小説家のたまご

未来の小説家=小説家のたまごを応援するサイトです。

*

【たまごの物語:男と女】傘と男と女/久里原 和晃

      2015/01/06

【たまごの物語:男と女】傘と男と女/久里原 和晃

放課後、男女三対三の六人で駅前のカラオケに行く約束をしている。間もなくクリスマスだというのに、誰一人として恋人がいない、ちょっぴり寂しいメンバーだ。

その中の一人、雨宮さんに片思いをして半年が経った。真面目でおとなしい性格なのに、髪を焦げ茶色に染め、それなりにスカートを短くしているというギャップに心を奪われた。
そんな彼女はクラスの男子からの人気者。彼女を狙う男は多い。カラオケに着いたらなんとか隣に座って、自分を印象付けて、クリスマスまでにモノにしたい。
「マジかよ、雨だ」
六時限目の数学が半分ほど終わった頃、誰かが言った。それがまるで、「左向け左」の号令だったかのように、教室内の全員が教室の左側にある窓に目をやる。さほど勢いは強くないが、雨が校庭を濡らしていた。体育の授業中だった生徒たちが頭を手で覆いながら校舎に向かって走っている。
「面倒だなー、傘持ってきてないよ」
「俺も」
「私もー」
何人かが漏らす。朝は晴れていたし、予報も晴れだったから、傘を持ってきている人は少ないだろう。

俺はこんな日に備え、下駄箱近くの傘立てにビニール傘を置いておいている。他の人のものと間違えないように、おばあちゃんが柄の部分に黒いテープを一周巻き、一目で俺のものだと分かるようにしてくれたものだ。
俺はこの教室の中で数少ない勝者。放課後は自慢気に、スキップ混じりに、そんなおばあちゃんがよく歌ってくれた童謡『あめふり』のあのフレーズを口ずさみながら歩こうか。

いや、そんなことよりも、カラオケに向かう道中で雨宮さんと相合傘をしたい。彼女が傘を持っていなければチャンス。みんなで向かう途中、自然に近くを歩いて声を掛ける。
「入る?」
「うん、ありがとう!」
上手くいけばカラオケでそのまま自然に隣に座れる。この成功が後の成功に繋がる、そんな気がした。
「よし、行こうぜー」
メンバーの一人のその声をきっかけに、パラパラと教室を出た。雨は変わらず、ジョウロの勢いよりも少し強く降り続いている。
「傘持ってる?」
「ないよー」
「私も」
雨宮さんと並んで歩くもう一人の女子との会話が聞こえた。雨宮さんは傘を持っていない。千載一遇のチャンスだ。しかし、一緒にいる女子が邪魔だ。一緒に歩かれては雨宮さんに声を掛けづらい。なんとか離す方法はないものか……。
「あ、ロッカーに忘れものしちゃった。先行ってて!」
「うん」
完全に流れが来ている。雨宮さんが一人で俺の前を歩いている。制服の上からグレーのパーカーを羽織り、白いマフラーを巻いた後ろ姿はまさに俺の理想そのものだ。歩くペースを上げ、少しずつ彼女に近付いた。

ぐー、きゅるるる……。
この場面で腹痛が。今朝、消費期限を三日過ぎた卵を納豆に入れて食べたことを後悔した。
トイレを出た時にはみんないなくなっていた。全速力で追いかけよう。さぁ、傘を持って……。

ない。傘立てのいつもの場所に傘がない。持ってきている人は少ないだろうから、誰かに盗まれたのかもしれない。ビニール傘は見分けがつきにくく、どうしてもターゲットにされる。正直、俺も盗んだことがある。その罰が当たったのかもしれない。それにしたって、最悪のタイミングだ。「完全に流れが来ている」なんて思った五分前が懐かしい。まるで逆の展開になってしまった。
意気消沈しながらも、走ってみんなを追い掛けた。強くなった横殴りの雨が目に入るのを手で拭いながら、雨宮さんを探した。荒波に揉まれながら前人未踏の島を探す船長の気分だ。

ほどなくしてグレーのパーカーが目に入った。とりあえず近くに行こう。行って会話をしたい。自分を印象付けて、クリスマスまでにモノにしたい。
近付くにつれ、異変に気付いた。雨宮さんの横に、傘を差した男がいる。メンバーの一人で、その中では俺が最も信頼を置いている奴だ。
他のみんなが濡れている中、二人は相合傘をしていた。あいつも傘持ってたんだ……。俺はあいつの横に行く。
「なんだよ、自分たちだけ傘かよー」
「いいだろー」
自慢気に上下に揺らしたその傘の柄には、黒いテープが巻かれていた。

作者プロフィール

久里原 和晃
都内だけでも軽く2万人はいる、性格も顔も特徴のないサラリーマン

作者あとがき

様々なメディアが溢れ、本を読む人が年々右肩下がりの現代で、長い文章はウケません。
これからは短編、ショートショートの時代。例えば、ネットサーフィンの合間に、テレビゲームの合間に、電車内で駅と駅の間に読み切れるような、至極短い作品が求められます。
現代人は忙しく、やるべきことが山ほどあります。時間を掛けて一つの作品を読むような余裕はありません。上下巻に分かれるような長い作品は、今後居場所を失うことでしょう。

ショートショートはかなり難易度が高い。少ない文字数で読者を満足させなければならない。
しかし、それが文章の本質なのではないかと思います。出来る限り簡潔に要件を伝えるのが文章だから。

ショートショートをたくさん書くことが文章力を鍛えるのに最適です。不要なものは排除し、残すものは残す。断捨離みたいなものなのかもしれません。

貴重な体験をさせていただきありがとうございました。

 - 男と女

ad pc

ad pc

コメントはお気軽に^^

  関連記事

[FullMovie] [HD] The Edge of Seventeen (2016) Episodes Watch Online

The Edge of Seventeen (2016) Full Movie …

【たまごの物語:男と女】朱に交われば白くなる/七瀬祈織

【たまごの物語:男と女】朱に交われば白くなる/七瀬祈織 寒空にぽっかりと浮かぶ、 …

【たまごの物語:男と女】遠い未来のオカルト記事 まとめ/梓野千紗

【たまごの物語:男と女】遠い未来のオカルト記事 まとめ/梓野千紗 約1000年前 …

【たまごの物語:男と女】奇跡な軌跡/しろいるか

【たまごの物語:男と女】奇跡な軌跡/しろいるか ボクたちは、みんな奇跡の子供だ。 …

【ショートショート:男と女】something hot , something sweet./徒川ニナ

something hot , something sweet./徒川ニナ きぃ …

【たまごの物語:男と女】ヒカルとアカリ/紙男

【たまごの物語:男と女】ヒカルとアカリ/紙男 「あら可愛いい。女の子ですか?」 …

【たまごの物語:男と女】とろりきんいろ/猫屋ちゃき

【たまごの物語:男と女】とろりきんいろ/猫屋ちゃき やわらかな光が、教室の中に入 …

【たまごの物語:男と女】庭の女/yukarix4000

【たまごの物語 テーマ:男と女】庭の女/yukarix4000 「じゃ、行ってく …

【ショートショート:男と女】イメージ探し/彩葉

イメージ探し/彩葉 見渡す限り人、人、人。目を疑うような人の波。もしや大事件でも …

【たまごの物語:男と女】棘/みや

【たまごの物語:男と女】棘/みや 初めて出会った瞬間に柴田はもう玲美に恋をしてい …