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【登場人物の名前の付け方】世界観に沿った名前を/リリー

      2016/03/30

【登場人物の名前の付け方】世界観に沿った名前を/リリー

二人寄り添って散歩をするのが、私たちの結婚して以来の日課だった。その日も、妻のサオリを具して、いつも通りに散歩を楽しんでいた。
変わらない景色は、私を安心させる。決して裕福ではないが幸せな日々を味わい尽くすように、特に変化のない情景を享楽していた。
不意に大きな黒い影が私たちに襲いかかった。それは私とサオリとをすっぽりと覆い、体の自由をすっかり奪ってしまった。私は情けなくもがき、どうにか逃れようとしたが、なぜだかこの影は、私の体に絡みついて離れない。どうやら何者かに身柄を拘束されているらしい。サオリも同様らしく、すでにぐったりと身を横たえている。
急に視界が白くなった。日の当たる場所に引きずり出されたようだ。どうも息苦しい。毒ガスでも出されているのだろうか。
脳に酸素が回っていないためか、ぼんやりと霧がかかったようになっている思考の中で、サオリの姿を探した。そしてようやく彼女の姿を見つけた時、私は思わず、おお、神よ!と祈りたい衝動に駆られ、声にならない叫びを上げた。
彼女はすでに捕らわれていた。よく目を凝らすと、サオリの体の自由を奪ってほくそ笑んでいるのは、かの不倶戴天の敵ではないか。
私の祖父母も、かの者の手によって殺されたと聞いている。そしてそれを私に話して聞かせ、よくよく気をつけるように、と説いた両親もまた、祖父母と同様に、殺されていた。
その言いつけを破ろうはずもなかった。しかし、過ぎた贅沢をしたわけでもなく、ただ日々のささやかな幸福を噛みしめていただけでこのような目に遭うなど、誰が想像しただろう。
私たちの日常を、幸せをあざ笑うように、かの仇はサオリの息の根を止めんとしていた。サオリの口元が、苦しげにうち開かれているのが、私のいる場所からも窺えた。
サオリの首根っこをしっかりと押さえ込んだかの悪魔はニヤリと笑うと、一気にサオリの体を切り割いてしまった。サオリの口がパクパクと無力に開閉する。私はいくらかこの敵に何か報いてやらないと気が済まない、と激しい憎悪に駆られたが、呼吸すらままならない私にそこまでの気力はもはや残されてはいなかった。
徐々に意識が薄れていく。視界がブラックアウトする寸前に見えたサオリの顔は、微笑んでいるように見えた。朦朧とする頭の中に、こんな声が流れ込んできた。
「いやー、やっぱりとれたての魚は刺身で食うのが一番だな!」

 

実は、私は登場人物の名付けに対してあまり頓着しない。凝った恰好良い名前をつけたり、伏線を仕組んだり、そういうことはあまり得意ではない。ただ一つ、名付けの際に気をつけているのは、自分の書きたいものを邪魔しないように、ということである。
先に挙げた短編には、主人公とその妻・サオリは実は魚だった、というオチがある。このオチが、途中で読者に悟られてしまってはつまらない(頭の良い方は察されたかもしれないが)。だから、わざと人間らしい名前をつけたのだ。
ファンタジー世界の魔王の名前が「山田こうすけ」だったら、名前だけが地に足が着きすぎている気がする。逆に、日常が舞台の作品の主人公が「如月瑠依斗」なんていう名前だったら、そこだけ浮いたようになってしまう。そのようなことがないように、世界観と釣りあった名前をつけるというのが、私の名前の付け方である。

あとがき

西尾維新さんなどの名付けのうまい方を見ると、すごいなあと思います。名前すらも世界観の一部にしてしまわれていますよね。
私はそんなに器用なことはできないので、せめて世界観を邪魔しないように、ということを心がけています。

たまごライター プロフィール

たまごライター:リリー
writer_riri_100大学二年生で、漢詩を中心に文学を勉強しています。好きな作家は重松清と谷崎潤一郎、好きな詩人は陶淵明と李賀です。将来は作家でなくても、文学を楽しみ、それにいつでも触れていられる立場にいたいと思っております。文章を書くことは、一生やめません。そうしておばあちゃんになった時にでも、世間から評価されれば、というスタンスです。よろしくお願いします。

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