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【たまコラム:太宰治のすべて】第2回:太宰治の名言・迷言/前田沙耶子

      2016/04/08

【たまコラム:太宰治のすべて】第2回:太宰治の名言・迷言/前田沙耶子

こんにちは、前田沙耶子です。前回は「そもそも太宰治って誰?」というテーマで書かせていただきました。変な部分ばかりピックアップしてしまった気もしますが、太宰について、少しでも興味を持っていただけたでしょうか?

さて、今回のテーマは「太宰治の名言・迷言」です。

太宰は作品中でも実生活でも、たくさんの名言を残しています。たとえば、何度も例に挙げている『人間失格』。「第一の手記」の冒頭文、「恥の多い生涯を送ってきました」と言えば、誰しも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。また、『桜桃』の「子供より親が大事、と思いたい」や、『HUMAN LOST』の「笑われて、笑われて、つよくなる」なども有名です。

しかしながら今回は、太宰治の肉声――すなわち、家族や友人などに語った言葉や書簡などから「名言」、そしてちょっと笑える「迷言」を、私の独断と偏見で選び、紹介していきたいと思います。

まずは名言部門から。

 

「傑作一つ書いて死にたいねえ」

これは若いころの太宰の口癖であったと言われています。太宰治は芥川龍之介に対して並々ならぬ情熱を抱いていました。太宰が「芥川龍之介芥川龍之介……」と名前を書き連ねている授業ノートが見つかった、というニュースを覚えている方も多いのではないでしょうか。

芥川は太宰が高校1年生のときに「将来に対する唯ぼんやりとした不安」を理由に自殺してしまいました。だからこそ若いころから、自身の文学と死を関連付けるような考え方をしていたのではないか、と私は勝手に思っています。遺書のつもりで書いたと言われる『晩年』が大ヒットを飛ばし、そこから太宰の文壇生活が始まっている、というのも、太宰と死の密接な関わりを体現しているようで、因果な話であるような気がします。

ちなみに太宰は芥川の名前を冠した芥川賞に対しても並々ならぬ情熱を抱いており、また賞を獲る気も満々だったので、落選時は相当荒れたようです。選考委員のひとりであり、太宰の作品を批判した川端康成に対しては「大悪党」、「刺す」とまで書いていますが、そのエピソードについてはまたの機会に。

 

「小説を書くというのは、日本橋のまんなかで、素っ裸で仰向けに寝るようなものなんだ」

 これは野原一夫が太宰に小説を見せた際に言われた言葉です。太宰の大ファンであった野原は、自身の大学で講演をしてもらえないかと頼みに行きますが断られます。しかしそこから交流が始まり、後に太宰の「新潮」における担当編集者となり(ちなみに『斜陽』の執筆を依頼したのもこの人)、『回想 太宰治』という回想記を出版するに至りました。

小説を書くには自分を良い子に見せようという気持ちや恥を捨てなければならない、という「小説家」太宰のスタンスが見えるひとことです。自分の全てを曝け出す――というのは、大きすぎる自意識に苛まれ続け、またそのような人物を多く描いていた太宰には並大抵のことではなかったでしょう。しかし、自身のドラマティックとも言える生涯を私小説として書き続けた太宰の人生を体現している言葉であるとも言えるのではないでしょうか。

また、弟子に対して「ウソ字、アテ字は書かぬように。疑問のときには必ず辞書を引いてたしかめること」と語ったとも言われています。太宰は執筆の際、机の上に大きな辞書を置き、少しでもわからないことがあればすぐに調べていたそうです。

どこまでも正しく嘘偽りなく、という創作に対するまっすぐで誠実な姿勢が窺えます。

 

「人間は結局、サヨナラのとき、どんな言葉を言うかなんだねえ」

太宰はこう言ったしばらく後に、小山初代との離婚を決意しました。他にも3度に渡る心中など、人生において幾度となく「別れ」を経験しています。

そんな太宰が最後に執筆した未完の小説のタイトルは、『グッド・バイ』。田島周二という男が次々と愛人に別れを告げていく物語です。このタイトルは井伏鱒二が『勧酒』という漢詩の「人生足別離」という部分を、「サヨナラ」ダケガ人生ダ、と訳したところから来ています。太宰はこの訳が大層気に入っていたようで、『グッド・バイ』の前書きにもこの言葉を引用し、「まことに、相逢った時のよろこびは、つかのまに消えるものだけれども、別離の傷心は深く、私たちは常に惜別の情の中に生きているといっても過言ではあるまい」と語っています。

『グッド・バイ』は先述のように未完にして絶筆となった作品で、原稿は第13回までが出来上がっていました。また、太宰は6月13日に自殺しています。聖書をよく読んでいた太宰は「13」という不吉性に気付きながら、あえてそのタイミングでの死を選んだのではないか、という説も唱えられています。もしもそれが正しいのであれば、太宰が最期に残した言葉は「グッド・バイ」だった、とも考えられるのではないでしょうか。

 

……というわけで、以上3つの名言を挙げさせていただきました。どれも「文豪」太宰治としての言葉であり、特に最後は胸に刺さるようだなあと感じます。

さてここからは、太宰の人間味あふれる迷言部門です。ちょっと趣向を変えて、ランキング形式で紹介していこうと思います。

 

まずは第3位。

あるとき太宰は熱海のとある旅館に入り浸っていました(小説執筆のためとも言われていますが真偽は不明)。そんな太宰を心配した美知子夫人は、友人である檀一雄に宿代と交通費を持たせ、連れ戻してきてほしいと頼みます。檀がいざ熱海に着くと太宰は大喜び。あちこち飲みに連れまわし、あっという間にお金を使い切ってしまいました。帰ろうにも飲み屋のツケや宿代が足りません。困った太宰は檀を人質として置いて行き、自分だけ東京に戻って井伏鱒二にお金を借り、また戻ってくる、という策を思いつきました。

