小説家のたまご

未来の小説家=小説家のたまごを応援するサイトです。

*

帰省と、小説家のたまごはライバルがいっぱい 〜たまごたちの書庫 第六話

      2016/03/07

帰省と、小説家のたまごはライバルがいっぱい 〜たまごたちの書庫 第六話

(杉本さおり : 書庫で1日のほとんどを暮らす図書館司書。作家志望)

***

「さおりと前会ったのいつだっけ?」
「去年のお盆だから、1年半くらい前だと思う」
友人の弘美がハイボールのグラスを傾ける。
私たちの目の前のテーブルには、お通しや串ものやピザが節操なく並んでいる。

「調子はどうですかねーさおりさん」
年末に帰省をして一番に連絡してきたのは、中学の同級生である弘美だった。
彼女は短大を卒業したあと、地元で保育士として働いている。私が地元に帰ると、彼女は私をすぐに飲みに誘う。社交的な彼女のことなので、誘う友人には困らないはずなのだけど、こちらも予定はないのでありがたく飲みに出る。
私はちらりと彼女を盗み見る。チョコレートのようなフワフワの髪がうらやましい。

***

ふつうの飲み屋には飽きたらしく、ボックス席のテーブルの上にはパスタやおにぎりがジャンルばらばらに置かれている。
お互い長いことつきあって、気を使う間柄ではなくなっている。歳は今年でいっしょに30代に突入した。
弘美が忙しそうに口を動かす。
「あんた小説書いてたよね、まだ書いてんの?」

私はかじっていたピザを置いて、頬杖をついた。
「なんで聞くかな」
「え、すごいじゃん。まだ書いてんのね?」
「一応」
「あたしの記憶だとさ、中学の時に読ませてもらったじゃん、あんたが書いたエッチなやつ」
私は飲みかけていた赤ワインをこぼしそうになる。
「バカ、それはあなたが書けって言ったんでしょう?」
「いやーあれは良かったわ。いまだに展開とか覚えてるし」
「その記憶は早く消して。いつまで覚えてんのよ」

同級生に小説のことを話すと、よくこんな話になる。バカバカしい気持ちにもなるけど、そんな昔のことをよく覚えてくれているな、とドキリとしてしまう。
小説は中学時代からなんとなく書き始めて、最近は同人会に参加したり、新人賞に投稿したりしている。
昔はよくバカなことをした。
そのバカが今も続いているから困るのだけど。

***

「今はどんなやつ書いてんの? オトナなやつ?」
「答えるわけないでしょ」
「新人賞に送ったりしてんだ? すごいじゃん、出版ギョーカイって不況なんじゃないの?」
「大変も大変」

「出版不況とかって言われてるけど、新人賞の数がかなり増えてる。何年前の数十倍?だったかな。それだけライバルが増えてんのよ(全国で200にも 文学賞、なぜ増えてるの?)」
「出版不況なのに増えてんの? なんで?」
「私もわからない。でも出版点数(本の種類)は確実にふえてる。でも利益は減ってる。すごく薄利多売なのか、利益を回収するのがヘタなのかよくわからないけど。新人賞受賞って言うハクでもつけないと売れないんじゃない?」
「へー、まあ漫画もアニメも増えてるよね。小説もおんなじか」

「ありがたいことに、いま漫画家も小説家もどんどん増えてる。最近じゃ新人賞だけじゃなくて、小説投稿サイトからデビューするんだよ?」
「それっておもしろいの?」
「おもしろい、らしい。去年だけで有名なサイトがいくつもできたわ(「小説投稿サイト」の2015年を総括)。
これからは出版社が直々に投稿サイト作って、人気作家を取り合うんじゃないかって言われてる。
最初から人気作を見つけて出版するわけ、困るわよ本当に(2016年に電子出版関連でどんな動きがあるか予想してみる)」
私も酔いがまわってきたのだろうか。テーブルにぺたりと頬をつける。
普段はこんなことを話せる相手がいないから、舌が滑らかになるのかもしれない。
まあ、うちの図書館にはおしゃべりな人工知能がいるけれど。

***

私の頭に、ふとある考えがよぎった。
最近じゃ、人工知能まで勝手に小説書くんだよ。
もうプロジェクトがかなり進んでて、そのうち半自動で掌編くらいは書けるようになると思う。(AIがつくった星新一の「新作」できはいかほど?
どこの企業でも今、人工知能分野の部署つくってるでしょ? ドワンゴとか。
そんでたぶん、これからはAIにたくさんコンテンツを作らせようとしてんの。たくさんたくさん作って、それで儲けちゃうんだよ。おそろしいでしょ?
まあ、AIに負けるつもりないけどさ。負けるつもりないけど、周りライバルだらけだよ。
将棋でコンピュータに負けそうな棋士の気持ちが、今さらわかってきた気がする。ほんとこわいわ。

