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【たまごの物語:カルピス】彼、ボトルのお話を聞く。/武石 浩

      2015/02/25

【たまごの物語:カルピス】彼、ボトルのお話を聞く。/武石 浩

じわじわ夏の迫る季節、ある日の昼前。「彼」は休日だから家でのんびりしていると、ピンポンとインターホンの音がし、
「お届け物です」
と声がした。
玄関扉の覗き窓から外を。いつも配達してくれている宅急便の若い男の人だった。扉を開け、箱を受け取ってサインする。若い男の人は営業笑顔に帽子を取って頭を下げる。顔見知りでもあるし、気持ちの良い相手だと思っていたから彼も、
「お疲れさまです」
と労うのだった。
一通りの流れが終わって扉を閉め、届いた箱をテーブルの上に置く。包装紙に覆われていて、送り主は両親。ほどほどの大きさの箱だ。長い方は25cm、短い方は15cmに近く、高さは5cmを少し超えるくらいと彼は仕事の経験から推測する。
本当にそれが合っているかどうか確かめたくなって、巻き尺で測る。すると縦(短い方)が14cm。横(長い方)が23.9cm。高さが7.2cmだった。ほぼ合っているようなもので、彼はにやける。
セロハンテープをはがせば包装紙が取れた。びりびりと無視して破くことは嫌いだった。丁寧に開けるので、そういう気質でない父からは呆れられ、そういう気質である母からは褒められていた。
「おっ、なんとま」
両親からの簡単な手紙とともに現れたのは、白地に青の水玉模様の清潔感のあるデザイン。そして真ん中に一際大きい青い丸があって、そこに大きく白い文字で「CALPIS GIFT」とあった。カルピスだ。
手紙の中には、
「いただいたので、送ります」
妙に斜めな、くせのある母の字があった。
独り暮らしへの気遣いに感謝する。携帯端末をすますまいじり、さっそくメッセージを送った。既読はすぐにつかなかった。
ふたを開けると、そこには原液カルピスのボトルがあった。でも彼は、
「えっ」
首を傾げてしまった。知らないものがそこにあったのだ。
二本入っていて、その内左の「北海道」と載っていないボトルを取り出し、観察する。
明らかにビンではないし、水玉模様の紙に包まれてもいない。プラスチックだ。送られてきたカルピスは昔の姿を忘れてしまっていた。いや、彼が置いていかれてしまっていた。
「いつの間にこんなものに……なっちゃって」
携帯端末を使って調べる。公式サイトだ。でも手がかりを見つけることができなくて、Wikipediaに駆け込む。そこに答えがあった。
「2012年にリューアル。新たに開発したプラスチックボトル、ピースボトルに変更。なるほど」
そういえばテレビのCMで長澤まさみが言っていたような気がすると、彼は思い出す。あのCM、カルピスのことはどうでも良くていつも、
「うーむ、長澤まさみ可愛いなー」
という感想しか抱いていなかった。そういう暇つぶしは彼にもある。
それは置いておいて。せっかく貰ったカルピスなのだから、それも原液、久しぶりに作ってみようという気持ちになった。カルピスを飲む機会はあるけれど、大体カルピスウォーターで、カルピスソーダにカルピスハイと出来上がっているものばかり。
氷を入れたガラスコップと、割るための水を入れた別のガラスコップをテーブルに持ってくる。そしてカルピスのキャップを開け、ひんやりした氷の上に注ごうとした。
「ま、ビンじゃないのが残念だな」
「なんだと」
突然の声に思わず彼は注ぐのを止めてしまった。そして周りを見渡す。誰もいるはずがない。一人暮らしなのだ。恋人もいない。「呼んだ」ということももちろんない。
ということは。
「お前なのか」
握っていたボトルに話しかける。すると、
「そうだ」
返事がボトルから帰ってきた。彼に文句を言ったのはこのカルピスのボトル。中に入っている原液がそうさせたのか、それともボトルそのものがそうなのか。
「今から飲もうってときに、削ぐんじゃない」
「君がくだらんことを言うからだ」
「くだらないこと?」
彼はボトルをテーブルに置いた。
「ビンじゃなくて悪かったな」
「そういうこと」
独りでに動くことは叶わないようだ。置かれた場所で立ったまま声を荒げても、ぐらぐら揺れることはなかった。彼はとりあえずボトルの話を聞くことにする。長くなりそうだったから椅子に腰掛け脚を組む。
「お前は私を認めないのか」
「そんなこと言ってない。ただ懐かしいビンじゃなかったから、そういう意味で残念だなって言っただけだ」
