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【たまごの物語:お金】緑柱石の髪飾り/yukarix4000

      2017/06/07

【たまごの物語:お金】緑柱石の髪飾り/yukarix4000

「チェリーブロッサムのヤツらは来るはずがないですよ」
二年坂警部は笑顔を浮かべながら、ジャンと私に言う。
ジャンというのは、私の隣に立っているフランス出身の男性のことだ。
10年以上前から日本で暮らしているため、その日本語はかなり流暢なものの、金髪に青い目という見た目から、すぐに海外出身であると分かると思う。
26歳になった現在は、パン屋さんを経営しており、私はそこでアルバイトとして雇ってもらっている。
ちなみに私の名前は鷺坂明日香で、17歳の高校生だ。
ジャンと私の出会いについては、いずれ別の機会にお話しすることにしたい。
「油断は禁物ですよ。ただ、お気持ちは分かります。今回は、今までのヤツらの犯行時とは様子が違いますよね。何から何まで」
腕組みをし、険しい表情で言うジャン。
ジャンと私がどうして、厳戒態勢が敷かれている、ここ『鴨鹿宝石店』前にて警部と共に待機しているのか……。その理由をご説明したい。
推理マニアのジャンは以前、二年坂警部の捜査に対し有益な助言をしたことにより、警察関係者からすっかり気に入られ、今では探偵のような活動もしているのだ。
その際、ジャンはいつも私を助手として連れてきてくれている。
きっと私の第六感を買ってくれているのだろう。
そして今回、「怪盗団チェリーブロッサム」の件にて、警部がまたジャンに助力を仰ぎ、それを快諾したジャンは私を連れて現場へやってきたのだ。
チェリーブロッサムというのは、いわゆる義賊の組織だ。詐欺師や悪徳業者ばかりを狙い、金品を巻き上げている。犯行現場に毎度、ピンクの折り紙を切り抜いて作った「桜の花びら」を残しているのが彼らの特徴らしい。
それにしても、「今までと様子が違う」ってどういうことだろう。
「今回の件は、何か今までと違うところがあるんですか?」
警部とジャンに尋ねる私。
「まず第一に、今回ヤツらは初めて、『犯行予告』を出しています。しかも、ご丁寧に時間まで指定して。『今日の午後8時』と。そして第二に、そちらのお店、『鴨鹿宝石店』のご店主さんは気のいいお方で、全く悪い噂のない方なんですよ。義賊気取りのアイツらは、いつも黒い噂のある人物ばかり狙っているんですがね。ちなみに、こちらが今回の予告状の写しです。ジャンさんはすでにご存知でしょうけど」
親切に説明してくれた後、一枚の紙を私に手渡す警部。
見ると、そこには、「8月18日午後8時ちょうど、鴨鹿宝石店にて『緑柱石の髪飾り』をいただく」と書かれており、一番下に桜の花びらが描かれていた。
「予告の時刻まであと20分。さて、私は警備に戻りますが……ジャンさん、何かお気づきでしたら、すぐ知らせてくださいね! 著名な探偵様たちもお越しですが、私は誰より、あなたを信頼しておりますから」
力強く言い放つと、ジャンと私に向かって一礼し、警部は店内へと消えた。
「店内は、警察関係者以外立ち入り禁止らしいね。そして問題の『緑柱石の髪飾り』とは、巨大なエメラルドをあしらった髪飾りのことなんだけど、そのショーケース前には屈強な警官や警備員たちが大勢待ち構えているよ。僕らですら、このように近づけないのに、果たしてチェリーブロッサムはどうするんだろうね」
ジャンの言う通り、お店は厳重に警備されていた。
まさに、蟻の這い出る隙もない状態なのに、店の周囲にも警察関係者やマスコミ関係者が陣取っており、さらに私たちの周りにも多くの野次馬が詰め掛けている。
また、現在の模様はテレビやネット、ラジオなどにて生中継されているらしく、日本中の耳目を集めているはずだ。
警官が振りかざす探照灯や、人々が持つスマホやライトのせいで、辺りは昼間のように明るい。
みんな固唾を呑んで、お店を見守っていた。

7時50分、店内から一人のおじいさんが出てきた。
カメラマンたちが一斉にシャッターを切る。
「あの人が、鴨鹿馬蔵さん。ご店主だよ」
ジャンが私に教えてくれた。
見るからに人の良さそうなおじいさんだ。
前に進み出た鴨鹿さんは、軽く咳払いした後、ゆっくりと私たち大勢の群集に向かって話しかけた。
「来月店じまいしようかと思っていたほどの、寂れた店までご足労いただき、ありがとうございます」
そう言って深々と一礼した後、また店の中へ戻る鴨鹿さん。
「やっぱ、良い人じゃん」
私が思わずつぶやくと、ジャンも「そうだね」と同意してくれた。

8時が近づくにつれ、どよめきが大きくなる。
私も次第に緊張してきた。
厳重な警戒網をくぐり抜け、怪盗は姿を現すのか。
あと、3分。
2分。
1分。
そして―――。

