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【たまコラム:太宰治のすべて】第3回:芥川賞を取りたい!/前田沙耶子

      2017/06/06

【たまコラム:太宰治のすべて】第3回:芥川賞を取りたい!/前田沙耶子

『文豪ストレイドッグス』というアニメが始まりました。原作を読んだことはなかったのですが、文豪たちがそれぞれの著作にちなんだ技で異能力バトルを繰り広げるという前情報を聞き、わくわくしながら視聴しました。主人公の中島敦を始め、国木田独歩、与謝野晶子、江戸川乱歩、宮沢賢治などのそうそうたるメンバーが「武装探偵社」の探偵として活躍するというストーリー。それぞれ個性的なキャラクターでとても面白かったです。
太宰治は飄々とした自殺愛好家の美少年で、いつも死に場所を探しています。入水しているところを中島敦に助けられるという強烈な登場でした。能力はずばり「人間失格」。相手の能力を無効化するというなかなかのチート技です。敵対する組織として中原中也や芥川龍之介(!)なども登場するということで、太宰と彼らとのかかわりがどのように描かれるのかがとても楽しみです。

さて、前置きが長くなりましたが今回のテーマは「芥川賞を取りたい!」です。……このタイトルだとあやまり堂さんの「文学賞で大賞をとる」のような内容を想像してしまいそうですが、前回までに少しずつ触れていた、「太宰治がいかに芥川賞にこだわっていたか」について、語っていこうと思います。

芥川賞とは

芥川龍之介賞、通称芥川賞は、純文学の新人に与えられる文学賞です。1935年、芥川龍之介の友人であった菊池寛により直木賞(直木三十五賞)とともに創設されました。雑誌『文藝春秋』昭和9年4月号に掲載されたコラム「話の屑籠」において、菊池がこう語っています。

池谷(信三郎)、佐々木(味津三)、直木など、親しい連中が、相次いで死んだ。身辺うたた荒涼たる思いである。直木を紀念するために、社で直木賞金と云うようなものを制定し、大衆文芸の新進作家に贈ろうかと思っている。それと同時に芥川賞金と云うものを制定し、純文芸の新進作家に贈ろうかと思っている。これは、その賞金によって、亡友を紀念すると云う意味よりも、芥川直木を失った本誌の賑やかしに亡友の名前を使おうというのである。

そしてこの言葉通り、『文藝春秋』は昭和10年新年号において「一、故芥川龍之介、直木三十五両氏の名を記念する為茲(ここ)に「芥川龍之介賞」並びに「直木三十五賞」を制定し、文運隆盛の一助に資することとした。/一、右に要する賞金及び費用は文藝春秋社が之を負担する。」という「芥川・直木賞宣言」を発表し、「同人雑誌を含む各新聞雑誌に発表された無名・もしくは新進作家の作品から優秀なものを選ぶ」「審査は六か月ごとに行う」などが細かく規定がされました。創設当初の選考は、発起人である菊池寛を始めとし、佐藤春夫、谷崎潤一郎、室生犀星、川端康成など、芥川と交流があり文藝春秋とも関係の深い11名によって行われました。

その後芥川賞からは、安倍公房の『壁―S・カルマ氏の犯罪』や石原慎太郎の『太陽の季節』、村上龍『限りなく透明に近いブルー』、最年少受賞記録を持つ綿谷りさの『蹴りたい背中』、そして最近話題になったお笑いコンビ・ピースの又吉直樹の『火花』など、様々なベストセラー作品が生まれました。現在でも非常に権威ある賞として、新人の登竜門的な役割を担っていると言えます。

芥川龍之介への憧れ

前回も述べたように、太宰は芥川のことが大好きでした。ノートには「芥川龍之介芥川龍之介……」と名前の羅列や芥川の似顔絵を描き、髪型を真似してみたり、かの有名な「芥川ポーズ(顎に親指と人差し指を添えたあのポーズです)」をした写真が残っていたり、とにかく心酔していたようです。
だからこそ、高校1年の夏、芥川が自殺したときには大変なショックを受けました。「作家はこのようにして死ぬのが本当だ」と友人らに漏らしていたとも言われており、のちに太宰本人も自殺を繰り返すことになります。ちょうどそのころから芸者遊びばかりする放蕩学生となり、優等生から落ちこぼれていったのは、芥川の死のショックも少なからず関係しているのではないでしょうか。

死の直前に書かれた『如是我聞』という評論においては、志賀直哉のことを「芥川の苦悩を知らない」として痛烈に批判しています。
君について、うんざりしていることは、もう一つある。それは芥川の苦悩がまるで解っていないことである。
日蔭者の苦悶。
弱さ。
聖書。
生活の恐怖。
敗者の祈り。
君たちには何も解らず、それの解らぬ自分を、自慢にさえしているようだ。そんな芸術家があるだろうか。知っているものは世知だけで、思想もなにもチンプンカンプン。開いた口がふさがらぬとはこのことである。(中略)つまり、子供の読物を、いい年をして大えばりで書いて、調子に乗って来たひとのようにさえ思われる。しかし、アンデルセンの「あひるの子」ほどの「天才の作品」も、一つもないようだ。そうして、ただ、えばるのである。腕力の強いガキ大将、お山の大将、乃木大将。
……と、このように、批判と言うかもはや悪口のような言葉で締め括っているのです。志賀の方が太宰を批判していたことが発端であるとは言え、言い過ぎなんじゃないか?と思ったりもするのですが、ここで芥川を引き合いに出してくるあたりにその心酔っぷりが感じられます。

さて、そんな太宰が芥川の名を冠した賞の存在を知ったのは、先述の『文藝春秋』昭和9年4月号でした。この号には井伏鱒二署名の短編小説「洋之助の気焔」が発表されています。大詩人になることを夢見る主人公「私」の過剰な自意識と、それにより巻き起こる悲喜劇を描いたこの作品。実はこれ、多忙に追われた井伏が太宰に代作させ、冒頭の詩などを書き足した小説でした。つまり、奇しくも太宰が携わった作品の掲載誌で、菊池寛が芥川賞の創設を初めて仄めかしたのです。太宰は「芥川賞」の文字に目を見はったことでしょう。こうして、太宰の芥川賞への道がスタートしたのでした。

……というわけで、ちょっと短いのですが、太宰と芥川賞の顛末をひとつの記事にまとめると非常に長くなってしまいますので、今回はここまで。

次回は賞を獲る気満々だったのに落とされた太宰の怒り、逆恨み、選考委員への過激発言などをテーマにお送りします。それでは、第4回もよろしくお願い致します。

<参考>
鵜飼哲夫『芥川賞の謎を解く 全選評完全読破』(文藝春秋、平成27年)
太宰治倶楽部『もっと太宰治 太宰治がわかる本』(KKロングセラーズ、平成27年)
青空文庫 様 http://www.aozora.gr.jp/


たまコライター プロフィール

前田沙耶子(まえださやこ)
tw_sayako
1992年生まれの引きこもり。オカルトと動物と甘いものと三代目魚武濱田成夫が好き。運動ときゅうりと眩しいところが苦手。よく阿佐ヶ谷近辺で酩酊してる。短歌や小説を詠んだり書いたりすることが好きです。Twitter:@penguin__night

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