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【たまごの物語:100万円】新番組『ザ・リアリティ・ショー』/エリス計画

      2015/04/22

【たまごの物語:100万円】新番組『ザ・リアリティ・ショー』/エリス計画

街金に手を出そうか。それともリボ払いにしようか。道端を歩きながらそんなことを考えていた。頭のなかにあるのは車のシルエット。銀色ボディに四人乗りの、オープンカーにもなれるやつ。新車ならば手を出せないが、近所の中古車ショップの片隅に、望んだ車が一台だけ置かれていた。俺、聞こえたんだよね。あいつ、俺に乗ってほしいって俺に向かって言ってるのを。

長いこと考えて、借金をすることにした。そして百万円、現金一括で払ってしまおう。そのほうが、車も喜ぶってものさ。目に浮かぶよ。夜の沿岸を、法定速度を気にせずに突っ走る俺と相棒。その傍らには、赤いドレスを着た金髪の乙女。ああ、いい。素晴らしい。

金を貸してくれる会社に辿り着き、扉を叩く直前に、誰かに呼び止められた。

「すいません。ちょっとよろしいでしょうか。」

振り向くと、愛想笑いを浮かべているが、借金する奴を見下している目をした男が立っていた。サングラスに、ピンクのシャツの袖を肩にかけて前に結んだ、ロン毛の男。その傍らには、坊主にした中年太りのカメラマン。テレビ業界の人間だと、一目でわかった。

「なんでしょう?」
「お金に困っていらっしゃる?」

そりゃそうだろうよ。暴利を貪る不潔なお前ら以外の人間は、みんな困っているだろうよ。くそ野郎。ハゲが。のたれ死ね!

「そうですが、何か?」
「私たちの番組に出演しませんか?ギャラは百万円出します。」

なんて素晴らしいお人なんだ。この人たちは神様の生まれ変わりかなんかか?よく見たらカメラマンの頭頂部は、丸く光を放っている。それが、光の輪っかに見えないこともない。確信した。この人たちは信頼できる。それに、素人を使うんだ。生ぬるい番組に決まっている。よし。

「出演します!」

俺は何の番組かは知らないが、快く引き受けた。
カメラマンが運転する車に乗って、俺が出演する番組の制作会社へと向かう。三十分ほど走った後に、ガラス張りの建物の中に入らされた。中はいろいろな道具で散らかりつつも、最低限に小奇麗な部屋を通り抜け、応接室へと通された。
黒張りの、俺の布団よりふかふかなソファーに座り、机を挟んで正面に二人の男が腰掛けた。ピンクのシャツを背中にぶら下げた男は、番組のプロデューサーだと名乗った。

「早速ですが、番組の企画内容を説明させて頂きます。あなたは普通に過ごして頂いてかまいません。我々はそれを、あなたに気づかれないようにしながら、追いかけて取らせて頂きます。」
「つまり、ドキュメンタリーですか?」
「まあ。そんなものです。期限は、そうですね。まあ、終わるときにはお知らせします。」

なんだ。そんなことか。十か月撮らせても一月十万か。悪くない。

「分かりました。よろしくお願いします。」

プロデューサーは喜んだ表情を浮かべ、名前と住所を書くだけの簡単な書類と、茶色封筒に入った帯付きの百万円を俺に渡してきた。数えてみると、ちゃんと百万円ある。よしよし。
制作会社を後にすると、早速中古車ショップに向かった。すぐさま店主と契約をして、念願の車を手に入れる。ああ、本当にカッコイイ。現金一括だからか、割引してくれたようで、俺の三月分ほどの食費程度が残った。まあ、折角のあぶく銭だ。ぱあっと使ってしまおう。

夕方から夜へと移り変わり、街の電灯があちこちで煌めく。よし飲むか。行きつけのバーに向かう途中、携帯電話から耳障りな着信音が耳を貫いた。

「はい。」
「あ、こう君。今日、いつ帰ってくるの?ご飯作ったんだけど、一緒食べよ?」
「美香、お前、また俺の携帯の着信音、勝手に変えただろ。」
「あ、そうそう。いつも、その着信音聞く度に、私のことを思い出してほしいなって。どう?」
「そういうの、マジうぜえ。」
「あ、ご、ごめんね。許して。」
「今日は帰んねえから。お前一人で食えよ。」
「あ、う、うん。そっか。そうする。あ、それとね。そろそろ私の両親にも会って……。」

