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【たまごライターおすすめの小説】「夜の果て」をかいま見る/徒川ニナ

      2015/03/08

【おすすめの小説】「夜の果て」をかいま見る/徒川ニナ

以前このサイトでインタビューを受けた時、「好きな小説は?」という設問に「吉本ばななさんの『白河夜船』」と答えた。
「好きな小説」と「おすすめの小説」は必ずしもイコールではないが、今回はこの本との出会いが私にとってどれだけ印象深いものだったのかを語りながら、自然に、且つあからさまに、小説「白河夜船」のおすすめ具合を力説したいと思う。

まずはじめに述べておくが、「白河夜船」というタイトルで発行されているこの本は短編集である。表題作「白河夜船」の他、「夜と夜の旅人」、「ある体験」の三篇からなっている。
どの作品もとても素敵で印象深いのだけれど、やはり私の心に一番響いたのは「白河夜船」だった。
引用とネタバレをできる限り避けて話すと、この小説の主人公は何だか宙ぶらりんで、社会的に寄る辺の無い所に生きている。
恋愛こそしているけれど、相手との関係は一口では語り尽くせない程複雑で、「この恋は淋しさに支えられている」と彼女は作中で語っていた。
そして愛する恋人に、『昔からの親友が亡くなったこと』を伝えられないまま二か月の時が過ぎてしまったという。

私が特に惹かれたのは、作中にたびたび出てくる眠りの描写だ。
このお話の主人公はとてもよく眠る。
そして次第に夢の世界と現実との境界が曖昧になっていく。
その何ともいえないふわふわ感が真に迫っているのだ。

私は自他ともに認めるロングスリーパーで、放っておいたら十二時間位眠ってしまうのだけれど、その最中、しばしば自分が今立っている場所が夢なのか現実なのかわからなくなる。
自分が今何歳で、どんな社会的立場にあって、今日は何をする予定だったのか、まるっと忘れてしまうのだ。
高校生になって「学校行きたくねー」とのたうちまわったり、社会人になって「仕事行きたくねー」と駄々をこねたりする。
目が覚めた後も、夢の世界と現実との差異を自分に納得させるのに少し時間がかかるので、いよいよ私もこの主人公のような状態になってきているのかもしれない。

タイトルの「白河夜船」は「何が起きても気が付かないくらいぐっすりと眠っている状態のこと」を示す言葉だという。
このタイトルや、地の文の端々に、私は夜の底知れぬ深さと寂しさを感じる。
主人公が生活の中で感じる「夜の果て」。
どこまでも果てしなく広がっているその光景が、私の心を突き動かすのだ。
あまりの美しさに私は呆気にとられて、何をすることもできなくなる。
それぐらいこの小説との出会いは私にとって衝撃的だった。

というわけで、この場を借りて、私にこの本を勧めてくれたKに改めてお礼を言おうと思う。
あれは確か中学校二年生の時。
何を隠そう、私が生まれて初めて触れた純文学小説が、この「白河夜船」だった。
好きな漫画も好きな音楽もだだかぶりの彼女が力説してくれなければ、私はこの小説に触れることなく一生を過ごしていたかもしれない。
そしてこんな風に文章をしたためることなくただうすぼんやりと生きていたかもしれないと思うと、どれだけ礼を言っても足りないと思う。本当に有難う。

そして何と嬉しいことに、この「白河夜船」という作品が長い時を経て、今、まさに今!映画化されたのである。
4月25日公開ということなのだが、私はこの映画にとんでもなく期待している。
というのも、よしもとばなな先生が、この作品の試写を見て「完璧な映画化」と形容しているのだ。
そう言われては、見ないわけにはいかない。

『どれくらい眠ったら あなたと同じものが 見えるんでしょう』

公式サイトには、作品を象徴するようなコピーが躍っていた。
よろしければ皆さんも、原作と映画をあわせて見た上で、その完璧な映画化具合を堪能してみてはいかがでしょうか。

あとがき

「おすすめの小説」というテーマに悩んだ挙句、何だかうまくない読書感想文のようになってしまいました。

このお話のストーリーラインや人物設定は、できることなら皆さんの目で確かめて頂きたいです。
きっとそこには少なからぬ感慨と感動があるのではないかと思います。
そう確信せざるを得ないくらい、私にとっては思い入れが強く、大変愛おしい作品です。

しかし、こうやっておすすめを提案しあうというのはとても面白い試みですね。
他のたまごさんがどんな小説をおすすめして下さるか、今からとても楽しみです。

それでは。皆様もよき夜とよき眠りを。
もし夜の果てに行き着いてしまっても、再びこの場所で再会できますように。

たまごライター

たまごライター:徒川ニナ
writer_nina_1001987年生まれの静岡県民。自分の書いた文章を一人でも多くの人に読んでもらうべく活動中です。守備範囲は純文学からラノベまで浅く広く。時にエッセイも嗜みます。音として美しい日本語を日々研究中。Twitter:@adagawa_n

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