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【たまごの物語:カルピス】初恋の味/紙男

      2015/03/01

【たまごの物語:カルピス】初恋の味/紙男

カルピスを飲んだことがない。
私がそう言うと、ヒカちゃんとミヤコは絶叫した。教室に残っていた人たち全員の注目の的になるほどのボリュームで、だ。そして立て続けに「どうして飲まないの?!」「どうやったらそんな人生歩めるの?!」と問いただされ。
「そこまで驚くことかなぁ」
「驚くよ~」ミヤコは卵焼きを摘まむ。「普通一回は絶対飲んでるよ」
「そうなのぉ?」
「そーだよー」ヒカちゃんはプチトマトを頬張る。「私なんて、今でもお兄ちゃんと取り合いになるからね」
「え、アカリさん女子だよね?」
「それは今関係ないから」
「わかった」とミヤコが唐突に言った。「何が?」と私とヒカちゃんの声が重なる。
「カルピス飲んだことないから、ハナはまだ恋愛したことないんだ」
私は不満の声を漏らしたが、ヒカちゃんは納得の声を挙げた。「え、何で納得してるの?」
ヒカちゃんは得意気に言う。「ハナちゃん、カルピスはね、『初恋の味』なんだよ」
「んー…よくわかんない」
「わかるよ」ミヤコは鼻の穴を膨らませた。「カルピスを飲むことそれすなわち、恋への第一歩だからね。何度もカルピスを飲みたくなるみたいに、甘酸っぱい恋を追い求めてみたくなるのさ」
「ホントかなぁ?」
「と言う訳でハナ」
「ん?」
………
カルピスを飲んだことがない。
俺がそう言うと、アカリとキョウスケは絶叫した。廊下にいた奴等にも漏れなく注目するほどのボリュームで、だ。そして「何で飲まねーんだよ」「お前、人生の半分近くを棒に振ってるぞ」と呆れられた。
「さすがに大袈裟だろ」
「大袈裟なもんか」キョウスケは唐揚げを齧る。「寧ろ飲まないで生きてこられたことかが奇跡だ」
「そういうもんか?」
「そういうもんだよ」アカリはプチトマトを隅に寄せた。「俺なんか今でも妹と取り合いになるぞ」
「ヒカルは男だろ」
「それは今関係ねーの」
「わかった」とキョウスケが唐突に言った。「何が?」と私とヒカちゃんの声が重なる。
「カルピス飲んだことねぇから、お前には彼女ができねぇんだ」
俺は不満の声を漏らしたが、アカリは納得の声を挙げた。「え、何で納得してんの?」
アカリはドヤ顔で言う。「トシ、カルピスはな、『初恋の味』なんだ」
「ワルい、訳がわからんのだが?」
「わかるさ」キョウスケは口角を上げた。「カルピスを飲めば、あの頃の甘酸っぱい記憶が呼び起こされて、純真な気持ちで相手を見ることができるんだよ」
「ホントかよ…」
「と言う訳でトシ」
「あ?」
「ちょっと自販機行ってカルピス買って来い」
「は?何で俺が――」
「今日の数学とライティングの課題教えてあげたのはどこの誰だっけ?」
「行かせて頂きます」
「あ、俺のもよろしく」
「はいはい」
自販機は教室と同じ階にある。それほど遠くはないのだが、俺は小走りで向かった。
そこには既に先客がいた。俺よりも頭二つ分も背の低い、同級生の女子だった。
その子は、それぞれの自販機に並ぶ飲み物一つ一つを、指差して確認していた。そして「あった」と言って立ち止まったのは、奇しくも、カルピスが売られている自販機だった。俺はその子の後ろで大人しく待機する。
その子は、奇しくもカルピスを買おうとしていた。だがその身長のせいで、一番上の列にあるカルピスのボタンに手が届かなかった。名一杯背伸びしても駄目だった。
俺はしばらく、その様子を観察していた。単純に面白かったからだ。だが流石に可愛そうに思えてきたので、その子に代わり、ボタンを押した。
ピッ! ガコン! シーン…。
擬音語入れるなら、そんな感じだっただろうか。
ややあって、その子はこちらを向いた。真ん丸で大きな瞳で、じっと俺の目を見ていた。しばし、その時間が続いた。
「…あの~」
「あぁ…ワルい」俺は咄嗟に手を引いた。「余計なお世話だったよな…」
「いや、できればあと2回押してくれない?」
「え」
ピッ! ガコン! ピッ! ガガコン!
その子は屈み、カルピスを3本取った。350ml缶なのにも関わらず、2Lペットボトルを抱えているように見えた。
「ありがとー、ホント助かったよぉ」
「気にしなくていいよ」と言いながら、俺もカルピスを3本買った。500ml缶をブレザーの両ポケットに入れ、1本は手に持ち、さぁ戻ろうと立ち上がった。
振り向くと、その子がまだそこにいたので、少しだけ驚く。「どうかした?」
「ん? いや、君もカルピス3本も買うんだなぁって」
「あぁ、友だちにパシられてさ」
「あ、奇遇だね、私もだよぉ」
「…思ったこと言っていい?」
「ん?」
「頼む相手を間違ってる気がするんだけど」
「ホントだよぉ。君が来てくれなかったらヤバかったね」
小さいわりに、おおらかと言うか、随分呆気からんとした子だな。
俺はテキトーに断り、教室に戻ろうとした。するとその子に「ねぇ」と声を掛けられた。「君知ってた?」
「何を?」
「カルピスって初恋の味何だって」
「あぁ、俺もさっき初めて知った」
「私も」とその子は微笑む。「今さっき知った」

作者プロフィール

紙男
超短篇を中心に活動中毎日ツイノベしてます。
最近文芸ユニット「絵空少女」を結成しました。フリーペーパー「絵空きゃんばす」で超短篇を掲載、また「絵空工房」で小説連載をしてます。
拉麺、ポケモン、伊坂幸太郎さん、スピッツが大好き。

あとがき

紙男と申します。
2回目の投稿です。

今回のテーマは「カルピス」。

最初に彷彿としたのは、カルピスのキャッチコピー「初恋の味」でした。素敵なコピーですよね。
それとカルピスのCMの、あの清々しさも素敵です。憧れます。
恋愛ものは、まだまだ書き方がわからりません。なので挑戦の意味合いを込め、色々と妄想しながら書きました。

荒削りな作品ですが、ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
また皆様にお会いできる機会を、心より願っております。

以上、後語りでした。

 - カルピス

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