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【たまごの物語:お金】金から始まる恋人関係/彩葉

   

【たまごの物語:お金】金から始まる恋人関係/彩葉

街全体が見渡せる小高い位置にあるこの公園は、ある意味隠れた絶景スポット。
ふもとにある大型のショッピングセンターで買い物を楽しんだ後、自転車を引いて丘の上へ。そして公園に辿り着く。彼を先導する形で公演に足を踏み入れた私はそのままベンチに腰を掛けた。そして、ついてきた彼を上目づかいで見つめる。
「もうすぐ付き合って三か月だね」
何気ない会話の導入。そうだね、と彼も何気なく返した。
「それでその……私、実は言わなきゃいけないことがあって……」
少し戸惑い気味に、言うべきことを頭の中で反芻しつつ喋る。
「実はね、私のお父さんが今、借金を抱えているの。友達の保証人になっちゃったとかで……どうしても、ピンチな状態なの。でも、頼れる人なんていなくて……私は身体が弱かったこともあって友達なんて全然いないし……でも、恭人に会った……もう、私の頼れる人は恭人しかいないの……一生に一度のお願い、必ず、必ず返すから……だから……」
俯いて声を震わせてそう告げる。違和感はないはずだ。もう三回は成功している。今回のターゲットの浪川恭人も、割と私にぞっこんだったはず。プラトニックさを大事にする誠実さも持ち合わせている分、こういった相談事には真剣に対応してくれる。
そう見込みつつ、そろっと顔を上げる。

そこには、嘲笑うようにこちらを見下ろす顔があった。

「五人の男から金をもぎ取った詐欺師がいると聞いて近づいてみれば……随分使い古された手口じゃないか。馬鹿馬鹿しい」
かけていた眼鏡を外し、鼻で笑う。
あれ?私の知っている彼ではない。
「三村友梨佳……じゃなくて、本名は藍川亜希。十八歳の女子大生……ってのは嘘で、フリーター。まああえて職業を上げるなら……詐欺師、といったところかな。高校生の時から詐欺を繰り返してきてその演技力と手口は一品。中でもデート詐欺に関してはここ最近立て続けに成功して金を騙し取っている」
模範解答。正体が……ばれている。
「よくもまあ丁寧に調べ上げたことで」
そちらが本性を表わすならば私も気持ちの悪い猫を被った女子大生の演技をする必要はないだろう。完全に失敗してしまった。そして、追い詰められた状態か。

いや、まだ焦りは禁物。冷静に考えよう。
正体がばれているとなると、警察に突き出される可能性が十分に考えられる。いかに逃げて行方を晦ませるか考えなければならない。
「まんまと貴方に騙されたって訳か。詐欺師を騙すなんてとんだ詐欺師だ。もしかして、浪川恭人という名前も偽名?」
「いいや、本名だよ?調べ上げられても弊害がないようにね。でもまあ今そこで尋ねたってことは全然下調べもしていなかって訳だ」
「私は下調べをして動く探偵のようなことはしない。口八丁手八丁相手を騙すのが私の生き甲斐。事前知識なんて必要ないの」
今だって別にピンチだとは思っていない……つもり。

「それで、貴方は私を警察に突き出すの?」
「条件次第」
ここへきて、にやりと不敵な笑み。気に食わない。こんな奴と恋愛ごっこをしていただなんて信じられない。
「ふうん、聞くだけは聞こう」
私だって、余裕の表情は崩したくない。
「警察に通報されたくなければ、お前が奪った金を全て……」
「被害者に返せ、と?」
「まさか。俺に渡せ」
……悪逆非道にも程がある。詐欺師を騙した上に金まで奪おうとは。どちらが犯罪者か分かったものではない。
「残念。奪った金を私が今も持っていると思う?」
コツコツ貯金をして手元に大量の金があれば、今頃私は詐欺師を卒業している。学校にだって通っている。それができないのは……
「思わないね。借金を抱えた父親の代わりに家計を支えているんでしょ?」
「……そこまで調べたの?」
一体彼は何者だ。どうして私の本名も家の事情を見透かしているんだ。
「え?最初に自分で言わなかった?まさかあれ、本当なの?」
……墓穴を掘った。そうだ、そこには真実を混ぜていたのだ。白新の演技になったのはそのため。父親が友人の保証人になって大量の借金を抱えたのは事実。ついでに私に友達がいなかったことも、頼れる人間が全然いないのも本当。
ただ、今素直に思う。
彼のことだけは、絶対に、何があっても信用してはならない。
詐欺師を騙すような悪逆非道の男をまず信じてはならない。

