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【たまごの物語:お金】山田まる

   

【たまごの物語:お金】山田まる

僕には、年の離れた年長の従姉妹がいる。
基本的に地元を離れて暮らしているため、合うのは年に一度、お正月の短い時間だけだ。
けれども、僕はそんなねーちゃんが好きだ。
何故なら、ねーちゃんは僕と同じオタクだからだ。
いや、僕と一緒にしてはいけない。
僕はただ漫画やアニメが好きなだけだけど、ねーちゃんはプロのオタクだ。

最初、両親にねーちゃんがプロオタクだと聞かされた時は正直首を傾げた。
親に聞いても、ねーちゃんのお父さんやお母さんに聞いても、「プロのオタクはオタクのプロよ」なんて一言で終わらされて、しばらくの間僕にとって、ねーちゃんは謎の人だった。
その謎が解けたのは、つい一昨年のお正月のことだ。

プロのオタクとは一体何なんだと本人に聞いてみたところ、ねーちゃんはくすりと小さく笑って、内緒話をするように教えてくれたのだ。

「私はな、小説家なんだ」

ドヤァと胸を張るねーちゃん。
まさか身内にそんな人がいるとは思わず、驚いている僕に向かって、ねーちゃんは楽しそうににんまりと口角を持ち上げて笑った。

「まあほら、お前の他にはうちの身内にはオタクがいないからな。
小説家なんていってもよくわからんだろ? だからまあ、オタクのプロってことにしてあるんだ。大体間違ってもないしな」

もともと趣味で書いていたものを、そのまま仕事にしたからプロオタク。
オタク稼業で食っているからプロオタク。
ねーちゃんはそんな風に笑っていた。
そんなわけで、同じオタクである僕からすれば「凄い人」であるねーちゃんも、うちの親族の間ではただの「プロオタク」だ。
何か得体のしれない仕事をして、日々修羅場っている趣味人だと思われている。

そんなねーちゃんが、今年も正月に地元に帰ってきた。

嬉しい。
同じオタクである僕にとっては、プロオタクであるねーちゃんの話が聞けるのはとても楽しくて仕方がないのだ。
おばあちゃんの家で正月の挨拶を済ませて寛いでいた僕は、玄関先から聞こえたねーちゃんの声に、慌てて出迎えに走った。

「ねーちゃんお帰り!」
「お、ただいま。明けましておめでとう。元気そうだなあ」

にこにこと笑って、ねーちゃんが年始の挨拶を口にする。
いつもよりちょっとだけお洒落したねーちゃんは、すらっとした長身もあってまるでモデルさんのようだ。
そのままねーちゃんを連れて居間に向かおうとしたのに、どやどやと後からやってきた親戚のおばさんたちに飲みこまれ、ねーちゃんはまた綺麗になったわね、だの、良い人はいないの、だのと囲まれたまま居間に連行されていってしまった。

ぐぬぬ。
ちょっと、がっかりだ。

ねーちゃんと話す機会は、お正月にお互いがおばあちゃんの家に滞在している間ぐらいしかないのだ。ねーちゃんは、正月が終わればまたすぐに遠くに行ってしまう。僕だって、ねーちゃんと話したかったのに。

そんな僕の気持ちが通じたのか、ねーちゃんは、しばらくするともそもそと人垣の間から抜け出してきた。そのまま何気なく、すっと居間を離れる。
ねーちゃんの常套手段だ。トイレに行くふりで、そのまま逃走する気に違いない。
いつもなら、こそっと僕ら子供組の中に混じっておばさんらの追及から逃れるのだが……。
その時、ねーちゃんの後を追いかけたのはなんとなくだった。

ねーちゃんは、ちょろっと周囲を見渡し、誰も見てないことを確認するとポケットからスマホを取り出した。そして画面をのぞき、びくっと背を揺らす。

「離れたところで待ってろって言ったのに……っ」

どこか焦った独り言が聞こえる。
ねーちゃんはそわそわと落ち着かない様子で玄関に置いてあったつっかけを足に引っ掛けると、裏口へと向かっていった。
ここはやはり、つけるべきだろう。
僕も、探偵気分でねーちゃんの後を追いかける。
そして。

おばあちゃんちの裏、庭から路地に続くあたりで――…ねーちゃんは男と密会していた。

その男は、長身のねーちゃんよりもさらに頭一つ分ほど背が高い。
若干人相が悪く、一瞬ねーちゃんが変な男に絡まれているのかもしれない、とも思ったものの、ねーちゃんが気易くぷんすかしている姿を見たらそんな心配はどこかに行った。

