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【たまごの物語:男と女】らしさより君/宮瀬 沙耶

      2015/01/04

【たまごの物語:男と女】らしさより君/宮瀬 沙耶

黒いスラックスにシンプルな無地のワイシャツ。大股で早歩きをしながら家路を急ぐ一人の女性。遠目に見たら男かと思うくらい潔く歩くその姿も、ボブカットが幸いしてある程度近づけば女だと一目でわかる。
彼女の同僚の女性たちは例えば、小さな花が散りばめられている桃色のブラウスに華やかなフレアスカート。上にはたまご色というがふさわしい優しい黄色のカーディガンを羽織ったりなんかして、見事に私服可の職場環境を謳歌している。
時折、彼女は同僚のかわいい子から「せっかく綺麗なんだからもっとかわいくすればいいのに」なんて言われるが、曖昧に笑って流してしまう。それは彼女の望むところではないからだ。
彼女は吐く息の白いのも気に留めずただひたすら歩いていたが、ふとコンビニの明かりを見つけるとしばし逡巡し、それでもさほど悩まずに店内へ入っていった。

「いらっしゃいませー」

深夜の時間帯だからか、若いアルバイトがレジの内側でやる気なさげに声をかけた。
腕時計があったが、顔を上げた先に時計があったのでちらりと見やると時刻は午後11時25分ごろ。いつも使ってる最終のバスが行ってしまって今日は地下鉄で帰ってきたのだから、それくらいになっていて当然か、とため息をつく。今日も今日とて残業帰りだ。
アイスや雑誌のコーナーは素通り、お菓子のコーナーはチラ見しつつ、その端にあるおつまみコーナーへ一直線。スルメと柿の種を手に取り、お酒のコーナーへ移動する、と見知った後ろ姿。

「なにしてんの」

お酒を眺めてる後ろ姿に声をかけると、その男性は振り向いて笑った。

「あ、おかえりー。待ってたんだよ」
「ここに寄るとは限らないでしょ」

のんきに手を振る男に近づくと、彼は持っていたカゴに彼女が持っていたおつまみを入れた。

「冷蔵庫にお酒がなくなってたから寄ってくると思って」

鋭い推察力の前に彼女は図星だと唸るしかない。

「あと牛乳無くなっちゃったし、甘いもの食べたくなったから買いに来た」
「ああ、そう。で、それはもう選んだの?」
「うーん。選んだけど、ちょっと買いすぎたかなぁ。自分のお金じゃないし、自重するよ」
「別にいいのに」
「ぼくがだめなんだよ」

彼は、彼女の家の居候である。つまるところヒモなのである。だから彼は気にしているのだ。

「あたしがいいってんだからいいじゃない。一口もらいたいし」

彼女は、彼がカゴから出しかけたスイーツの類いを無理やりカゴに戻すと、お酒を何本か取り、さっさとレジに行ってしまった。残された彼は困ったように苦笑して、それでもレジで隣に立つとありがとうと礼を言った。
それから10分くらい歩いてアパートの階段を上ると、下の階の一室のドアが開き、半纏を羽織ったおばあさんが顔を覗かせてふたりを引き止めた。

「ああ、ちょっとちょっと!」
「こんばんは、大家さん」

引き止められてまずは挨拶をすると、向こうもこんばんは、と返した。

「ずいぶん遅くまで起きてらっしゃるんですね」
「主人が法事で遅くなるのよ。あなたもお仕事でしょ?毎日遅くまでお疲れ様なことねぇ」

こうなるともう止まらない。ここの大家さんは話し出すと長い。彼女は普段であれば生活時間がずれてるからめったに会わないが、彼のほうは慣れたように相づちを打っている。彼女のほうは彼に受け答えをほとんど任せ切ってとりあえず微笑を浮かべていた。

「それに比べてねぇ、ちょっとあんた、しっかりしなさいよ!彼女がこーんな遅くまでがんばってんだからさ。男の甲斐性ってやつ見せなきゃ」
「本当ですねぇ。しっかりしなきゃとは思ってるんですけど」
「ああ、もうなよなよしてて女みたいだね。まったくどっちが男だかわかりゃしない」

越してきたばかりの、最初のほうこそ彼女はいちいち腹を立てたりしていたものだけれど、大家さんの古い考え方はもう染み付いていて漂白剤なんか効かないとわかってからは、とりあえず流すという術を身につけていた。これさえなければいい人なのだが。彼のほうが毎日のように聞いていて怒らないのだからすごいと尊敬する。

