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同人イベントとあなたの執筆スタイル(前編) 〜たまごたちの書庫 第九話

      2017/03/04

(杉本さおり : 寡黙な図書館司書。作家志望)
(緒方   : 20代のプログラマ。図書館にいりびたり)
(石水  : 新人司書の女の子)

 

「こりゃなんつーか、図書館らしくない光景っていうか」
エンジニアの緒方が腕を組んで苦笑する。
閉館後の夜の図書館、彼と私と同僚の石水はロビーにいた。

***

石水はガラスケースの中を覗きこんだ。
「こういうイベントがあるのは知ってましたけど、まさかウチとコラボするとは思ってなかったですね、杉本さん」
「まあ、珍しいと言えばそうだけど」
私が所属する図書館のロビーで、先週から特別な展示が始まっていた。来月に地元で開かれる予定の、同人誌即売会との共同企画だ。ガラスケースで同人冊子の展示と、パネルで即売会の紹介を行う。
(第四回文学フリマ大阪 「文学フリマ展」~展示完成編~(写真あり)堺市立中央図書館「文学フリマ展」案内
図書館入り口横のガラスケースの中には、主催が持ってきた様々な同人誌が展示されている。冊子の大きさはA4判から文庫サイズまで、内容はファンタジー小説、句集、エッセイ、評論と何でもありだ。日ごろから図書館では色んなテーマについて特集は組むものの、ここまでバラエティに富むものは珍しい。

***

仕事帰りにやって来た緒方は、あいかわらず会社員とは思えない格好だった。図書館業務を終えた私と石水もエプロンを外している。
「よくコラボができたっすね。同人イベントって、公共からするとグレーな感じがしますけど」
「ここの館長、いろいろうるさいですけど……お祭り的なものには弱いんですよ。ほんとは展示じゃなくて試し読みまでさせたかったらしいですけど」
あー、と緒方は頭の上で手を組む。
「利用者からは、けっこう評判いいみたいですよ。相性がいいんですかねー」
「まあ、図書館に来る人はたいてい本を読む人だしね。もともと図書館は、地元の同人誌を保存する習慣があったし……ある意味、主旨に沿ってるかも」

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夜中の人気のない図書館。足音はカーペットに吸収され、声は高い天井に吸い込まれる。奥の開架スペースの照明は落とされており、巨大な書架たちが並んでたたずんでいる。図書館では、ぬいぐるみたちが本を選ぶという企画がだいぶ前からあるが、この光景を見ればその気持ちもわかる。(※3
対して、ロビーの明かりでぼんやりと照らされている同人誌たち。ガラスケースの中に置かれているそれらは不思議な雰囲気を出していた。
「なんか歴史資料館みたいすね。古文書みたい」緒方がつぶやいた。
「これが何百年て残ったら、未来人から見て歴史の資料になるかも」
「21世紀はこういうキャラが”推し”だった?」
「歴史のエライ人も、自分の書いたものが何百年と残るとは思ってなかったでしょうねえ。手紙とか日記とか。紫式部さんも」

***

置かれていたチラシを見て緒方がぼやく。
「にしても、このご時世、ネット小説も電子書籍もあるっつーのに、よく本作ろうって気になるっすね。印刷代もタダじゃないでしょ。デジタルならコストゼロなのに」
「わかってないですねえ緒方さん、本ができたときの感動というのが。電子書籍じゃこうやって展示もできないじゃないですか。プレゼントもできないし冊子交換もできませんよ」
そりゃそうだけど、と緒方が頭をかいて、こちらを見た。
「さおりさんはこういうの作らないんですか。小説書いてるんでしょう?」
「うーん……私はあんまり、製本とかに興味なくて……」
「ええ!? 司書なのに? 図書館だよりとか作ってるじゃないですか。本もばしばしラミネートしてるのに」
「興味がないっていうか、時間がないのよね。原稿書くのにせいいっぱいで」
私はせいぜい、所属している同人会に原稿を送って、冊子にしてもらうくらいだ。自分で印刷しようとは思わないし、ウェブで公開しようとも思わない。ただただめんどくさい。
石水が目を見開いた。

