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【たまごの物語:受付嬢】受付嬢の受付/エリス計画

   

【たまごの物語:受付嬢】受付嬢の受付/エリス計画

私の仕事柄、キリン、カブトムシ、カラスと、数多くの陸上カップルを受け付けてきた。ここにくる動物や虫たちは誰もが幸せそうな顔を浮かべていて、私は正直、彼ら彼女らが羨ましい。私なんて、どこまでいっても一人だというのに。名簿を確認しながら、今までの和やかな触れ合いを思い出す。私の依頼主に見込まれた通り、誰もが気のいい生物たちで、私の仕事もスムーズに進んでいた。後は鳩のカップル。この二羽を受け付けたら、私もお役御免だ。

「すいませーん。」

お、来た来た。私はDNAにインプットされた笑顔を浮かべ、名簿から顔を上げると、男の人型と目が合った。しかし、合っていた目が転げ落ち、私の太腿に乗っかった。

「あ、すいません。取ってもらえますか。それ。」
「ええ。はい、どうぞ。」

白い手袋が仄かに赤く染まるのも厭わずに、にこやかに目玉を渡してあげる。受け取った彼は、顔の窪みに目玉をはめ込むと、心底驚いたように言った。

「驚きました。あなた、驚かないんですね。」
「ええ。受付嬢ですから。受付嬢というのは、どんなときにも笑みを絶やさない生き物なんですよ。」
「はー。凄いなあ。」

彼はいたく感心した様子を見せ、鞄の中をごそごそやって、私に何かを差し出した。

「白木といいます。」
「白木さんですね。失礼ですが、アポイントメントは……。」

受け取った名刺には白木友彦と書かれており、裏の略歴には元人間と、簡潔に記してあった。

「すいません。飛び込みなんですが、どうにか乗せてもらえませんか?それ。」

私の後方の建造物を指差した。しかし、名簿に無い以上、乗せるわけにはいかない。彼には丁重にお帰り頂こう。

「申し訳ありません。私の依頼主からの紹介がないと、あれにはお乗せするわけにはいかないんです。」
「いいじゃないですか。私一人分のスペース位余っているでしょう?それに私、一芸に秀でていますよ。ほら、一発芸、太陽。」

白木は自分の首を体から取り外し、天に掲げた。

「天を侮辱するような不謹慎な方は、ますます乗せられないと思いますが。」
「あ、すいません。今の無し。今の無しでー!」

後半は天に向かって大声で叫んでいた。まったく、私の最後の仕事の日に、とんでもなく面倒くさい訪問があったものだ。

「確かに、あなた一人分位なら大丈夫でしょう。しかし、乗れるのは依頼主がヘッドハンティングした、雄雌で生殖のできる生き物たちだけなんです。」

彼の笑みの後ろに一瞬、憎悪の影が露わになり、そしてまた柔らかい物腰に戻った。

「あ、分かった。アルバイトの正社員雇用みたく、まずは下っ端からってことですね。」

白木は膝を折り、縫合がほどけて体が転がっていかないように用心しながら、私に土下座をした。

「どうか、私を受付嬢として雇ってください!よろしくお願
いします!雇って下さるまで、ここから動きません!」

おいおい、こんなギリシャの片隅にジャパニズムを持ってくるなよ。面倒くさいやつだ。そのような台詞が喉元まで出かかったが、ぐっと胃に押し戻した。そのせいか、ちょっと胃がキリキリと痛む。言葉を変えて追い返そう。

「あの、受付嬢の嬢という言葉をご存知ですか?雌ということですよ。」
「あ、その点でしたら大丈夫です。」
「というと?」
「ほら。」

そう言うと、白木は履いていたスーツのズボンを捲りあげ、血色は悪いが毛の処理は万全な足を露出した。

「私、美脚ですから。」
「受付嬢って、お客さんから脚は見えませんよ?」

昨日よりも明らかに分厚さを増した雲が完全に太陽を隠し、辺りが暗くなった。冷たさをもった風が、鳥肌を作らせながら私たちの間を通り抜けた。

「あ、その、美脚はもういいです。えと、私が言いたいのはそういうことではなく。」
「なんでしょう?」
「私の上半身は男ですが、奪ったので下半身は女だと言いたかったんです!」
「例え、下半身は女であっても、ゾンビの方はちょっと……。それに、あなた、もう死んでるので、生殖できないじゃないですか!」