「というかね、あんたたちさっさと結婚しなさいよ。男と女が一緒に暮らしてたら夫婦になるっきゃないでしょう!付き合ってんでしょ?どっちが男でどっちが女かわかりにくいけど」

これを言われるのが一番嫌いなのだ、彼女は。ああ、まったく世の当たり前の中での生きにくさったらない。彼女が少しイラっとしたのを感じ取った彼は苦笑しつつ、うまく話を「おやすみなさい」で締めていとまを告げた。
二階奥の自分たちの部屋に入ると、彼女は乱暴に靴を脱ぎ、ソファにどっかりと座った。

「なによ!どうせあたしは女らしさのかけらもありませんよーだ!悪かったわね!」

言葉の向く先はもちろん、大家のおばあさんなのだが、今ここに大家さんはいないので返事は当然彼の役目だ。

「別に悪くないよ。ぼくは女らしさとかは関係なく君自身を求めてるんだし」

冷蔵庫に買ったものを入れながら答える彼の声は宥めるかのように優しい。

「それに、女らしさを求めたらぼくも男らしさを求めなきゃいけなくなるじゃない?自分と違う自分になるの、疲れるでしょ」

別に彼はおネェでもなんでもないが、ただ少しヒモで暮らしと経済面で彼女の世話になってて、料理が得意で(味付けは苦手だけど、基本器用だから包丁さばきはそこら辺の主婦には負けてない)、買い物にもよく行くし、近所の主婦の話を聞くのが上手なのだ。それだけ。あとヒモ。見事に就職氷河期に凍らされたのだ。

「ヒモは自分もなにも関係ないけどね」
「うっ、そこは痛いところだけどね。がんばります」

彼はスルメだけ持ってきてソファの隣に座った。

「ビールは!?」
「だめ。イライラすると酔い早くなるじゃん。で、もっとイライラする悪循環だから、今日はぼくに構っててよ」

……こういうセリフをさらっと言えるのはうらやましいとは思うが。

「女らしさよりあたしがあたしであるところを好きになったの?」

なんて問うて少し仕返しのつもりだったが、そうだよ、と素直に肯定されて完敗してしまったからおとなしくスルメでも食べながら夜を過ごそうか。
らしくある必要はない。あたしはあたしであればいいんだ。そう気づけた今日が、気づかせてくれた君が好きだよ。

作者プロフィール

宮瀬 沙耶
「物語はハッピーエンドでなければ、見てる人も幸せになれない」を
モットーに、考え方の違いはあるかもしれませんが基本的にはハッピーエンドものを書いています。
聴覚障害を持った高校3年生で、春から短大生&一人暮らしになるのでもっと書く時間を増やせるかもとわくわくしているところです。

作者あとがき

「男と女」。
よくあるテーマといえばそれまでですが、よくあるからこそ語りにくくもあるような気がします。わたしが言っても誰かがすでに言ってたりして、なんて思ってしまうし。
でも、小さなこと、当たり前のこと、定番なことでも掘り下げて考えてみると自分の考えはこうなんだよね?って自分と対話できるので、わたしなりに考えてみました。

まず一般的には男と女=カップルという等式が浮かぶと思います。残念ながらわたしは斬新な発想をするタイプではなくて、考えて考えていくタイプなので、テーマを見たときの第一印象は
「カップル」でした。
時折「ヒモとその恋人の同棲話」と題してネタと設定だけTwitterでつぶやくことがあるので、そのカップルが浮かびました。彼女たちが「普通」と少し違うのは女性が男性を養っているところ。男性が家事をするところ。ヒモと称していますがいわゆる主夫的なものですね。最近は女性の社会進出も
進み、女性は家にいるべきという考え方は古いとされていますが、まだまだ根本的なところに残っていると思います。

彼女たちは性格も少し「普通」とは反対で、彼女は男勝りで頼りがいのある女性。一方で彼は少しなよっとしていて、女性特有の柔らかいオーラがある、という人たち。

社会的にも性格でも「普通」とは正反対だけれど、それでいいじゃないか。大事なのは自分を見失わないことだ!と言いたかったお話です。
もちろん、「女らしい」「男らしい」というのは褒め言葉にもなりますし、いい意味でも捉えることができると思いますけどね。それが第一にきてしまったらなんのために「女らしさ」「男らしさ」を磨くのかわからなくなってしまうと思いませんか。

 - 男と女

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