「離れたところで待っていてくれって言ったじゃないか」
「いやあ、ほら、つい好奇心が」
「好奇心は猫をも殺す、ということわざを知らないのか。うちの身内に見つかったら、死ぬまで質問攻めにあうぞ」

なんて、ねーちゃんは眉を寄せてこんこんとお説教をしているものの、男の方はそれすらも楽しそうに口元が緩んでいる。
そんな仲の良さそうな様子に、なんだかちょっと説明できない感情がこみ上げた。
ねーちゃんに、彼氏。
なんとなく、ショックだ。
すっと息を吸う。

「おかーさーん、ねーちゃんが男とみっかi」
「ちょおおおおっ、おま、いつからそこに!!」

大声で叫びかけたところ、凄い勢いで振り返ったねーちゃんに羽交い絞めにされて口をふさがれた。普段は陽だまりに伸びる猫みたいにのったりふにゃふにゃしている癖に、こういう時だけねーちゃんは素早い。ぎゅっと捕まえられた腕の中、ねーちゃんからは甘い花の匂いがする。

「…………」
「…………」

見つめ合う。
すっとねーちゃんが手を下ろそうとすると、僕は声を出そうとすっと息を吸う。
すると、降りかけた手が再びぴたりと僕の口元を覆う。
そんな謎の攻防戦。
その戦いの果てに、ねーちゃんは仕方ないなあ、という風に小さく息を吐きだして……

「良い子にしてるなら、おねーちゃんが特別なお年玉をあげようじゃないか」

いきなり買収作戦に出た。
汚い。さすが社会人汚い。
それでも僕が『特別なお年玉』なんて言葉の響きにつられて黙っていると、ねーちゃんはそろりと懐から一枚の金貨を取り出した。

「ほら、凄いだろ。これをやるので黙っているように」
「…………」

手の中に握らされたものを見る。
それは、少し大きめのメダルのようだった。
ゲーセンなどで使われるものにしては装飾が凝っていて、ずしりと重い。
ぼんやりとくすんだ感じが、なんだか本物の金貨のようでどきどきと好奇心を煽る。

「ねーちゃん、これ……?」
「10000エシル硬貨だから、大事にしろよ」
「ぶっ」

ねーちゃんの言葉に、なぜかねーちゃんの彼氏が噴いた。
何かものすごく物言いたげな顔をしているものの、ねーちゃんに気にした様子はない。
というか、エシル、というのはどこの国の単位だろう。

「旅行土産みたいなものだよ。こっちでは使えないから、御守りがわりにでもするといい」
「うん、ありがとうねーちゃん!」

だから黙ってろよ、なんていうねーちゃんの言葉にこっくりと頷いた。
ねーちゃんが旅行に出かけていた、なんて話を聞いた覚えはないけれど、本人がそう言うのだからきっとそうなのだろう。
さすがプロオタク、子供心をくすぐるチョイスをよくわかっている。

「……俺は知らないぞ」
「いいじゃないか、お土産のつもりで持って帰ってきたものなんだし」

そんな二人の会話を聞きながら、僕はぎゅっときらきらと光る金貨を大事に握りしめた。

その時の僕は、まだ知らない。
ねーちゃんの彼氏が微妙に渋い顔をした理由を。
その金貨が正真正銘異世界から持ち込まれた本物であることも、ねーちゃんがうっかり異世界で大暴れしたりしていたことも、知らなかったのだ。
それが明らかになるのは、きっとずっと先のこと。
一枚の金貨を巡る冒険は、また別の話である。

作者プロフィール

たまごライター:山田まる
writer_maru_100南国産の文字書き。「山田まる」として趣味で書きつつ、別名義で商業ライター。ゲームシナリオ、ドラマCD、WebSSやら雑誌用SS、舞台台本までわりと何でも屋。今度「山田まる」名義で本が出る。Twitter:@maru_yamada

 

あとがき

あけましておめでとうございます。
まるです。
お正月シーズンにお題が「お金」だったので、これはもう「お年玉」しかないだろうという安直な感じでこんなお話になりました。
出てくる二人がどっかの誰かさん達のようにも見えますが、どうなんでしょうね。
もしかしたらこんな未来も来るかもしれない、というぐらいのSSとして楽しんでいただければ……!
?
今年も皆さんに楽しんでいただけるようなものを書いていけるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。

 - お金

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