8時ちょうどになった………が、何も起こらない。
周りからは、「何だよ~」「期待して損した」など不満の叫びが起こっている。
すると、お店から二年坂警部が出てきて、私たちを見つけると駆け寄ってきた。
「守り抜きましたよ! ふふん、やはり予想通りです。我々の大勝利ですね」
得意げに言う警部に、ジャンは冷静に尋ねる。
「そのエメラルドは、本物ですよね?」
「ははは。ジャンさんは相変わらずの用心深さですな。でも大丈夫。ショーケースは開けられてないんですから、本物のままに決まってますよ。すり替える隙などあるはずがないでしょう」
「調べていただけますか?」
「そこまでおっしゃるなら、すぐに手配しましょう。幸い、鑑定の専門家も控えていますし。まぁ、偽物だなんてこと、あり得ないですがね。では、ジャンさんと鷺坂さんも店内へどうぞ。許可は出ています」
私たちはようやく、店の中へと入れてもらえた。

店内で早速、鑑定が行われたが……「よく出来た模造品」という鑑定結果は、一同をパニックに陥れた。
鴨鹿さんや警部を含む、全ての人が狼狽を隠せない様子だ。
ただ一人冷静なジャンが、鴨鹿さんに尋ねる。
「最後に鑑定したのは、いつですか?」
「実はあの髪飾りは売り物ではないんです。当店の守り神のようなものでして……。先代から受け継いだものでした……。鑑定に出したことはございません」
鴨鹿さんの言葉に、目を丸くする警部。
「じゃ、じゃあ……。ひょっとしたら、もっと前から模造品だったのでは? ヤツらの盗みは失敗に終わったようですが……とんだ幕切れですな」
一同は、しばし呆然としていた。
そのとき―――。
「あれ? これは何ですかな?」
鴨鹿さんが、自分のそばに落ちている小さな何かを拾い、警部に渡した。
警部はすぐに確認する。
「ああっ! やられました! いつもの『折り紙の花びら』ですよ!」
警部の言うとおり、それは怪盗団がいつも現場に残すモノだった……。

その後行われた徹底的な捜査の甲斐もなく、真相は藪の中だった。
とある探偵は、「鴨鹿氏こそ、怪盗だ」という奇想天外な説を唱えたが、何も証拠がないので黙殺されることに。
鴨鹿宝石店はこの一件以来、繁盛するようになり、閉店を免れたようだった。
しかし、とある夜、事務室のテレビでこの事実を知ったジャンが、突如叫んだ。
「そうか! これがヤツらの目的だったんだ! 何らかの理由で、あのお店を助けたかったんだろう。あの夜の宣伝効果で、ヤツらの目論見どおりとなったわけだね」
ジャンの説が正しかったのかどうかは、確かめるすべがないので分からない。
しかし、私はそれが正しかったような気が今もしている。

作者プロフィール

yukarix4000
主に「ベリーズカフェ様(&野いちご様)」「小説家になろう様」「魔法のiらんど様」「pixiv様」にて小説を書いております(ベリーズカフェ様と野いちご様では、yukari4000名義です)。
好きなジャンルは、恋愛(純愛系)とミステリーとホラーです。よろしくお願いします。
Twitter:@yukarix4000

あとがき

初めましての方、初めまして。yukarix4000と申します。
テーマが「お金」ということで、「お金では買えないモノ」を意識して書いてみました。
ただ、ジャンの推理が正しいのかどうかは、あえてぼかしておりますので、ご自由にお考えいただけると幸いです。
正解は決まっていません。

一応、「作者である私(&主人公であるジャン)の考えとしては」という前提で、以下書かせていただきますと……鴨鹿氏は「お金で買えないモノ」を得たわけですね。「知名度」という。
現代ではネット等の進歩により、もしこういう事件が現実に起こった際には、恐らく宣伝効果が絶大かと思いますので。
そして、それはお金では買えませんし、鴨鹿氏にとってはある意味「どんな宝石よりも、価値がある」といえるかもしれません。
ただし、しつこいようですが、あくまでも私の意図に過ぎないので、「この捉え方が正解」という訳ではないです。

本作に登場する主要登場人物たちは、すでに「魔法のiらんど様」にて公開中の小説に登場しております。ご興味を持っていただいた方は、お手数ですが、『さくら駆ける夏』『ベーカリー探偵ジャンの冒険』にて、それぞれご検索いただければ望外の喜びです。『さくら~』に怪盗団が、『ベーカリー探偵ジャン~』にジャン・明日香・二年坂警部が出てきております。前者は(謎解き要素ありの)純愛系長編、後者は(まだ第1編のみの公開ですが)短編連作方式のミステリーです。

私は長編を書くのが特に大好きなのですが、短編や掌編も良いものですね。
長編には長編の、短編には短編の、掌編には掌編の良さがそれぞれあると思いますので、「どんなに時が流れても、いずれかが完全に廃れるようなことは、あり得ない」と個人的には考えております。
前回のテーマ「男と女」にて書かせていただいた『庭の女』のときもそうでしたが、今回もまた貴重な経験をさせていただきました。
読んでくださった皆様、誠にありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。

 - お金

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