「口コミが口コミを呼び、リピーターも多い。それは何故か……それは、昔からあるものを繋いでいくっていうコンセプトを、オーナーが大事にしているからなんです。ぶれてないんです。味も、コンセプトも。それは、『古めかしい』というのとは違う。揺るがない信念や想いがあるということです」
「ハチ……」
「僕は作家じゃないからわからないことも多いけど、わかることもあります。テンプレ物だから人気があるんじゃないんですよ。テンプレ物でも、中身がなければ廃れます。逆にテンプレ物じゃなくたって、内容がきちんとしていれば、わかります。一番だめなのは、中途半端なこと。どっちに振り切れる事もなく、中途半端に足を突っ込むことです」

ハチはそう言って、いつの間にか俯いていた私の傍で湯気をあげているコーヒーを指差し、

「そのコーヒーね、フレンチトーストに合うものをって、オーナーがこだわって入れているんですよ」
「え、やっぱり? ……確かに、フレンチトーストと一緒に飲むと本当に美味しいのよね。口の中で、ほろって溶けるのよ。こんなの初めて」
「でしょう? フレンチトースト自体は、カフェの鉄板メニューですよね。でも、そこにどんな個性があってどんな想いが込められているか。どんな魅力がそこに詰められるか。そこが大事なんですよ」
「……大事なのは、その作品を自分がどうしたくて、どう自分らしくするかってことなのね」
「そういうことだと思います。多分先輩に足りないのはそういう部分ですかね」
「ふっ……何よ、偉そうに。あんた、私の作品なんて読んだことないでしょう?」
「じゃあ読ませてくださいよ」
「絶対に嫌!」

私がべーっと舌を出すと、「あーあ、残念。喜んで批評するのになあ」とか何とか、ハチはニヤニヤ笑いながら私を見ていた。
職場の同僚に趣味の小説を真剣に読まれるなんて耐えられない、と私は真剣に思う反面、ハチの先程の話にはとても納得する面もあった。

……確かに私は、中々人気が出ない、反響がないことを悩んでいて、別に興味もなかった今の流行分野の話に手を出すこともあった。
それなりに、文章を書く自信はあった。でもそれはあくまで「それなり」で……結局、下調べも十分じゃないし、それ専門で書いている人の足元にも及ばない。
「それなりに」は「なんとなく」とほぼ一緒。だから、出来上がった作品もなんだかぼやけたものばかりだった。
もしかして編集さんが言っていた「何かが足りない」というのには、そういうものに対する私の姿勢や、ある種の振り切れなんじゃないか。
私らしい何かが、足りない。そういうことなんじゃないか。
そう思った。

……ちょっと、前に進めるような気がしてきた。

「……ハチ」
私は残りのフレンチトーストを全て頂いた後、目の前のハチを改めて呼びかけた。

「ありがとう。何だかちょっとだけ、前に進めるような気がする」
「そうですか。それは良かったですね」

ハチはそんな私に笑顔でそういうと、伝票をサッと手に取り立ち上がった。そして、

「さ、先輩そろそろ戻りましょう。午後は、プロジェクトのミーティングがありますからその準備しないと」
「そうね。ああ私、午前中の大ポカを挽回しないと」
「そうそう。ホント頼みますよ」

さっきは感謝したけれど、やっぱりいつもどおりの、年下のクセに偉そうで生意気なハチ。ハチは会計を済ませてお店から出て行く。

「何よ、ハチのクセに偉そうに!」
私はそんなハチに文句を言いつつも、何だかんだいって奢ってくれて、そしてハチなりに励ましてくれたことには感謝した。
そして私も、柔らかな笑顔で見送ってくれたオーナーや店員さんに頭を下げて店から出た。

地下にあるカフェから地上への階段をゆっくり上っていくと、徐々に青い空が見えてくる。
薄暗い場所から抜け出そうとする私を、その空から降り注ぐ光が照らし出してくれるかのように感じた。
……きっと、大丈夫。私は前に進める。
この上り階段から見上げた青空が、何だかそれを後押ししてくれるかのような気がした。

アリア写真

今月の一品

今回、僕と薫先輩がお邪魔したお店はこちら!

「季節限定フレンチトースト『ベリー・マスカルポーネ』」
(カフェ アリヤ(cafe AALIYA))

住所:東京都新宿区新宿3丁目1-17
URL:https://twitter.com/cafeaaliya
営業時間;10:00~22:30(月~日)
最寄駅:新宿三丁目駅A1出口徒歩1分
予約不可

新宿駅からも徒歩圏内にあるお店。地下にあるお店に繋がる地上部分には、わかりやすい看板があります。
季節限定のフレンチトーストや、様々なトッピングを楽しめるフレンチトーストミックスは特におすすめ!
スープ付きやサラダ付きのセットもあるので、ランチ時にはデザートだけでなく食事としても楽しめます。
十種類以上の紅茶や、フレンチトーストに合うように選ばれたオーナー拘りのコーヒーもおすすめです。

たまごライター:八湊真央
writer_mao_100静岡県在住の、会社員兼一児の母兼フリーライター。ライターのお仕事ではコラムを中心に書いています。その他、中学生の頃から小説も書いています。現在、オリジナル小説を「pixiv」「小説家になろう」にて掲載中。フォロー大歓迎。二次創作サイトは「Cloud9+cafe*」。Twitter:@n_wing0224

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