が、いくら待っても太宰は帰ってきません。しびれを切らした檀が飲み屋と宿に事情を話し東京に行ってみると、2人はのんびりと将棋を指していたそうです。当然憤る檀。しかし太宰はひとこと、

「待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね」

 ……井伏氏に借金のことをなかなか言い出せずそんなことになってしまったようですが、それにしたってあまりにマイペースすぎないでしょうか。

ちなみにこのエピソードに聞き覚えがある方も多いと思います。そうです、この体験から着想を得て書かれたと言われるのが、『走れメロス』なのです。こんな言い訳をしておきながら見事に美談に昇華してしまいました。さすが太宰です。

 

続いて第2位。

本郷にある『紫苑』という喫茶店によく出入りしていた太宰。しかし太宰はその店のマダム・三潴(みつま)ハルに何度も車代をせびっていたため、彼女から嫌われていたそうです。その手口は実に巧妙。

閉店後いったん店を出た太宰は、もう1度戻って来て扉を叩きます。マダムが戸を開けるとこう囁きます。

「五十銭、用立ててくれないか」

 マダムがしぶしぶお金を渡すと、それを受け取ってひとこと。

「車代を借りている太宰は、仮の太宰」

 本当の太宰はお金借りてないから返しません、ということだったそうです。

こんなことをしていたら嫌われるのも当然ですし、マダムからすればたまったものではないと思いますが、このエピソードを初めて読んだときは思わず笑ってしまいました。どれだけ必死なんだ、とも思いますが、どことなくユーモラスな言い訳ではないでしょうか。ちなみにこれは『晩年』を書き上げる直前の話で、このときも檀一雄と一緒だったそうです。ここでもお金のトラブルに巻き込まれている檀からすれば、太宰はなかなか厄介な友人であったかもしれません。

 

第1位は、先に言葉から紹介いたします。

「なかなかいい句だね」

太宰と友人・山岸外史はあるとき銀座に向かって歩いていました。その際に山岸がいとこの寺内寿太郎という詩人の話をし、彼の詩をひとつ聞かせたところ、こう言ったそうです。当時、このふたりの間では、「会話の中で生まれた言葉は早い者勝ちで使用していい」というルールがありました。
だからでしょうか、太宰は寺内のその詩を『二十世紀旗手』という小説の副題に使用してしまいます。小説が発表され、寺内は激怒し山内に食ってかかり、山内が太宰に注意しました。すると太宰はきょとんとしながら「君の句かと思っていた」。
その詩とは――「生れて、すみません」。太宰の作品の中でもかなり有名なフレーズです。
結局のところ、それが盗用なのか本当に思い違いだったのか、真偽のほどはわかっていません。ただ、なんとなく「いやあ、勘違いしてたよ」と飄々としている太宰が目に浮かんでくるのは、私だけでは無いのではないでしょうか。
最後に、ランク外ではあるもののなかなかインパクトのあった言葉をいくつかご紹介します。

 

「みんなが寄ってたかって自分をいじめる」

税務署からの通知書を目にして。税金を放置したまま熱海に行ってしまい、帰ってきたときには審査請求の期限が切れていました。美知子夫人の前で「坊ちゃんが腕白坊主にいじめられ」たようにメソメソと泣いたそうです。

 

「だれが!!うぬぼれちゃいけない!」

酩酊状態で混雑した電車に乗り、女性にしなだれかかるような格好になってしまった太宰。女性が露骨に振りほどこうとすると、相手を睨んでこう言ったこうです。これはもう、100%太宰が悪いと思います。

 

「よっぽど悪いことしなくちゃあ、こんなでっかい家、建たねえや」

高級住宅地を歩きながらこぼしたひとこと。ひどいです。

 

「これは、どうも、よすぎる」

とても良い天気の朝、自宅の窓を開けてひとこと。そんなに不審がらなくても……。

 

……以上、「太宰治の名言・迷言」でした。文豪としての太宰と、ユーモアと人間味のあふれる太宰、どちらも感じていただけたでしょうか?

次回は本当に未定なのでいよいよ追い詰められています。今後は作品にスポットを当ててみるのも良いかなあ……等いろいろ考えてはいますが、やっぱり未定です。

というわけで太宰に関する質問や取り上げてほしい事柄などありましたら、コメント欄やツイッターなどでお気軽にお声掛けください。

読んでいただきありがとうございました。グッドバイ。

 

<参考>
津島美知子『回想の太宰治』(人文書院、昭和53年)
青山光二『純血無頼派の生きた時代―織田作之助・太宰治を中心に』(双葉社、平成13年)
山口智司『肉声 太宰治』(彩図社、平成21年)
鵜飼哲夫『芥川賞の謎を解く 全選評完全読破』(文藝春秋、平成27年)
太宰治倶楽部『もっと太宰治 太宰治がわかる本』(KKロングセラーズ、平成27年)
青空文庫 様 http://www.aozora.gr.jp/


たまコライター プロフィール

前田沙耶子(まえださやこ)
tw_sayako
1992年生まれの引きこもり。オカルトと動物と甘いものと三代目魚武濱田成夫が好き。運動ときゅうりと眩しいところが苦手。よく阿佐ヶ谷近辺で酩酊してる。短歌や小説を詠んだり書いたりすることが好きです。Twitter:@penguin__night

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