警察に突き出されるか。金を何とかして返すか……そもそも、ない金は返せない。
「金を……用意するまで少し猶予期間をくれない?」
「信用するとでも?」
ついこの間までそこそこ熱い恋人同士だったのに、この状況はなんだろう。どちらもただ恋人ごっこを続けていただけ。なんというか……滑稽だ。
信頼関係すらない。凍てついた空気の中、火花が散る。危険極まりない現状。

「分かった、俺が監視しよう」
沈黙の後、彼はそう言った。
「え?」
「お前の詐欺を俺が監視して……いや、監督してもいい。あんな効率の悪い行為はやめて、どうせならもっと一気に稼ぎたいと思わないか?」
すぐにはその言葉を理解できなかった。
理解しても受け止めがたかった。裏があるとしか思えなかった。
こんな犯罪めいた言葉。
いや、これは犯行声明だ。犯罪の片棒を担ぐと言っている。
彼こそ、警察に突き出されるべき人物なのではないだろうか。

「どう?素直に警察に突き出される?それとも、話に乗ってみる?」
「正直、警察に突き出されるのは困る。家計が危ないのは本当だしさ。というか……堂々と犯罪を助長する発言をしている人間に通報されるのがとても不愉快だというのが本音」
もう、選択肢は一つしか提示されていなかった。つくづく、性格が悪い。
二度も三度もやられている。歯が立たない。

「契約は成立かな。詐欺師のこと噂で聞いた時に思ったんだ。すっごく面白そうだってね。でも実際会って分かった。俺の方がもっと計画的にことを勧められる。ま、その演技力の高さは買っているし、使えそうだとも思うし……協力、しようね」
使えると、使えるとさらりと言われた。
いや、しかしこれはチャンスかもしれない。
私一人の計画だと騙し取れる金額にも限界があるし、危険度も高い。
けれど計画さに自信を持っているという彼を背後に置いておけばとりあえず安泰。犯罪の片棒を稼げば、彼が私を通報することもできなくなる。

協力、などという生温い言葉が生じる関係になるとは到底思えないけれど。

「じゃあ、行こうか」
随分日も暮れてきた。そう思って目下の街を眺めていると、手を差しだされる。
「何の真似?」
「え?どうしたの友梨佳。いつも手を繋いで帰ってるでしょ?」
恭人はいつの間にか眼鏡をかけていた。本性を表わす前までの格好。分かってしまってからも、それなりに様にはなっている。なるほど、表面上は恋人同士でいようってことか。随分とナチュラルに接してくるものだからひどく混乱する。しかし演技力を買われたからにはこちらも負けてはいられない。

「ううん、何でもない。いこうか、恭人」
私は満面の笑みを浮かべて見せた。

偽りの関係は終わりをつげ、偽りと分かった上での偽りの関係が始まる。

「あー一つだけ言い忘れていたけど、俺がお前のことを好きなのは本当だから」

さて、最後の言葉は嘘か真実か。
「じゃあ、私も恭人のことが好きだよ」
とりあえずそう言い返しておいた。

作者プロフィール

たまごライター:彩葉
writer_iroha_100文字を書くことが生きがいの、未熟で未熟な小説家のたまご。新しいことにどんどん挑戦したい。依頼はいつでも受付中。現在は主に「pixiv」と「小説家になろう」にて小説を書いております。Twitter:@kotonoha_hutaba

 

あとがき

タイトルは『金から始まる恋人関係』
……ちょっといけない感じのタイトルになってしまいました。
私的には、最後のシーンが書きたかっただけです。
これから続く物語の冒頭部分みたいな話になってしまったなあとは思いますが、彼の本心がどちらなのかということを含め、その後の展開は読んでくださった皆様のご想像にお任せします。

3000字という限られた文字数、決められたお題であっても、書き手によって多種多様な物語が綴られる。前回の企画を見ても、たまごライターを はじめとする皆様のレベルの高さに圧倒されました。
私にもその一枠が与えられていることを嬉しく思うと同時に、折角載せていただけるのだから恥のないようもっと努力せねば……と、つくづく思います。
これからも頑張りますので、どうぞ末永くよろしくお願いいたします。

 - お金

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