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【たまコラム:電子書籍の作り方】最終回:電子書籍で変わった“読書”の感覚/未衣子

      2017/06/06

【たまコラム:電子書籍の作り方】最終回:電子書籍で変わった“読書”の感覚/未衣子

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この文章は、以下を目的としています。
★あなたが電子書籍を作ること
★あなたの身の回りの人に電子書籍を読んでもらうこと
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連載の第5回は、電子書籍の専用端末による読書を始めてから、本を読むという体験がどのように変化したのか、個人的に気づいた点について取り上げます。紙の本での読書と、電子書籍での読書。どちらも文字の連なりを追いかけるという観点から、同じ《読書》という行為に分類されていますよね。しかし、実際に双方での読書をしてみると、専用端末でのそれは、これまで紙の本でのみ味わっていたはずの《読書》の感覚に、さらなる広がりをもたらす新たなる体験であるように感じられました。

紙と電子「どちらが良い」とか「どちらが優れている」ではなくて、新しいタイプの読書が、わたしたちの《読書》の感覚をどのように拡張したのか。少しばかりですが、考えてみたいと思います。

ページをめくる快感

一冊の本を読み終えると、素晴らしい物語だったとか、良い知識が手に入ったとか内容の如何の他に、ある達成感をおぼえないでしょうか。すべての読書好きの方が必ずそうだとは言いませんが、本を読む愉しみのうちのひとつに、《ページをめくる快感》というものがあります。1ページ分の文章を読み終えて、紙の端をつまんでめくると、また未知の新たな1ページが現れる。それがどんな厚みの本であったとしても、一冊を読み終えたという境地には、この地道な行為の繰り返しでしか到達できないのであります。

恥ずかしながら、これまでに「本を読むのが好きです」と自称して生きてきた割に、わたしがこの《ページをめくる快感》をとりわけ意識したのは、つい最近のことでした。そして、そのきっかけとなったのは、他でもない電子書籍の専用端末であるKindle Voyageでの読書体験だったのです。

Kindle Voyageという端末は、いわゆるタブレットのような画面の淵に、白く短い線が引いてあります。線の部分を指で軽く押すと、適度に微弱な振動とともに、ページ送りができるようになっているのです。それで、この押し心地がまた、気持ち良いわけですよ。専用端末での読書に慣れるとともに、この振動が、紙の本でいうところの《ページをめくる快感》をすっかり引き受けているのだと気がつき、「なんて上手く作られているのだろう!」と驚いたものです。

このように画面の淵を押してページ送りができる機能は、ひとつ前の機種であるKindle Paperwhiteには搭載されていませんでした。画面の上をさっと指で撫でるとページがめくれるようになっていますから、ページ送りの機能だけが必要であったならば、このような振動はつけ加えなくても構わなかったわけです。しかし、「また1ページ読み切った!」という達成感を触覚でも味わえると、読書はより愉しいものになります。わたしはこれまで、知らず知らずのうちに、本を読んでいるという行為それ自体からも報酬を受け取っていたようです。

本棚に置きたくない本でも、電子書籍なら買える?

人の家に遊びに行ったらまずはこっそり本棚を拝見、なんてことをついしたくなってしまうのは、この《本棚》というのが、過去にその人を構成したかもしれないものを窺い知ることのできるプライベートな領域であるからです。とはいえ、紙の本を陳列する本棚は、わたしたちの生活空間の中に開けて在り、いつでも目に入ります。人様から頻繁に見られるわけではなかったとしても、「お気に入りの本以外は売ってしまおうか」とか、そこに置いてある本の体裁は、ある程度整えておきたくなるものです。

ところで、電子書籍における《本棚》とはなにかといえば、その人の専用端末やアプリの中にある《所有している本のリスト》がそれに対応しています。わたしは初め、「電子書籍なら、買う時も保管する時もまるで一切人目につかないのだから、これまで購入を躊躇していたような本でもバンバン買えるな」と考えました。そして実際に使ってみると、これまでに「読んでみたいけど、手元に置くコストがかかるから」と躊躇していた本にまで、手が届きやすくなったのを感じました。

