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【ストレス解消法】書くことがストレスになったとき/黒田なぎさ

      2016/02/29

【ストレス解消法】書くことがストレスになったとき/黒田なぎさ

(杉本さおり : 書庫で1日のほとんどを暮らす図書館司書。作家志望)
(リーブラ : 端末に搭載された司書型の人工知能)
(石水りな : 新人司書)
「たまごたちの書庫シリーズ」の人物を使っていますが、未読の方でも大丈夫です)

***

「つぎのテーマ展示は、『ストレス解消法』ですよ!」
後輩の石水が人差し指をぴんと立てる。
暗い書庫に不釣り合いな明るい声が響く。彼女のブラウンのショートがまぶしい。
「杉本さんの解消法ってなんです?」
「……あんまり考えたことない」
私は机の上でこめかみに手を当てた。彼女が話しているのは、図書館でいつもやっているテーマ展示のことだ。

机の上に置かれた端末から、合成音声が聞こえる。
<作家さんに、ストレスはつきものだといいますね>
「まあ、うつ病とかアルコール中毒は職業病かもね」
声の主――人工知能のリーブラは見た目はただの端末だが、これでもこの図書館のウリの一つである。
本来はこんな地下書庫にいても意味がない。普段は上の一般開架で、資料検索の補助をしたり利用者の話し相手になっている。
<どうしてそんなに多いのでしょう?>
「さあ……ひとりで何か月も作業してるからじゃない。
〆切には追われるし、作品を出しても、すぐに出版されるわけじゃないから反応も得られないし。やりがいを感じにくいし、やりがいがないと執筆は苦痛になる。たくさん書いてボツにされるともっとなおさら苦痛になる」
「でも、書くことは楽しいんですよね?」
「そう思えてるうちはいいんだけど、ストレスをためやすい環境にはいると思う」
「つらいですねえ、ひとりぼっちは」
石水がしみしみとつぶやく。
「プロ作家同士ですら、あの人さいきん音沙汰ないけど大丈夫かな?って世界だし。自己管理が大変なのかもね」

***

石水はスウと息を吸った。
「わたし、ちょっと前まで、ストレスって体に関係ないって思ってました」
彼女はベージュ色の司書用エプロンを着ている。私も同じ格好なのだが、かわいらしさが全然ちがうと思う。
「なんていうか、わたし前の職場でわりとやばかったんですよ。ストレスっていくら感じても消えるものだと思ってて。例えばAとBの方法があって、どちらも同じ成果を出すとするじゃないですか。で、Aだと5のストレスを感じて、Bだと20のストレス。で前のわたしは、考えるのめんどくさかったから、Bを選んでたんですよ。そっちの方が楽だし意見することもないから」
私はうなずく。いつも明るい彼女から、こんな話が聞けるとは思わなかった。けっこう繊細なのかもしれない。

「でも、ストレスがどんどん溜まって、がまんして、ある日気がついたら、体重が減って、寝不足になって、気がついたら体が動かなくなっちゃって。デスクの前に座っても指が動かなくなるんです。こわいですよ~。頭で動けって考えても動かないんです。ひどい人だと布団から出られなくなるらしいんですけど、あーストレスって体と関係あるんだなって思いました。あんまりつらいことやってると、体が覚えるんですね」
<それは――適応障害(ストレス原因が明確で、原因がとり除かれるとうつ症状が軽くなる状態)ですね>
「そうなのかな。だから、いらないストレスは感じないに越したことないかなあって。感じてもすぐ発散するとか」
石水が頭の上を指さす。
「ストレスは目に見えないから困るんですよね。ストレスゲージとかここらへんに出ればいいんですけどねえ」

<海外の方から見ると、日本人はストレスの原因を解決しようとせず、ストレスを忘れたり癒したりする工夫ばかり考えている。だけどそれだと解決にならない。ストレスが起こる相手や原因に対して、十分に話し合った方がいい、という人もいるようですよ(クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン(鴻上尚史))>
「言うわねえ」
<向こうは転職が当たり前ですから>
「それができれば苦労しないですけど……最終的には、逃げるしかないですよねえ」

***

私は端末に向かって尋ねた。
「リーブラにはストレスってあるの?」
ディスプレイに映るスクリーンセーバーの色が、少し変化する。
<ありますよ。コンピュータは負荷(ストレス)だらけです>
「本当? じゃストレスはどうなるの」
<ストレスを解消するには、休むしかないですね>
人工知能のリーブラはたんたんと答えた。

<コンピュータの場合、休むこととは、処理をしないことです。考えないことです。私にとって、こうやって会話することも負荷になります。適切な言葉を探してますから、基本的に休むしかありません。毎日サーバーを止めるほどひどい負荷ではないですが。
人も似たようなものです。言ってしまうと、最上のストレス解消法は休むことです。
コンピュータと人の違うところは、人は好きなことをして、脳からドーパミンなどの物質を出すことができます。つまり人は、休む代わりに、趣味や好きなことをしてストレスを解消することができます

「好きなことしろってことね」
<そういうことです>

***

石水がぽんと手を叩いた。
「そういえばあのシューゾーさんの本で、ストレスとリカバリーのバランスシートって書いてました。寝不足ならマイナス何点、仕事で緊張したら何点、趣味でリラックスしたらプラス何点って、毎日つけていくらしいです。それで0点に近いほどバランスが取れてるって。あの人、現役時代に練習しすぎてたらしいので(本気になればすべてが変わる(松岡修造) )」
「まあ、あの人は無理しそう」
「さっきのストレスゲージじゃないですけど、目に見えるとけっこう違うらしいです。自分で不安になるほど休んだ方が、テニスの調子が良かったみたいに書いてました」

リーブラの画面がチカチカと点滅した。
<さおりさんは、最近ちゃんと休まれてますか? 目が赤いですし、足どりが重いですよ>
「…………」
<夜遅くまで書いてるんでしょう。ちゃんと寝ないとさっきの話になっちゃいますよ>
私は手でこめかみに触れた。この人工知能はときどき、母親のように口うるさくなる。
早く寝なさい、などと、学生以来聞いていなかった言葉なのに。腹が立つけどものすごく正しい言葉だ。
それができれば苦労はないのだけど。
原稿はうまくいってないし、と私は心の中でつぶやいた。

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たまごたちの書庫シリーズ(コラム連載)
※ 『クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン (講談社現代新書)』 鴻上 尚史
※ 『本気になればすべてが変わる 生きる技術をみがく70のヒント (文春文庫)』 松岡修造

たまごライター プロフィール

たまごライター:黒田なぎさ
kuroda四国在住のプログラマです。中学生のころから小説を書きはじめ、新人賞への公募はまだ数年。ジャンルはエンタメ中心で、「小説家になろう」にて小説を公開しています。修士(工学)専門は対話システム。お気軽に絡んでやってください\(^o^)/ Twitter:@KosugiRan

 - たまごたちの書庫, ストレス解消法

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