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【たまごの物語:男と女】庭の女/yukarix4000

      2014/12/20

【たまごの物語 テーマ:男と女】庭の女/yukarix4000

「じゃ、行ってくるね」
新居の玄関に立ち、まさに会社へ出発しようとしている虎太郎(こたろう)は笑顔で言った。
すぐそばの窓からは、柔らかな四月の陽光が降り注いでいる。
虎太郎が愛用している銀色の腕時計は、朝の七時過ぎを指し示していた。
「いってらっしゃい。早く帰ってきてね」
そう言って、やや寂しげな微笑を浮かべているのが、虎太郎の婚約者である未久(みく)。
二人は一年前から婚約していて、八月に結婚する予定だ。
一足早く、新居での同棲を開始することになり、昨日この新居に引っ越してきたばかりの二人。
「うん、もちろん。でも、もう寂しがる必要はないよ。これからは、こうして毎朝、毎晩、会えるんだからさ」
「ありがとう。気をつけてね」
「うん、じゃあね」
はにかむ未久にキスをすると、虎太郎はドアを開け、出ていった。

真新しい一軒家にただ一人になると、寂しさと心細さが未久を襲う。
彼女はそれを紛らわすため、速やかに家事を開始した。

それは、洗濯機の操作をしているときのことだった。
何気なくすぐそばの細い窓から庭を見た未久を、かすかな驚きが襲う。
庭の向こうを走っている道に、うつむき加減の女が一人、身体の正面をこちらに向けて立っていたからだ。
微動だにせず、たたずむその姿に、薄気味悪さを感じた未久は、それ以降はそちらを見ないようにして作業を続ける。

それ以降は何事もなく、やがて帰宅した虎太郎と二人で夕食をとり、愛に溢れる楽しい時間を過ごした。

そして翌朝。
前日と同じように虎太郎と見送り、同じように洗濯機に向かう未久は、これまた同じようにすぐ隣にある細い窓を見やる。
彼女はぎょっとした。
昨日の女が庭で仁王立ちしていたからだ。
どうやって入ってきたのかは分からない。
昨日と違い、距離が近いために、女の異様な様子がよく分かる。
服装は至って普通ながら、眼光は鋭く、表情は険しかった。
昨日と同じく、こちらに身体を向け、棒立ちで突っ立っている。
未久にとって確信できたことはただ一つ……明らかに自分はこの女と面識がない、ということだけだった。
怖さと気味の悪さから、慌ててリビングへと逃げ込んだ未久は、すぐさま親友の桃子に助けを求めることに。
電話が通じると、手短に用件を話し、二人にとって共通の友人である葉月も連れて、桃子に家まで来てもらうことにしたのだった。

「こっちこっち!」
桃子と葉月が到着するやいなや、庭の見える例の窓まで二人を案内する未久。
窓から見ると……やっぱりまだいる!
「何もいないじゃん」
桃子の言葉に唖然とする未久。
「ほら、あそこ」
指差して桃子に知らせる
見間違いなどではない。
「多分、疲れてるんだよ。このおうちに引っ越してきたばかりで、環境も変わったから、仕方ないよ」
「ほんとに……見えないの?」
恐る恐る聞く未久に、桃子は強く頷く。
「少し休んだほうがいいよ。そんなに気になるなら、しばらく一緒にいるし、お昼ご飯も一緒に食べるから」
未久は桃子の申し出をありがたく受けることにした。

午後三時、二人が帰っていった直後。
玄関のチャイムと共にやって来たのはなんと、さっきまで一緒にいた葉月だった。
すぐにリビングへと案内すると、葉月は静かに話し始める。
「桃子の前では言えなかったけど、私も見えてたよ、あの女」
「えっ?」
驚いて言葉も出ない未久。
「私、霊感強いから。あれは多分、生霊(いきりょう)だけど。生きてる人の霊というか魂だね。未久の彼ってすごく女性にモテるでしょ。あの人も、彼に想いを寄せている女性の一人みたいだね。叶わぬ想いが、怨念と化しちゃったみたい」
「ど、どうすれば……?」
「大丈夫。色々準備があるから今日は無理だけど、明日の午前中、早いうちにまた来るね。いいおまじないがあるから。それさえ済めば、もう問題なくなると思うし、安心してね」
葉月の言葉に未久は感謝のあまり泣きそうになり、震える声で「ありがとう」と言った。
「気にしないで。それじゃ、彼が帰ってくるまで、私がそばにいるよ」