***

弘美はにやにやと笑っている。
「なにそれ、大変そうだけど、おもしろそうじゃん」
「ぜんぜん面白くない。こまる」
「いや、出版不況でダメダメかと思ったけどさ、そうやっていろんな人に広まってんだから良かったじゃん。お笑い芸人だって小説書いちゃう時代だし。
小説でいろいろできる気がする。まあ言っちゃうとお金になるチャンスがいっぱい転がってるんじゃない? こういうときって色々おもしろいことできるんだよね」
弘美の目がきらりと光る。
そういえば彼女は、学生時代にも文化祭の企画やボランティアをバリバリやっていたのだった。もとから企画を考えたりするのが好きなのだ。

「うむぅ……」
「じゃーいつかはあんたも芥川賞かな。サインもらっとこうかな?」
「いい。やらない」
「どこまで行くの? 本屋大賞? アニメ化? 映画化?」
「…………」

私は、まあねえ、とだけつぶやいた。
私の目標はこれだ、とはっきり答えられないことは、とても悲しい。
私は本は好きだ。書くのもそこそこ好きだ。合評会も好きだし、今までそれなりに本を読んできた自信はある。
でも、その先には何がある。
30代の女で、独身で、小説家志望だと言って。毎日毎日つくえに向かって、自分の原稿と向き合って。
その先には何がある?
こんな先のことを考えているからダメなんだろうか?

弘美は出版に未来があると言った。
それはとてもありがたいことだと思う。
問題は、私自身の未来だ。
小説家に年齢制限はない。逆に言えば、あきらめるときは自分でけじめをつけるしかない。
長い長い戦いになると思っている。なのに、自分の生活に不安がある中で、果たして執筆に集中できるのだろうか。

これから私は、自分の実力に絶望することなく、書くことを続けていけるだろうか。

 

----------

★ 参考URL
※ 新人作家デビューの新しい手段として定着―「小説投稿サイト」の2015年を総括
※ 全国で200にも 文学賞、なぜ増えてるの?(2013年)
※ 一年の始まりなので、2016年に電子出版関連でどんな動きがあるか予想してみる:見て歩く者 by 鷹野凌
※ AIがつくった星新一の「新作」できはいかほど?

たまごライター:黒田なぎさ
kuroda四国在住のプログラマです。中学生のころから小説を書きはじめ、新人賞への公募はまだ数年。ジャンルはエンタメ中心で、「小説家になろう」にて小説を公開しています。修士(工学)専門は対話システム。お気軽に絡んでやってください\(^o^)/ Twitter:@KosugiRan

たまごたちの書庫

この物語の舞台は、とある市立図書館の地下書庫。ここでは女性型の人工知能搭載コンピュータLibra<リーブラ>が小説や出版に関するニュースの中から、小説家のたまごが気になる話題をお届けします。

企画の詳細、担当たまごライターの紹介はこちら

 - たまごたちの書庫

ad pc

ad pc

コメントはお気軽に^^

  関連記事

【執筆仲間の見つけ方】とある司書の日記/黒田なぎさ

【執筆仲間の見つけ方】とある司書の日記/黒田なぎさ (「たまごたちの書庫シリーズ …

【ストレス解消法】書くことがストレスになったとき/黒田なぎさ

【ストレス解消法】書くことがストレスになったとき/黒田なぎさ (杉本さおり : …

同人イベントとあなたの執筆スタイル(前編) 〜たまごたちの書庫 第九話

(杉本さおり : 寡黙な図書館司書。作家志望) (緒方   : 20代のプログラ …

【最近読んだ小説】『作家の収支(森 博嗣)』と2つの作家タイプ/黒田なぎさ

【最近読んだ小説】『作家の収支(森 博嗣)』と2つの作家タイプ/黒田なぎさ (杉 …

パン屋と雑貨屋と変わる本屋さん ~たまごたちの書庫 第五話

(杉本さおり : 書庫で1日のほとんどを暮らす図書館司書) (緒方   : 20 …

同人イベントとあなたの執筆スタイル(後編) 〜たまごたちの書庫 第十話

(杉本さおり : 寡黙な図書館司書。作家志望) (緒方   : 20代のプログラ …

電子書籍とエンジニア ~たまごたちの書庫 第二話

電子書籍とエンジニア ~たまごたちの書庫 第二話 (杉本さおり : 書庫で1日の …

no image
出版取次ってなんだろう? 〜たまごたちの書庫 第七話

出版取次ってなんだろう? 〜たまごたちの書庫 第七話 (杉本さおり : 地下書庫 …

貸出猶予と図書館 ~たまごたちの書庫 第四話

貸出猶予と図書館 ~たまごたちの書庫 第四話 「おお、杉本さん」 私の心臓がドキ …

no image
お笑い芸人の本 ~たまごたちの書庫 第一話

お笑い芸人の本 ~たまごたちの書庫 第一話 <それ、よく貸し出しされますね。芸人 …