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【たまごの物語:お金】情けは人のためならず/宮瀬 沙耶

   

【たまごの物語:お金】情けは人のためならず/宮瀬沙耶

雑誌を見ながらぼうっと聞いていたラジオからCMの歌が流れてくる。
「ふーんっふっふっ、ふーんっふっふっ♪」
小気味よいメロディでわたしの心を捉えて離さない某CM。ぶっちゃければ郵便局のCMだ。歌詞の内容から鑑みるに、どうやら貯金しましょうということを伝えたいらしい。思わず口ずさんでからふと考える。

わたしは貯金がない。けれど日々の生活は成り立っているし、貯金しない代わりに休日はちょっぴり贅沢をしたりする。毎日、朝に近所の喫茶店で一杯のコーヒーを飲むのも幸せ。
もちろん、「でもなぁ……」と思ったりもする。もしもなにかあった時にお金がなくて困ったらどうするの、とは母の言い分だ。そのとおりだとも思う。でも少しの贅沢で日々がんばっているわたしのモチベーションを崩したくないし、と適当な理由をつけてなんだかんだうまくいっている。
「貯金、ねぇ……」
貯金なぞなくても現状困っていないのだ。ならそれでいいじゃないか。と、普段なら思っていただろう。だが、まあ貯金も悪くないかも、とこの時に限って思ったのは今にして思えばよかったのかもしれない。
それから、半年を少し過ぎると貯金もある程度貯まってきた。一人暮らしだったし、この歳にしては稼いでいる方だったし、贅沢さえしなければ口座のお金は右肩上がりだ。実家への仕送りを少し増やし、休日は散歩だったり家でのんびり過ごしたり。節約の楽しみや口座の金額が増えていく嬉しさもやみつきになりつつある。慣れればこの生活もなかなかによいものだ。

今週は6連勤だったからがんばったなぁ、今日はなにしよう。いつもより少しだけ寝坊した日曜日、休日の朝。リビングで今日の予定を考えていると、ぴんぽーんとインターフォンが静かな部屋に響きわたった。やれやれ、とため息をつきつつ、「はいはーい」と明るい声を出して玄関の戸を開ける。電話をとって確認なぞはめんどうだからしない。
「おやまあ……」
戸の外に立っていたのはいつも遊びに来る友人。だが、思わず感嘆詞を呟いてしまったのは、彼女が目に見えてわかるほどに落ち込んでいたからだ。それはもう見事に。オーラが見えたらこんな感じだろうか。
「なしたの」
とりあえず友人を家に招き入れてお茶を出した。
「また旦那とケンカでもした?それとも家事に失敗して落ち込んでんの?」

周りより早く結婚した友人は、今でも事あるごとに大学時代のように遊びに来る。たいていは今日のようにわたしの仕事が休みの日曜を狙って、お昼近くに来て旦那が帰ってくるまでには家に戻る。連絡もなしにいきなり来るのはめずらしいが、これとて初めてのことではない。こういう時の彼女はたいてい愚痴を語りに来るのだ。だが、今日はどうやらそうでもないらしい。彼女は至極言いづらそうに話を切り出した。

「あのね、お義母さん……旦那の。が、三ヶ月前に亡くなったって話はしたよね。で、遺留品とかまあ、後処理をしてたんだけど。どうやら借金をしていたらしく。保証人も旦那の叔父だったんだけど亡くなってるのね。で、旦那のところに回ってきて」

……ははぁ。話は読めた。だが、とりあえずは最後まで聞こうと相づちを打つ。

「わたしたちもあまり羽振りがいいわけじゃないし、むしろかつかつだから、ちょっと手に余る金額なの。もし、できるのであればお金を貸していただきたくお願いに参りました」
申し訳なさそうに頭を下げる友人を、見てわたしの心はすでに決まっていた。
「いいわ、借金はいくらあるの?」
即答したわたしに彼女は少し驚いたようだった。
「ありがとう。でも金額は言えない。無理はしないで、困らない範囲でいいの」
彼女は聡い人だし、いい子だ。だから借金の額は言わなかったし、わたしも追求はしなかった。

すぐに郵便局に行って貯金を全額下ろして彼女に渡した。何度も何度も頭を下げて、今度旦那も連れてお礼に来るというのを「いいからいいから」と押しとどめる。

「それよりもね、いい?わたしは困らない範囲の金額をあなたに渡した。だから最悪返さなくてもいいわ。それより、また遊びに来てね」

お金のトラブルは友情を壊さないだろうか。現に彼女はわたしに恐縮しまくっていた。次に会ったときまた対等の友人として会えればいいけれど。
わたしは彼女が大好きだ。だから困ってるなら助けたいと思う。一緒に苦しくなっても構わない。
「情けは人のためならず」。情けをかけると巡り巡って自分に返ってくる。そう、これは彼女のためではなく、彼女を助けたいわたしのため。
「……母さんは怒るだろうか」
またゼロから貯金を始めよう。

作者プロフィール

宮瀬 沙耶
聴覚障害を持つ現高3。「物語はハッピーエンドじゃないと読んでいる人も幸せにならない」をモットーに考え方の違いはあるかと思いますが、基本的にはハッピーエンドのものを気の向くままに書いています。

あとがき

まだまだお小遣いに甘えているひよっこなので、お金のトラブルなんぞは想像しかできませんが、こんなに甘いものでもないと思います。程度の差はあるでしょうが。
ただ聴覚障害者の先輩から聞いた話では、やはり障害者だと甘く見られて給料の額が少なかったりするので会社に文句を言ったりする人も少なからずいるみたいです。

「お金」というテーマを見て、「クリスマスキャロル」というかの名作を思い出しました。意地悪でケチんぼだけどお金持ちのおじいちゃんが徐々に改心していって、最後はみんなのためにお金を使うというお話です。
よくも悪くも、使い方次第。使う側の心次第ということですよね。
自分の生活のため、家族を養うため……。誰かのためになるように使えればそれが一番!

今回は「友情」も絡めていますが、「わたし」は友人がとても大好きらしいので、友情が壊れることはないでしょう。みなさんもお金のトラブルで大事な友人を失うことのないようにくれぐれもご用心ください!

 - お金

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