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【たまごの物語:カルピス】White・Memory/飛鳥(あすか)

      2015/02/27

【たまごの物語:カルピス】White・Memory/飛鳥(あすか)

カラン、と涼しい音が部屋に鳴り響いた。
青いグラデーションが施されたガラスのグラスには、真っ白な液体が注がれ、カラカラと氷がまた軽やかな音を発する。

田舎から都会のこの街に出て、もうすぐ一年になる。
私は度々、こうやって冷たいカルピスを飲む事にしている。田舎にいた時の事を思い出し、疲れを癒すためだ。
自分の意思で都会に出て来たものの、慣れない環境での一人暮らしや仕事のストレス…それらに押し潰されそうになる日が頻繁にやって来る。
そんな時にカルピスを飲むと、上京する前の日にかけられた言葉を思い出し、ほんの少しだが元気が出てくる。

私は幼い頃からカルピスが好きだった。母が原液から作る姿を幼馴染みの将太と背伸びをしながら眺め、一緒に飲むのが私の日課でもあった。
小学生になってもカルピスは毎日のように飲んでいたが、高学年になる頃には自分で作るようになっていた。
将太も相変わらず私の家に遊びに来て、二人で作っては宿題の傍らに置いていた。

「お前、まだカルピス飲んでるんだな。」

「なによ、いきなり。そうね…日課みたいになったし、飲まない方が不自然だもの。」

中学、高校と上がってくると将太は家には来なくなり、彼はカルピスもほとんど飲まなくなった。周りの人だってたまにしかカルピスを飲む事が無いという。それでも私は、一日に一杯のカルピスを飲んでいる。吹奏楽部に入部し、忙しい日々を過ごしているが、寝る前には必ず飲む。だが、一時期から体重を気にして夜に飲むことをやめ、カルピスのペットボトルを学校に持ち込んで飲むようになった。そんな様子を見て、将太がいきなり話しかけてきたのだ。

「そろそろやめたら?もう小さい子供じゃないんだし。」

「え、何で?別にいいじゃん。」

「だから、もういい年なんだから、カルピス離れした方が良いんじゃないの?ガキっぽいし。」

「そんなの人それぞれの感覚じゃない。大人だって飲んでる人はいるわ。」

「毎日飲んでる奴なんかいないだろ。だから…」

「なんで将太にそんな事言われなきゃいけないのよ!私の勝手でしょ?!」

私の怒鳴り声は教室中に響いた。彼はとても驚き、何も言えなくなってしまった。この会話をしていたタイミングが部活が休みになっていた日であり、ちょうど帰ろうとした時であった。だから、私はそのままカバンを掴み、教室を飛び出した。
今考えれば、馬鹿らしい理由だ。自分の日課を否定された、ずっと一緒だった将太にガキっぽいと言われた…。ただそれだけだ。

その日以来、将太は話しかけて来なくなった。私も話そうとはせず、日課だったカルピスも飲まなくなっていた。よほどショックだったのだろう。その日の夜から目にするだけで腹が立ち、口にする事が無くなったのだ。

結局、彼と話さないまま三年生に進級し、私は上京して会社へ就職する事を決めた。もちろん、彼には話さなかった。だから、彼は私がこの町からいなくなる事は知らなかった。その一方で、彼はこの町に残りお父さんの仕事である農業を継ぐ事を、私は知った。
クラスの男子が話しているのが耳に入り、挙げ句の果てには仲の良い友人に聞かされた。正直どうでもよくて、半ば聞き流してはいたが。

「絢乃(あやの)、忘れ物はない?」

「うん、大丈夫。あっちに着いたら一回連絡するね。」

彼と話さないまま卒業を迎え、私の上京する日になった。荷物は既に家族に手伝ってもらいながら運んで、後は私が新居へ入居するだけだ。
母と父が玄関で見送りをして、私は駅へと歩いて行った。朝一番の電車のため、駅には誰もいなかった。少し冷えた空気の中、静かに生まれ育った町の思い出に浸る。
楽しいことも、悲しいことも、全て大切な思い出で、今更だが目に涙が滲んでくる。唯一、悔いが残るのはやはり彼であった。意地を張っていたが、卒業してから、なんだか悪い気がしたのだ。とはいえ、彼の家に行く事も気まずく、話すタイミングがなかなか掴めなかった。結局、謝れないままこの日を迎えてしまった。

「ガキっぽい…。あいつの言った通りかもなー。」

ポツリ、と溢れた言葉は本心だった。
意地を張り続け、謝ろうとしても謝れない。むしろ子供の頃が良かったとさえ思う。

「…電車、遅いな。」

「…おい。」

予定時刻になっても来ない電車を待っていると、誰もいなかった筈のホームに人影があった。

「将太?え、なんで?」

「お前のお母さんに会ったんだよ。そしたら今日上京するって聞いて。」

久しぶりに会話をした。
あんなに気まずかったのに、自然と会話が出来る。

「あ、そうなんだ。…ごめんね、言ってなくて。それと、一年の時…私、意地はって怒鳴って、その…ごめん。将太が言ったみたいに、私ガキっぽかったよ。」

「俺も、悪かったよ。周りの奴らがお前のこと馬鹿にしてたから、やめさせたくてお前にあんなこと言って…。お前の気持ち全く考えてなかった。」

「…そうだったんだ。ありがとう、将太。ずっと気になってたし、本当の理由が分かってやっとスッキリしたよ。これで心置きなく上京出来るよ。」

そこまで言うと、将太はカバンをあさり、何かを取り出した。

「ほら、カルピス。これでも飲んで頑張ってこい。野菜で困ったら俺に連絡しろよ。いつでも送ってやる。」

「…!!うん、頑張ってくるね。本当にありがとう、将太。」

タイミングを見計らったように、電車がホームに入り、私と将太は別れた。

この日以来度々彼から野菜が届き、一緒にカルピスのボトルが送られる時もある。
私にとってのカルピスは、田舎での暮らしを思い出す為の大切なピースとなったのである。

作者プロフィール

飛鳥
飛鳥(あすか)といいます。
私は幼い頃から本を読んだり、文章を書いたりすることが好きでした。
最近では拙い文章ではありますが、中編小説を執筆しています。

あとがき

テーマが「カルピス」ということで、まず最初に「学校での青春」を連想しました。子供から大人まで好まれるカルピスですので、大人に成長した主人公が青春時代を思い出す一つのピースとして使いたいと思いました。
カルピスのCMで「からだにピース」と言われていることもあり、それをかけようと考え、この作品を書きました。

 - カルピス

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