電話を乱暴に切って、後部座席に投げ捨てた。ああ、酒が飲みてえ。法定速度ぎりぎり越えて、車をとばす。
バーに到着し、入ると奥に赤いドレスに身を包んだ金髪乙女が待っていた。

「いつもの。」

バーテンダーに一言言って、見ていることがばれないように赤い女を眺めた。顔立ちは日本人だが、鼻が高くて凛々しい。ハーフだろうか。体もいい。でかい胸。でかいケツ。それで十分だ。

「あちらのお客様からです。」

バーテンダーが赤い女を指し示した。彼女は俺と目を合わせ、右目でウインクしてくる。渡された酒はテキーラ・サンライズ。俺のいつものだ。初めてのことにどうしたらいいか分からなかったが、彼女が手招きをするので素直に従った。

「初めまして。お酒、どうも。」
「どういたしまして。よく来るの?このお店。」
「ええ。まあ。いつもの、と言って通じるくらいには。でも、どうして俺に?」
「かっこいいから。あなた。」

彼女はそう言って、胸板の厚さを確かめるように俺に触った。

「彼女はいるの?あなた。」

一瞬、美香のことが頭によぎったが、都合良く忘れた。

「い、いません。」
「あら。じゃあ、私とお話してくれません?」

彼女は艶めかしく脚を組みかえて俺を誘った。いくしかない。そう腹に決めて、彼女に向き直った。

赤い女は酒に強く、何杯飲んでも酔う気配がない。楽しくお話しながらも俺は勧められるままに飲むので、意識が朦朧とするが、好感蝕のようだ。最早、彼女が何を話しているのかさえ分からないが、きっとエッチなことだろう。

何時間たったか分からない。しかし、そろそろ俺の夢に誘ってもいいだろう。今日買った車に彼女を乗せて、沿岸を走りたい。走った後は……。そういった類のことを酔った舌で囁くと、俺は彼女の胸に手を伸ばした。軽く振りはらわれたが、彼女は俺のほっぺたにキスをして、俺の耳元で囁いた。

「飲酒運転はいけないわ。だってこれ、テレビで流れるんだもの。」

酔った頭が一気に覚醒し、彼女を凝視した。しまった。そうだった。彼女はテレビ局の回し者か!
俺は今までのことが恥ずかしくなって、奇声を上げて店を飛び出した。車に文字通り飛び乗り、車を走らせた。
家に帰ると、同棲している美香が嬉しそうに俺を出迎えた。

「今日は帰らないんじゃなかったの?」
「うるせえ。寝る!」
「……ねえ、ちょっとまって。その、ほっぺたのキスマーク何?まさか浮気?」
「ちげえよ。何もなかったよ。」
「浮気だけはダメって言ったじゃない!」

なんだ?いつも怒らない美香が今日に限って怒鳴っている。ああ、そうか。こいつも仕込みか。長年付き合ってやったのに、なんだよ。俺を騙すのかよ。

「くそが、出ていけ!」
「出ていく!」

そう言って、彼女は荷物をまとめて家を飛び出した。どうせ、収録が終わったらのこのこ帰ってくるだろう。
しばらくの時が経った。
髪の毛に白髪が混じり始めたのに、未だ終わりを告げられていない。俺は多くを失った。車も売った。美香も結婚をして、子供が生まれたそうだが、どうせそれも嘘だろう。制作会社もなくなったとネットの片隅に書いてあったが、それも嘘だ。部屋の隅で、恥ずかしさと欺瞞に陥らないようにひっそりと膝を抱える毎日。

「なあ、もういいだろう?金を返すよ。百万。そっくりここにある。だからさ、もうやめてくれないか?」

部屋のどこにあるか分からない、あるかどうかも知らない隠しカメラに向かって、いつまでも懇願し続けた。

作者プロフィール

エリス計画
「小説家になろう」にて2015年の2月から『Ginger Yell』という、異世界に行かない作品を投稿中。ツイッターもやっています。Twitter:@erisproject

作者あとがき

今回で投稿四作目です。今回のテーマは百万円もらっても、嫌なことはなんだろうかと考え、いつも見られることに落ち着きました。そういったところから、このような話を思いつきました。読んでくださり、ありがとうございました。

たまごの物語とは

与えられたテーマで、ショートショート(超短編小説)を執筆・投稿していただき、気になった作品を「小説家のたまご」にて公開させていただくコーナー。500~3000字と少ない字数なので、比較的短い時間で気軽に参加することができます。
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