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【たまごの物語:西暦3015年】外付け記憶媒体/チャンク

      2015/03/15

【たまごの物語:西暦3015年】外付け記憶媒体/チャンク

直樹は椅子に座りながら目を閉じた。

「お茶がおいしいね」
縁側から足を降ろしている香織が微笑みながら言った。
「そうだね」
隣に座っている直樹は素っ気ない返事をした。
香織は自分の左脇に置いてある皿から、左手で煎餅を一枚取り、直樹に差し出した。
「食べる?」
「うん」
直樹は右手でそれを受け取り、口にくわえた。パキッという割れる音が響き、煎餅のカスがぽろぽろとズボンの上に落ちた。
「またこぼしてるよー」
香織は直樹のズボンを指差しながらくすくすと笑った。直樹はカスを左手でちょんちょんと摘まみ、そのまま口に入れた。
「ほんと、煎餅を食べるのが下手だよねー」
直樹は左手で湯飲みを持ち、照れた顔を隠すようにお茶を飲んだ。
「ま、そういうところも好きなんだけどさ」
それを聞いた直樹は左手で額を掻いている。香織も湯飲みを傾けた。
「今年も綺麗に咲いたね」
直樹は庭先へ目を向けながら言った。それにつられた香織も同じ方を見た。
「うん。やっぱり綺麗だよね」
庭には今年も白椿が咲いている。香織と直樹の二人で入念に手入れをしており、毎年の春に開花するのが楽しみなのだ。
「あれを植えてから何年目だっけ?」
香織が煎餅を左手で取りながら質問した。
「ここに引っ越してきた時だから……8年目かな」
「もうそんなに経つんだね。早いなあ」
パリッという乾いた音が鳴った。直樹は香織の方へ視線を移した。カスはほとんど落ちていなかった。
「そういえばさあ、一回、枯らしちゃったことあったよね」
香織は寂しそうな顔をした。直樹は煎餅をかじろうとしたが、そっと右手を下ろした。
「あの時は悲しかったなあ。まだ寒い日が続いていた頃で、もうすぐ花が咲くかな、っていう時だったもんね」
「うん」
直樹は庭の白椿に目線を戻した。盛大に咲いた花が見えた。
「結局、株ごと駄目になったんだよね。病気でさ。落ち込んじゃったなあ」
香織は湯飲みを傾け、お茶を口に含んだ。
「植え替えは何回もしたけど、あの年だけは辛かったなあ。なんていうんだろう、大事にしていたのに途中でいなくなっちゃう感じ。もしかしたら、流産に似ていたのかも」
直樹は自分の体が硬くなったのを感じた。白椿のことも流産のことも、二人にとっては――特に香織にとっては――辛い思い出なのだ。
「でも、次の年にはまた綺麗に咲いたから良かったよね」
香織の顔に笑みが戻った。
「うん。あれからは随分と気を付けながら育てたしね。本当に良かったよ」
直樹は煎餅をかじった。カスがズボンにぽろぽろと落ちた。
「もう、また落ちてるって」
香織はくすくすと笑った。その顔を見た直樹は口元が緩んだ。
「いっそのこと、お盆でも抱えながら食べたら良いんじゃない?」
香織はいたずらな笑みを顔に浮かべた。
「さすがにそれは馬鹿にしすぎだろう」
直樹には怒る気など全く無い。ただ、精一杯の苦笑いをしてみせた。香織とたわいも無い話をする時間が楽しく、それをなによりも大事にしたいという内心を隠すためだ。
「今年もこの縁側から、直樹と一緒に、白椿を見られて良かった」
香織は少し恥ずかしそうに言った。直樹は香織の顔にかすかな憂いを見つけた気がしたが、それを口に出さないように心の中へ押し込んだ。
香織は湯飲みを傾けた。
「お茶がおいしいねえ」

椅子に座っていた直樹は目を開け、自分の後頭部からプラグを抜いた。
涙がズボンにぽろぽろと落ちた。

作者プロフィール

チャンク
チャンクと申します。
映画・ドラマ・小説・マンガなど、物語が好きです。
最近はYouTubeの動画もよく見ています。
現在は初めての長編小説を書いているところです。

作者あとがき

今から千年後の話だとしても、人の心はそんなに変わらないのではないか、という考えからこの話を書きました。特に愛についてはそう思います。平安時代の書物にも、他人への愛について書かれた話がありますし。
今回のテーマでは、もっとハイテクな環境を細かく描写した作品の方が好まれるのかもしれませんね。しかし、遠い未来の設定であっても変わらないものもある、ということを表現したかったのです。
例え千年後でも、最新の技術を駆使する人もいれば、自然と戯れる人もいるだろう、なんて考えているのですが、実際のところはどうなっているのでしょうね。

 - 西暦3015年

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Comment

  1. 水森キノコ(ちょねこ) より:

    チャンクさんこんにちは、こちらからコメント失礼します。
    さっそく読まさせていただきました!
    新しくもあり懐かしくもあるような、そんな印象でした。
    2人のやり取りがほっこりしている分、最後の一文がとても切なかったです。
    短い物語でも、とても感情移入出来ました!
    私はこの作品大好きですよ^^

  2. 水森キノコ(ちょねこ)さん、ありがとうございます。
    遠い未来の話にしては少し古臭い内容にしてしまいました。
    私自身、こういった雰囲気が好きなんですよね。
    大好きと仰ってくださると、私も嬉しくなります。
    この物語を書いて良かったです^^

  3. リヨン より:

    これ、コメント出来たんですね~!
    どこに感想書こうかと思ってましたが、遅ばせながらこちらに失礼します。
    記憶が外付けの機械に保存出来る、はるか未来の話なのにおせんべいや縁側が出てくるところがいいなあと思いました。
    直樹と香織の雰囲気に合ってますね^^
    煎餅がズボンに落ちる様と涙がズボンに落ちる様が目に見えるようでした。
    目を開けた直樹の視界には白椿はあるのかなあと想像して切なくもなりますね~><
    また次の作品も読めるのを楽しみにしてます☆

  4. リヨンさん

    コメントありがとうございます^^
    技術が発達した未来でも、古臭いものが好きな人はいるだろうなと思ってこういう話にしました。
    目に見えるよう、なんて言葉をいただけるなんて嬉しいです。
    記憶や思い出が鮮明に見返せるようになってしまうと、それらをなかなか忘れられなくなるので、返って辛さがいつまでも残ってしまうのかもしれませんね。
    これからもテーマが発表されれば投稿は続けていくつもりです。

  5. 棚卸 より:

    読ませて頂きました^^
    実は僕もかつて小説家を目指していた時期があり、
    今でも読書が好きな大豆男なんです(^^♪
     
    この作品、短いながらも内容がギッシリと詰まっていて、
    キノコさん同様、僕も感情移入しちゃいました(#^.^#)
     
    他の作品もぜひ読んでみたいです!

  6. 棚卸さん

    おお! 棚卸さんにもそういう時期があったんですね。
    そんな方に読んでいただいたとなると緊張してしまいます。

    感情移入してくださったなんて嬉しいです。
    ありがとうございます^^

    今後も小説の募集があれば投稿を続けていくつもりですので、よろしくお願い致します。

コメントはお気軽に^^

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