小説家のたまご

未来の小説家=小説家のたまごを応援するサイトです。

*

【たまごの物語:西暦3015年】子孫が来たりて/エリス計画

      2015/03/12

【たまごの物語:西暦3015年】子孫が来たりて/エリス計画

午後のことだ。学校から帰って来た俺は、ランドセルをベッドに投げるや否や、机の上の一昨日作った異世界の模型とにらめっこを始めた。
「あーあ。作ったはいいけど、全然思い浮かばないよ。」
五年生の国語の宿題で、来週中にはファンタジー小説を書き上げなくてはいけないんだ。しかし、小説なんて書いたことの無い俺の手は、昨日から止まっている。小説の参考にするために作った模型を作る手は嬉々として動いていたのに。隣でけたたましい音が鳴った。お隣の工事が再開したようだ。うるさいのでラジオで中和をする。ラジオでは大物芸能人夫婦が離婚したという記者会見の模様が放送されていた。夫の方が実は男が好きで、偽装結婚したと言っていた。リポーターは子どもをどうするのかと問い詰めている。
あまりの宿題の進まなさに溜め息を何度もついて、ベッドに寝転がろうと後ろを向くと、少年が立っていた。
「誰?」
僕が驚いて尋ねると、その少年は申し訳なさそうに言った。
「あの、僕、三〇一五年。つまり、今から千年後の世界からやって来た、あなたの子孫だと思います。十五分間だけ、ここに居させてもらえませんか?」
少年は俺と同じような顔立ちに、同じような趣味の衣服。黒子の位置や、筋肉のつき方が俺より貧相などの細かい所は違ったが、ほとんど鏡を観ているような感覚だ。唯一違うのは、腕時計のようなものをつけていることくらいだ。俺は直観的に彼を信じた。
「俺、君のことを信じるよ。」
「わあ。ありがとうございます。」
ニコニコと笑う彼は、えくぼが可愛らしい。地面にしっかりと立っていたが、ふらついて頭を押さえた。
「すいません。立ってるとちょっと。浮かせてもらいます。」
「おお、未来っぽい。」
「僕、高橋・ニコラス・雄一といいます。」
「あ、俺と同じ名字だ。俺は慎吾っていうんだ。よろしくな。」
俺達はがっしりと握手をした。か弱い握力だ。
「ところで、その千年前に何しに来たの?」
「実は…。」
そう言って、語り出した彼の口からは壮絶な事態が飛び出した。
「三〇一五年。つまり、最後の年に隕石が衝突するだろう。ノストラダムスの予言の書が正確に解明されると、そんな予言が露わになったんです。」
「そんな、駄洒落みたいな。」
「そうです。初めは一九九九年に外れた予言の人、みんな馬鹿にしました。でも、そんな駄洒落みたいと言って馬鹿にしていた予言が当たったんです。僕がタイムスリップする一か月前、地球に向かって落ちて来る隕石が観測されたんです。」
そうだったのか。大変だ。地球は三〇一五年に滅亡するのか。あれ、おや?
「え、じゃあ、帰っても地球は無くなってるんじゃ。」
「いえ。それが、地球って真ん中に大きな穴があいているじゃないですか。そこを十五分間でちょうど通過するんです。まあ、大事をとって、通過する時間だけ人類は過去に避難を。」
「え?穴?地球に穴なんかないよ?」
ニコラスは驚愕した表情を浮かべ、机の上の模型を指さした。
「でも、そこに地球儀が。」
「あれは、俺が工作でつくった異世界の星だよ。」
「そんな。でも、凄く似ています。」
ニコラスは、慌てた様子で腕時計型の端末をいじっていた。そんな彼の指先も愛らしい。これが萌えという感情だろうか。二〇一五年の今でも腕時計型の端末は珍しく無くなってきたが、画面が空中に飛び出すホログラムになっている所に三〇一五年を感じた。
「分かりました。僕も今知ったんですが、三〇一五年の地球の形は、二〇二五年に年齢不詳の鎌倉受け子という女性が考案したデザインを元に作られたものだったようです。」
「へー。俺じゃないのか。残念だ。」
「ええ。この世界のどこかで、同じ形を先に作った方がいたのでしょうか。」
「かもな。」
ニコラスは、俺のために残念そうに目を潤ませた。俺は抱きしめたくなる気持ちを抑えた。
「このデザインは、地球全体をバリアフリーにするために世界中で応募を募ったようですね。」
とんでもない規模だ。バリアフリーのために地球の形を変えるとは。
「二六〇〇年ちょうどに、あらゆる坂と段差を無くす工程が終わり、鎌倉さん一族には永続的に今でも莫大な金額が支払われているようです。」
なんて羨ましい話だ。俺はそのお金を手にすることはないんだ。俺がもう少し早く生まれて、早く作っていれば!悔しい気持ちで一杯だった。……でも待てよ。その鎌倉という人の子孫が、タイムスリップして俺のアイディアを盗み、自分が儲けたいために受け子さんに教えたのではないだろうか。そうニコラスに伝えると、目を伏せて首を横に振った。
「それは出来ないこともないんですが、可能性はとにかく低いです。」
「というと?」
「タイムマシンは今年完成したもので、使う条件があるんです。まず、未来には行けません。」
「ほうほう。」
「さらに膨大なエネルギーを使うので、人類絶滅の可能性がある時に、膨大なお金を支払える人しか使えません。物を持っていくことが出来ず、最大千年前までしか戻れませんし。それに十五分しかそこにいられません。」
察するに、過去に行った人がスリップした瞬間から一五分後の世界に戻ることは出来るということか。
「なるほど。ニコラスは金持ちなんだ。」
「はい。父に不労所得があるようで。」
「いいなあ。」
「あと、最大の特徴として、自分の行きたい所には行けないんです。血のつながりを頼りにスリップするので、DNAの配列が似ている人の周辺にしかスリップ出来ません。」
「だから、俺達似ているのか。」
ますます親近感が湧いた。抱き合ってキスしたいくらいだ。
「そうなんです。つまり、三〇一五年から三〇二五年の間に人類絶滅の危機に直面したお金持ちが莫大なお金を支払いスリップし、十五分でご先祖様の模型のデザインを盗み出して鎌倉さんに造形を伝えたというのは……。」
「無理か。」
「ええ。それよりはたまたま似ていたという方が。」
「可能性があるな。」
難しいことを考え過ぎて頭が痛い。ベッドに腰掛けておかきをかじる。ニコラスにも勧めて珍しそうにかじっていたが、胃が受け付けなかったようだ。
「僕には、こちらの方が未来の主食に似て食べられそうです。」
そう言って、机の上に放置していたすばやくエネルギーが補給できるゼリーと、栄養ビスケットをもそもそと食べた。残りの数分は未来の生活について教えてくれた。どうやら色々なことが変わっているようだった。
「こんなに未来の事を教えてくれて大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。こんな話、誰が信じてくれますか。余程のことが無いと、未来なんて変わりません。」
しばらく親しく話していたが、彼の腕時計がけたたましく鳴った。
「ご先祖様。どうやらお別れのようです。」
「ああ。未来でも元気でな。」
そう言って、俺はニコラスを抱きしめた。彼が自分の子孫だと思うとどうしても愛しくなり、ほっぺたにキスをした。彼が赤くなっているのを見て、俺の心はときめいた。
「それじゃあ、ご先祖様、さようなら!」
「うん。さようなら。」
ニコラスは突如光に包まれて姿を消した。俺は机に向かったが、目の前の模型が盗作したもののように思えたので、粘土で穴を塞いで叩き潰した。ラジオでは記者会見の模様が未だ放送されていたが、工事が終わったので消すことにした。
「あいつのほっぺた、柔らかかったなあ。」
唇に触れた感覚を思い出しながら、終わらない小説を前に俺は頭を抱え続けた。