「もったいないー。わたし印刷所なら知ってますよ。大学のときに、結構こういうの作ったんですよ」
「おめえが? 同人誌を? 意外とそういう……」
「ちがう! パンフレットとか、文化祭のやつ」
「あーそういう」
「ってわけでやり方は知ってますし、知り合いにイラスト描く子知ってますし、さおりさん、本作りませんか?」
私は急に話を振られて苦笑した。私が小説を書くことを、いつのまにか数人の同僚に知られてしまっている。自分から話したつもりはないのだけど。
「私は別にいいけど……なんでそんなにやりたいの?」
「いやー……1回参加してみたいんですよね、こういうイベント。見に行ったことはありますけど、どうなのかなって。あのブースの奥側に立ってみたいんですよ。ひとりで参加するってさみしいじゃないですかーわたしなにも作れないですし。印刷費は出しますし、売り上げはそっちもちでいいですから」
「印刷費くらいは出すよ。というか、印刷だけじゃなくてイベント参加までやるの?」
「そりゃそうですよ、作るだけじゃ意味ないじゃないですか! ほらこれ、こんど京都でイベントあるみたいですね、行きましょう!(※4)」
石水は両の手のひらを突きだしてきた。私はノリでついその手にタッチする。

「おめーがそういうの好きだっての、意外だな」
「緒方さんはツイッターで宣伝しててくださいよ」
「おれは広報かよ」
緒方まで参加する気らしい。私は脳内でとっさに、冊子にできそうな自分の作品を探した。内容的に人に見せられるものかどうか。
「あんまり、小説を見られるのはちょっと……」
「読まないと宣伝できないっすね。そういや俺読んだことないな」
「緒方さんは読まなくていいです。わたしは編集ですから読んでいいですよね?」
「俺は宣伝botじゃねーんだぞ」
私はあらためて、ガラスケースの中の作品たちは見つめた。これらの冊子たちも、こうやって出来ていったのだろうか。

***

本当は、最初にこの展示スペースを見たとき、鳥肌がたった。
こういう人たちがいるんだな、と。
出版不況で、小説なんて読まれないと思ってたけど、こういう人たちがいるんだと。
何より、表紙の向こう側で、熱いなにかがたぎっていると考えると、ぞくぞくした。
言いたいことや表現したいことがある。
それを絵やマンガで表現せず、文字で表す人たち。
それがなんとも非効率的で、おかしくて、いとおしかった。
私はそちら側に回りたいのだろうか。

***

緒方が裏口を指さす。
「どうでもいいけど、そろそろ出ませんか。打ち合わせはメシ食いながらでいいし」
「じゃあ緒方さんのおごりで」
「だからなんでだよ」
私は帰ろうとするふたりの後ろで、目を閉じて指でこめかみを押さえた。
忙しくなりそうだった。

 

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たまごたちの書庫シリーズ(コラム連載)
※ 堺市中央図書館HP
※1 「文学フリマ展」~展示完成編~
※2 堺市立中央図書館「文学フリマ展」案内
※3 子育て・教育 夜の図書館にぬいぐるみがお泊まり 子どもは本好きに
※4 第一回文学フリマ京都 開催情報(申し込み 10/20(木)まで)

 

※作品に登場する人物は、文学フリマ大阪と堺市図書館とは関係ありません。
作者はブースで参加させて頂きました。

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たまごライター:黒田なぎさ
kuroda四国在住のプログラマです。中学生のころから小説を書きはじめ、新人賞への公募はまだ数年。ジャンルはエンタメ中心で、「小説家になろう」にて小説を公開しています。修士(工学)専門は対話システム。お気軽に絡んでやってください\(^o^)/ Twitter:@KosugiRan

たまごたちの書庫

この物語の舞台は、とある市立図書館の地下書庫。ここでは女性型の人工知能搭載コンピュータLibra<リーブラ>が小説や出版に関するニュースの中から、小説家のたまごが気になる話題をお届けします。

企画の詳細、担当たまごライターの紹介はこちら

 - たまごたちの書庫 ,

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