しまった。つい口から不用意な言葉が飛び出してしまった。どうやら、言ってはいけないことを言ってしまったようだ。彼の苛立ちを閉じ込めていた理性袋の口がほどけ出し、怪物のモンスタークレーマーは、苛立ちを真正面からぶつけてきた。

「ぐちぐち、うるっせーな!ムカつくんだよ。その笑い顔。馬鹿にしてんのか?いいから、早く乗せろよ。そのばかでかい方舟によ!」

このような野蛮で愚かな人を葬り去るための計画だというのに。ますます乗せるわけにはいかない。

「てめえは乗って助かるんだろうがよ!羨ましいなあ、おい。受付嬢さんよお!」

白木は完全に頭に血が上ったのか、鞄に隠していた仕込み刀を抜き、私の腰のあたりを一刀両断。真横に真っ二つに叩き切った。今度はジャパニーズニンジャの部分を出してくるのかよ。

「ははは。おい、ざまあねえな。お前の分の空いたスペースに、俺が乗りこんでやるよ。」

彼の足は方舟に向かっている。私は上半身から急いで下半身を生やし、彼の肩を掴んだ。残された下半身の方は、上半身を生やすのに手間取っている。

「え、なんだよ、お前それ。俺が今切ったはずじゃ……。」

白木が絶句して驚いている間に、私は彼の顔から両目を抜き取った。

「おい、なにすんだよ。返せ!」
「あなたが落ち着くまでは返しません。」

私は彼の右の目玉を右手で持ち、左の目玉を左手で持った。両手を広げてくるくる回ると、彼は目を回してその場にへたり込んだ。

「分かった。まいった。降参だ。回らないでくれ。」

私は回転するのを止めたが、目玉はまだ返さない。

「ありがとう。そしてすいませんでした。」

そう言って、彼は土下座をし、また物腰柔らかい態度に戻った。

「さっきの、あれはどういうことなんだ。教えてくれないか?」

私は黙って彼の目玉を、叩き切られた私の下半身に向けてやる。下半身からはうぞうぞと既に胸元までが生えていた。

「プラナリアという、生き物を知っていますか?私、あれと同じ種族なんですよ。」

「はあ。」
「例えば、デパートの受付で。あるいはどこかの大きな会社の受付で。双子でもないのに顔が似た、受付嬢を見たことはありませんか?」
「ある……けど。」
「あれ、全部私の分裂なんですよ。」
「なんだって?」
「もちろん、ほとんどの受付嬢は、普通の人間なんですけどね。」
「そうだったのか。」

彼は驚きで、顔から血の気が引いていた。もう目玉を返しても大丈夫だろう。私は彼の顔面に目玉をはめ込みながら、言葉を続ける。

「だから、私はあの、『ノアの方舟』には乗れないんです。」
「どうして。」
「あの方舟には男女のつがいしか乗れませんし、それに。」
「それに?」
「私を受け付けてくれる受付嬢はいませんから。」

空が黒一色に染まり、ぽつぽつと雨が降ってきた。私は近くの松明に火をつけて、席に戻る。鳩が二羽飛んできて、名簿にポンと足跡をつけた。これでめでたくお役御免だ。私は軽く伸びをした。

「あなた、これからどうするんだ。しばらく水の中で生きていけるのか?」
「正直、遠慮したいですね。私、化粧に時間がかかるタイプなので。」

下半身から新たに生えている私は、未だに頭を生成出来ないでいる。足首は既に雨水に浸かった。明日には頭までどっぷり浸かるだろう。私は白木と一緒に、いつまでも雨の風景を見つめ続けた。
私が助かったのかどうかは、皆様のご存知の通りである。

作者プロフィール

エリス計画
「小説家になろう」にて二〇一五年の二月から『Ginger Yell』という、異世界に行かない作品を投稿中。ツイッターもやっています。Twitter:@erisproject

作者あとがき

今回で投稿二作目です。近所のデパートの受付嬢は皆一様に美人で、綺麗に化粧をされているので、私には見分けがつきません。しかも、私のような人間にも優しく、笑顔で接してくれるので、もしかすると人間を超越した存在なんじゃないかと一時期疑っていました。そういったところから、このような話を思いつきました。
読んでくださり、ありがとうございました。

 

 - 受付嬢

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