「どう違うのだ」
「ど、どうって……。中身がカルピスだからってそれくらいは考えられるだろ」
「なめてる、君は私をなめているな!」
「なめはしないけど、飲むよ。飲みものだし」
やはりなめているに違いないではないかとボトルが文句を言う。彼はそんなボトルの様子から、子供を相手にしているようで面白くなる。製造されて間もないから、それ相応の精神年齢だということらしい。
「ビンじゃなくてなにが悪い」
「だから悪いだなんて」
「私は君が知っているビンなんかより圧倒的に優れた力を持っている。4層構造によって外部からの光と酸素を遮断して劣化を防ぐ。ボトルの真ん中にくびれがあるから持ちやすくなってもいる」
さっきボトルを握っていた手を握ったり開いたりする。
「確かに持ちやすい。軽かったし」
「それに傾けた角度によってしっかり出る量が決まるのだ。やってみろ」
そう言われたのでもう一度キャップを開け、少し氷が解けたガラスコップに注ぐ。確かに昔のビンと比べて液だれもしにくくて角度に応じた量で注ぎやすい。
「さらにプラスチックだけでできているから、分別が楽だ」
「危なくもないってことだな。まあ、武器にはならんけど」
「そんなに物騒なのか、お前の家は」
「そんなわけないだろ。冗談だよ、冗談」
飲まずにしていると氷がさらに解けてしまう。早く味を確かめたい。彼は水を注いで都度濃度を確かめる。そうして濃いめの味が出来上がって、一口喉を通す。ボトルは変わっても、味は思い出のまま変わらない。とても美味しく感じられた。家のお酒を割るのにも十分使える。
「五倍だぞ」
「好みってもんが。薄いのしか飲ませてくれなかったから、濃いのが良いの」
「私は五倍に薄めて飲むのが一番美味しいと仕込まれてきているのだ」
「誰に?」
「私を作った人だ」
「最初に?」
「そんなばかな。『Since1919』と書いてある。初めての私を作った時点でそれなりに生きてきている。人はそこまで長く生きられないのだろう?」
ということは現在の製造者ということだ。生産ラインの中で、カルピスに教育を施す工程が存在するのかもしれない。でもそんなことを堂々と発表すると、消費者心理に触れてしまう恐れがあるから公表しない。彼はそう考えた。
からんと氷が遊んで音が響いた。静かな部屋だったから、とてもきれいな音色がした。
まだまだ原液はあるけれど、なんとなくもったいなく思えてちびちび口に入れていく。独特の風味と甘さが広がって、飲めば外に逃げたがるよう喉に粘りつく感覚。
「それで君は、中身が全部なくなればどうなるの?」
「教えられてもいないし、経験もないから知らん。けれど、どちらにせよすべて飲まれるのがカルピスだけではなく、飲料すべての幸せであることには違いない」
そうは言われてもここまで話してきた相手だ。彼はもっとひどくちびちびと飲むことになった。
大丈夫。冷蔵庫で保管すれば一か月、上手くすれば夏の間はもつと彼は考えた。
けれど、一度開封したカルピスは最長でも二週間で飲むようにと書かれている。そんなことを彼はまったく調べようともしなかった。知ったとしても、きっと。

作者プロフィール

武石 浩(たけいし こう)
こんにちは。初めまして。武石 浩(たけいし こう)と言います。「E★エブリスタ」「小説家になろう」「ノベルジム」などで色々書いております。よろしくお願いします。

あとがき

今回はカルピスというテーマをいただき、書いてみました。するとなんとま、すごい宣伝みたいになってしまいました。
実際に原液を薄めて飲む機会は少なくなっていますね。僕もカルピスを飲むのは、基本的にカルピスウォーターです。もしくソーダ。カルピスハイは甘いお酒をあまり飲まないので、縁はないですね。でも弟がお世話になっています。
幼い頃は自分で作るのが楽しかった思い出があります。きっと今の子も同じような感じで、楽しくカルピスの原液を薄めているのではないでしょうか。それで濃かったりするとお母さんとかに怒られちゃったり。でも濃いの、美味しいもんね。
そんなわけでこのお話を読んでいただき、「原液のやつ、飲みたくなったな」と思っていただければ幸いです。お近くのスーパーなどで売っています。楽しめるし、美味しい。そういう飲みものはあまりないですから。
ではここまで読んでいただき、ありがとうございました。またどこかで。

 - カルピス

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