作者プロフィール

エリス計画
「小説家になろう」にて、2015年の二月から『Ginger Yell』という、異世界に行かない作品を投稿中。
twitter:@erisproject

作者あとがき

書いていて非常に面白かったです。テーマが決まっているので学校の作文のように書きやすく感じました。書いた直後は三千字を越えてしまい、削るのが大変でした。三〇一五年を想像するのは大変でしたが、きっと人間に丁度いいように、地球の地形さえも変えてしまっていることでしょう。あと、分かりにくかったかもしれませんが、隣で工事をされると家が傾くことが時々あるそうです。読んでくださり、ありがとうございました。

 - 西暦3015年

ad pc

ad pc

コメントはお気軽に^^

  関連記事

【たまごの物語:西暦3015年】外付け記憶媒体/チャンク

【たまごの物語:西暦3015年】外付け記憶媒体/チャンク 直樹は椅子に座りながら …

【たまごの物語:西暦3015年】接触禁止法/高塚由宇

【たまごの物語:西暦3015年】接触禁止法/高塚由宇 東京湾上に作られた超高層都 …

【たまごの物語:西暦3015年】移りゆく時、変わらないもの/tara

【たまごの物語:西暦3015年】移りゆく時、変わらないもの/tara 原稿用紙と …

【たまごの物語:西暦3015年】巡り年/紙男

【たまごの物語:西暦3015年】巡り年/紙男 今日は、本来ならば西暦3015年の …