やがて午後六時、虎太郎が帰宅すると、未久は全てを打ち明けた。
そして、虎太郎と葉月を伴い、夕暮れ色に染まる庭を見に行く未久。
そこには、あの女の姿がやはりあった。
「何もいないじゃん。きっと疲れてるんだよ。藪下さん、すみませんね、こんな時間まで」
葉月に向かって言う虎太郎に、葉月も言葉を返す。
「いえいえ。でも、未久の言うことは本当なんですよ。私にも見えてまして。ただ、明日にはおまじないをお教えしますので、問題なくなるはずです」
「何から何まですみませんね。玄関までお見送りしますよ」

葉月が帰ってゆき、二人っきりになると虎太郎が言った。
「未久の友達を悪く言いたくないけど、友達は選んだほうがいいよ。おまじないとか、意味が分かんないし。きっと桃子ちゃんの言う通り、未久はすごく疲れてるだけだから、ゆっくり休んで疲れを取ってね」
優しく頭を撫でられると、未久はもう何も言うことができなかった。

翌日、七時に虎太郎を見送ったあと、ひたすら葉月を待つ未久。
すると、十時ごろ、約束どおり葉月は来てくれた。
そして、おまじないを実行するため、あの窓の前へ二人は移動する。
庭には、今日はあの女の姿はないようだ。
窓の前に、折りたたんだ紙と線香立てを置く葉月。
立てた線香に火をつけると、「火が消えても、線香がなくなっても、今から十二時間後の午後十時過ぎまでは、絶対にここに立ち入っちゃダメよ」と、葉月は真剣な表情で言う。
未久が頷くと、「今日は少し用事があるから、これで失礼するね。くれぐれも、さっきのことを忘れないでね。大変なことになってしまうから」と念を押して、葉月は帰っていった。

葉月の言ったことを守り続ける未久。
やがて夕方となり、虎太郎を出迎えた未久は、また二人で幸せな時間を過ごした。

「まだ庭に変な女が見えるの?」
不意に聞く虎太郎。
「今日はいないよ」
「ほらね。気のせいだったんだよ。それにしても、あの窓、少し汚いから、洗ってくるね。洗剤を買ってきたから」
「私が明日やっておくから!」
慌てて虎太郎を止める未久だったが、遅すぎた。
立ち上がった虎太郎は、すたすたと歩いていき、あの窓へ向かう。
ドアを開けた虎太郎の後ろで、未久は見た。
あの女が部屋の中に入り込んでおり、線香のそばでうずくまっているのを。
女は顔を上げ、二人のほうを睨みつけると、襲い掛かってくる。
あまりの恐怖に未久は気を失った。

目を覚ますと、虎太郎が介抱してくれていた。
「よっぽど疲れてたんだね。それと、あの変な線香、また藪下さん? あんな人ともう付き合っちゃダメだよ……」
優しく言ってくれる虎太郎。
しかし、未久は逆に悲しくなる。
結局、信じてはもらえないんだ……。
優しくて、信念も勇気もあって、私には勿体無いくらいの人だけど……このことは信じてもらえない……。多分ずっと……。
虎太郎を心底愛しているだけに、未久の悲しみは深かった。

このことが原因で、その後、断腸の思いながら、未久は婚約を破棄することにした。
虎太郎はいつまでも、「こんなにお互い愛し合っているのに、別れるだなんて……全く理解できない」と首をかしげっぱなしだった。

作者プロフィール

yukarix4000
主に「ベリーズカフェ様(&野いちご様)」「小説家になろう様」「魔法のiらんど様」にて小説を書いております(ベリーズカフェ様と野いちご様では、yukari4000名義です)。好きなジャンルは、恋愛(純愛系)とミステリーとホラーです。よろしくお願いします。
Twitter:@yukarix4000

あとがき

『男と女』がテーマということで、「男女の考え方の違い」を描いてみました(つもりです)。

たとえ優しくて、思いやりも愛情も深い人であっても……男性の場合、「自分の信念は曲げない。信じられないものは信じられない。たとえ、愛する人の言うことであっても」「相手のことを全て理解していなくても、深く深く愛していれば何も問題ない」といった感じの人が、女性よりも多い気がしますので。
本作での虎太郎さんのように。
しかし、未久としては、「霊的なものとか、そういうのが見えるってことも全部ひっくるめて、私。だから、そこも理解してほしい」「お互いの全てを、理解するとまでは言わなくても、しっかり受け入れた上で愛し合いたい」って思ってるわけでして、こういう女性は割と多いかと(私だけじゃないですよね?)。
そのへんがうまく伝わっていればいいんですが。
ちなみに、私は霊を見たことないですけど。

おまじないの部分は、思いつきでテキトーです。
実際こういう出来事が起こると、怖すぎますね(自身に起こったことはないです)。
書いてて怖かったです。
でも、ホラーを書くのはやめられません。
「怖いもの見たさ」ならぬ、「怖いもの書きたさ」ですね。

 

 - 男と女

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