とはいえ、しばらく利用してみると、電子書籍の《本棚》の中身もそれはそれで整えておきたくなってきたのも事実です。なぜなら、Kindleの画面の左端に「××さんのKindle」と本名が表示されているのに気づいてしまったから……。ふと、想像しました。もしもわたしが、なにかの拍子にこの端末を落としてしまったら? 誰かに中身を見られてしまったら? もちろん、見栄をはるための《本棚》ではありませんが、ふいに自分のプライベートを露呈させてしまう可能性について考えてみたら、電子書籍の《本棚》だって適当にしておくわけにはゆかない、と思い始めたのでした。

読書はひとりでするもの、でなくなるとき

わたしは音楽を聴きに行くのが好きです。月に何度か、ライブを聴きに行ったり、クラブへ遊びに行ったりします。こうして大きな音で音楽が流れる空間に足を運ぶとき、いつも思うのは、「音楽をやる人は、みんなで一緒に盛り上がれるから、いいなあ!」ということ。もちろん、人前で演奏している方々は、この華やかなステージに上がるまでは自宅にひとりで技術を磨く時間を過ごしていたに違いありませんし、まったく性質の違う芸術にないものねだりを感じるのはナンセンスでしょう。それにしても、わたしがいつもやっている読書だとか、小説を書くだとかの行為では、大勢の人と・同時に・アガるということができない。

――なんて思っていたのですが、Kindle Voyageで読書をしていたとき、「これって、読書中に大勢の人と・同時に・アガってるじゃん!」と驚くべき機能があるのを知りました。その機能は、“ハイライト”といいます。ハイライトの基本的な使い方は、自分が読んでいる本の中で気に入った箇所に、印をつけること。たとえば紙の本を読んでいる最中に、ラインマーカーで線を引くようなイメージで、電子書籍に印を残すことができます。この機能について注目したいのは、《自分と同じ本を読んだ世界中の読者が、どこにハイライトをつけたのかが、ひと目でわかる》という点です。読書をしていると、本文中のある部分に傍線が引かれていて、その脇に「25人がハイライト」なんて表示されている。これはつまり、世界中の同じ本を読んだ人たち25人と、「わたしたち、この一文でアガりました!」という喜びを共有しているということです。

古本屋で買った本に、以前の所有者が引いたラインやページを折った跡がついているのを発見した経験はないでしょうか。ひとりでしているはずの読書に、いつの間にか他者が入り込んでいてぞっとする感覚。ハイライトの機能は、そういった、ひとりでは味わえない読書の楽しみを提供してくれます。

とはいえ、わたし自身は結局、ハイライトを非表示にしてしまいました。あれだけ「みんなで一緒に盛り上がれたらいいな!」などと抜かしていたのに。自分で「良い」と判断する前に、大勢に肯定されている箇所を視野に入れてしまうと、頭の中に都合の悪い偏見が生まれてしまうような気がして、おそろしくなってしまったのです。情けない……。そうはいっても、ハイライトは面白い機能ですよ。興味のある方はぜひ、一度ご自身で見てたしかめてみてくださいね。

おわりに

今回は、電子書籍での読書体験についてお伝えしました。この連載は、今回が最終回となります。これまでお読みいただいたみなさん、長らくお付き合いいただきまして、どうもありがとうございました。またどこかでお会いしましょう。これからもお互いに良い読書ができますように!

たまコライター プロフィール

未衣子(みいこ)
未衣子
埼玉県で小説を書いている25歳の女。Twitterとハムスターとインドカレーが大好き。本業はライター。フルタイムで、人に読まれるかもわからない無記名の記事を書いては、退勤後に小説を執筆している。サークル「さいたま養豚場」では主に文学フリマ東京に出展。人格と作風の乖離による売り込みの困難さを常に実感している。Twitter:@315meow

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小説家のたまごが気になるテーマごとに、担当たまコライターが数回から十数回程度のコラムを、連載形式でお届けします。

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